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昔、ソラから見せて貰った統連の地図。その記憶を頼りに空を飛ぶ。
確かラセルの工房は空港近く。だから、街と空港を結ぶ道に沿って飛べば、あの特徴的な汽械馬車なら、すぐに見つかる、そう思っていたのだが甘かった。
「若旦那……一体、どこにいるの?」
箒は小型飛行汽故に、そう長時間、飛べるわけではない。早く見つけないと、船に帰れなくなってしまう。
それに、こんな雨の中、飛行汽を飛ばせば自ずと目立つ。もう教団に、目を付けられてしまったかもしれない。
何よりも、空港近くにあるラセルの工房から炎が立ち上っている事が、レイハの不安を煽る。
「まさか……」
レイハは呟く。
クーはラセルの工房に向かった。そしてラセルの工房から炎が立ち上っている。つまり、これはどういうことか……
レイハは、ラセルの工房に機首を向け、一気に気体を加速させた。
レイハの視界に、空港から飛び立つ一隻の飛行船が目に入る。その気嚢には、錬金術の象徴である尾を食む蛇の紋章。
教団の飛行船かもしれないが、飛行汽が鈍重な飛行船に遅れを取ることはない。
まずは、一刻も早くクーを見つけることだ。
燃えるラセルの工房の上を旋回し、様子を伺う。何人かが固まっているのは見えるが、クーらしい人影は見えない。
そして、見える人影は、様子から察する限り、教団の手の者ではなさそうだった。
レイハは、一瞬躊躇した後、ラセルの工房へと降りることに決めた。