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2/4 加筆修正しました。
港の気配が、なにやらキナ臭い。
船の操舵室から、周囲を見ながらレイハは思う。
表だって不穏な気配はない。が、目では見えない何かが違っていた。その正体を見極めようと、レイハは雨の降る中、甲板へと出た。
理由はわかった。本来、居るべき者たちが居ないのだ。
雨が降っているため、人が少ないのはわかる。だからといって、船の周りにある作業汽械が全く動いていないことの説明にはならない。
そして港からも見える統連の象徴とも言える賢者の塔。その直上を、教団の浮揚船が覆っていた。
クーの言葉に寄れば、賢者の塔と教団は、折り合いが良くないらしい。にもかかわらず頭上に教団の浮揚船を待機させるという事は、賢者の塔が教団に屈したという事なのだろう。
「どうする……?」
レイハは呟き、そして決断した。
舳先へ行き、港と船を繋ぐロープを解く。間もなく引き潮だ。これで、船は引き潮に乗って流され港を離れるはずだ。あとは、クーとゲンザが港に戻る前に、何とか連絡を付け、別の場所で落ち合うこと。
ここでは駄目だ。きっと見張られている。二人は、きっと船に辿り着けず捕らえられてしまうだろう。
レイハは急いで船倉に駆け込むと、分解してあった小型の飛行汽を組み立て始める。
ソラが、箒と呼んでいた小さな飛行汽。昔話に出てくる魔女の箒のように、またいで乗る、本当に小さな飛行汽だった。自力で離陸できる作りではないが、この小さな作り故に船に積まれた飛行汽だ。
機体と翼を別々に組み上げ、甲板へと出す。そして機体に翼をとりつけた。動力源である汽罐部は機体の後ろ。そこに、推進力を生み出すプロペラが取り付けられている。
燃料である水晶、汽械の力の源とも言える水。その二つが満たされていることを確認すると、レイハは大きな背嚢を背負って、風よけのゴーグルを被った。
港へと目を向ける。船は流されてはいたが、まだ港から、それほど離れているわけではない。そのためか、こちらへ船を差し向ける、といったことはしていないようだ。
「浮遊船を持ってるからかな……」
レイハは呟く。
浮遊船を使って、空から追われたら到底逃げ切れない。それ故に、教団は余裕を見せているのかもしれない。
レイハは箒に跨り、背嚢と箒を丈夫な革紐で繋ぐ。そして、背嚢から伸びる一本の紐を引いた。
背嚢の中に入った薬品が、水晶……結晶化した水素を気体へと戻す。爆発的に体積を増やした水素は、背嚢に取り付けられた気嚢を大きく膨らませた。
箒を両手で強く握りしめるレイハ。次の瞬間、レイハの足が甲板から浮いた。
見る見るうちに、レイハの体が空へと浮かび上がっていく。ある程度の高さに達した段階で、レイハは箒の汽罐に火を入れた。
火薬を用い、水晶に着火。高温で燃焼する水素によって、水は瞬時に沸騰、水蒸気となって膨張する。その圧力が汽械の動力源となる。
大きく深呼吸すると、レイハは背嚢から気嚢を切り離した。そして、落下しながら機関の出力を目一杯まで上げる。
翼が風を掴む感触。レイハは気体を立て直すと、クーを探しに統連へと向かった。
こんな小さな飛行汽でも、クーぐらいなら一緒に乗せて飛べる。そして、クーが居れば、船に積まれた浮揚船を飛ばすこともできる。
まずは、クーを船に連れて戻ること。それが、レイハの第一目標だった。




