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蒸気大革命  作者: あさま勲
三日目
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36

ようやくタイトルに繋がりつつあります。

 動き出した教団の浮揚船を眺める。

「で、ソラよ。あまり時間はないが、作戦はあるのか?」

 ヒスイの問いに、クーはラセルに視線を向ける。

「先生。この工房が壊された際、教団の者が何人船を降りてきましたか?」

「降りては来なかったな。ただ教団の息がかかった錬金術師共が数人来よったわ。工房の外で爆薬を使ったらしく驚いて出て来たら、連中が空に浮かぶ浮揚船を指さし『命が惜しくば全員表に出ろ』と。とりあえず従ったら、浮揚船の放った光が工房を焼いた。水晶に火がついてしまった以上、もう手は付けられん。あれが伝承にある破壊の光……か」

 ラセルの言葉から察し、教団は大人数で統連に押しかけてきたわけではないらしい。浮揚船を持ち出し、周囲を威圧してはいるが、実際、現場に出られる人間は多くないようだ。

 何より、錬金術師が多数いる統連においても、この工房にやってきた錬金術師は僅か数人。教団の影響力は、ここ統連に置いては、さほど強くはない。

 破壊の光については、クーも文献で読んで知っている。

 月との往来が頻繁にあった何百年も昔。反抗する勢力に向け、教団の浮揚船から容赦なく放たれたとも。

 何より、できる事なら、それを自分の目で見たかったとも思っている。

「大混乱以後、ここ百年の記録から察し、撃てて、あと二発。もう打ち止めの可能性もありますが、恐らく切り札に一発は残しているかと思います」

 かつては無尽蔵に放たれていたらしい破壊の光も、ここ百年の記録を見ると一度の戦いでは多くて三発しか放たれていない。

 その三発は、ここ統連へ向けて放たれたのだ。

 浮揚船同様、錬金術の産物である賢者の塔は、その三発を防ぎきり、この島の錬金術師たちは火薬を用いた大砲で浮揚船に反撃、そして撃退したのだ。もし、破壊の光が無尽蔵に撃てたのであれば、統連は陥落していたはずだ。

 その際、統連は反教団で結束したが、百年の月日が統連の結束を弛めた。

 今の統連には、あわよくば教団に加わりたい錬金術師もいるだろうし、そういった者たちにとって、今回の一件は、教団に取り入る格好の機会だろう。

 月との交易を独占されている手前、教団を経由しなければ手に入らないような素材もあるのだ。

 そのため、研究が思うように進まず、教団を良く思わない錬金術師も多数いる。

 クーの頼みは、教団に不満を持つ彼らなのだ。

 ここで、クーが造った浮揚船を飛ばせてみせれば、そういった錬金術師たちなら味方に付いてくれるかも知れない。

 何より、クーの持つ浮揚船は、ここ統連の技術で再現可能なのだ。

 カーボライトの精錬は禁忌とされているが、高位の錬金術師ならば不可能なわけではない。何より、クーの浮揚船に使われているカーボライトは、新たに新造された物なのだから。

 一部の錬金術師は、カーボライトが浮揚船の核として使われている事を知っており、そして賢者の塔に置ける階層ごとの移動手段には、カーボライトを利用した昇降器も使われている。

 浮揚特性しか無いカーボライトであっても、蒸気推進器でもって推力を加えれば比較的容易に月にも辿り着ける。

 昨日、ラセルが行った昇宙汽械の実験は、カーボライトなど使用していなかったにも関わらず、空高く視界の彼方まで跳び去っていったのだ。

 つまり、月へ行く方法を模索する者たちにとって、クーの浮揚船は、ひとつの実現可能な回答なのだ。

「ともかく、教団の浮揚船の前で、僕の浮揚船を飛ばせてみせる事かな。加速性能と旋回性能は、恐らくこっちが上だと思う……」

 確証はないが、文献を当たった限り、そう判断できる。

 問題は、飛行試験を、まともに行っていないため、狙い通りの性能が出せているか判らない点だ。

 だが、賭けるしかない。

 飛行汽や飛行船を数多く造り、ノウハウも積み上げてきたのだ。模型による飛行試験も上手く行った。だから勝算はある。

「エンナ様は、どうなさる気ですか?」

「汽械推進の浮揚船に注意を集めてる間に、僕が賢者の塔に降りて助け出すよ。状況が許せば、塔まで迎えに来て欲しいけど無理は言わない。とりあえず、塔の錬金術師たちに、汽械術を組み込んだ汽械式浮揚船を紹介してみるよ」

 レイハの問いにクーは答える。

 教団が強引な手を打ってきた。つまり、ソラやラセルの蒸気推進汽を危険視していたという事に他ならない。そして、ラセルの工房は壊されたものの、ここ統連の錬金術師たち、その中核を担う賢者の塔の錬金術師たちは関わっていない。

 ならば、クーの言葉に耳を傾ける者も少なくないはずだ。

 それが、クーの出した結論だった。

 状況を都合良く解釈しだだけという自覚はクーにもあった。だが、状況は刻一刻と変化してゆく。確証が持てるまで待っている時間など無い。

「興味を持つ錬金術師はいるはずだ。そう確信したからこそ、ワシは、あの昇宙汽を造り、打ち上げ試験を敢行したのだ」

 状況から察し、ラセルは資金援助も受けず、自らの資金のみで昇宙汽を造ったはずだ。あれだけの規模の汽械だ。ラセルは資産の大半を注ぎ込んだ事だろう。

 そこまでする以上、カーボライトの精錬が可能な錬金術師がラセルの計画に乗ってくれると、その確信はあったはずだ。

「つまり、ラセル様とソラ様は、いずれも勝算があると考えているわけですね?」

 クーは、言葉を発したギンに視線を向ける。

「姿が変わっちゃったし、クーでいいよ。で、ギンさんは、どう思うのかな?」

「わたしも、勝算はあると考えております」

 ギンの言葉に、クーは大きく息を吐いた。

 錬金術師たちの内情に詳しいギンが、そう結論を出したのだ。いや、ギンは最初から、そう思っていたのだろう。なら、悩む必要など無い。

「ゲンザとレイハで浮揚船を飛ばし、もう浮揚船は教団の専売特許じゃないって事を統連の錬金術師たちに見せてあげて。拙いと思ったら逃げてくれればいい。たぶん騒ぎになるよ。そうなれば教団も統連に長居はできなくなると思うから、そしたら戻ってこれると思う」

 汽械でカーボライトの性能不足を補える。それを示せるだけでも意義はあるのだ。

「若旦那抜きじゃ浮揚船は本来の性能は出せません。意地でも、お迎えにあがります」

 レイハは言う。

 汽械式浮揚船が本来の性能を出すには、舵に機関、そしてカーボライトと三つを同時に制御する必要があり、それには三人が必要になる。

「無理はしないでいいし、教団の浮揚船相手に喧嘩をする必要もない。無理だと判断したら構わず逃げてくれて構わないよ」

 クーとしては、ここで浮揚船を飛ばせば、目的を、ある程度、果たせると考えていた。

 現行の技術でも、月との往来に使える浮揚船は作成可能である。それを今の統連で示せば、革命と呼べるだけの流れを作り出す事ができるのだと。

 だから必要以上に危険を冒す必要はない。

 エンナの事に関しては、自分が絶対に譲れない一線だ。

「嫌ですっ!」

 レイハは頑なに譲らない。

 この件は、レイハにとって決して譲れない一線なのだろう。それはクーにも理解できる。

 クーはゲンザに視線を向けると、ゲンザは諦めたように笑った。

 汽械式浮揚船は一人だけでは満足に飛ばせない。相応に速度を出すためには、機関と舵、この二つを同時に制御せねばならず、最低でも二人は必要になる。つまり、レイハの力は浮揚船を飛ばす上で必須なのだ。

「わかった。エンナと一緒に賢者の塔から逃げ出すから、上手く拾ってね」

 クーも諦めたように言った。折れざるを得ない状況だ。

「わたしが若旦那だけ拾って逃げる可能性は?」

 意地の悪いレイハの言葉に、クーは思わず笑ってしまう。

「僕の大好きなレイハが、そんな酷い事をするなんて思ってないから大丈夫!」

 だから、クーは笑顔で、そう言ってやった。

 顔を赤らめた後、一瞬だけ泣きそうな顔になりレイハは俯く。

「若旦那は酷い人ですね……」

 レイハの言葉に、クーは沈黙で答える。酷い人だという自覚なら、今はあるのだ。

「……でも、大好きです」

 その言葉が、クーの胸を痛ませる。

「ゲンザとレイハで空港に向かい、ラセル先生の飛行汽で船に戻って浮揚船を飛ばす。僕は、ヒスイの飛行船で高度を稼いだ後、箒でエンナの元に向かう」

「承知」

 クーの言葉に、レイハは黙って頷く。それを見届けたゲンザが言った。

 そしてゲンザは、ラセルに飛行汽の場所と操縦方法について質問を始める。

 ともかく、方針は決まったのだ。

書き始めた時はなかった設定とか執筆再開と同時に付け足されました。

とりあえず最後まで書いてから手直ししたいと思ってますが、全面改稿なんてやってられないので加筆修正でなんとかしたいと思います。

なんだか書いててクーが嫌いになってきたよ……


昔書いた部分の手直しもやってますが、設定煮詰まってなかったのを承知で書いていたせいか、世界観には深く踏み込んだ部分が無く文体を弄るぐらいで大がかりな修正の必要はありませんでした。

自分の頭の中では、ずいぶん設定が変わってしまったので、相当弄らないと駄目かと思ってたんですが。

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