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2/13 執筆再開後の設定と内容に合わせて微修正加えました。
扉の向こうには、見張りがふたり。
知らぬ存ぜぬで通せば、こんなことにはならなかった。
しかし、クーやヒスイ、ギンから聞かされた話。そのおかげで、教団の思惑がわかってしまった。それを言及した結果が、この有様。
ギンもヒスイも、こういった事態を考え、気を付けろ、迂闊なことは言うな。そう警告したのだろう。
エンナは溜め息をついて、部屋を見回す。
狭い部屋だ。禁忌に触れた錬金術師などを、一時的に閉じこめておくための部屋。
そういった部屋があることは、エンナも知っていた。だが、その部屋を見るのも、入るのも、無論これが初めてだ。
統連とは直接、関わりを持たない教団だが、その影響力は、この賢者の塔の中にも及んでいた。
教団の顔色を窺うような弱気な錬金術師が、エンナの監禁を進言したようだ。そんな臆病者に、こういった部屋に押し込まれるのは屈辱だった。
錬金術師の数、そして施設の規模や量では、統連は教団より上だ。恐らく、高位の錬金術師なら、技量でも、教団の錬金術師にだって引けはとらない。にもかかわらず、教団に逆らったため自分は、こんな所にいる。
理由なら見当はつく。
統連は、一枚岩の組織ではない。そもそも、組織と呼べるほどの纏まりすらない。大勢の錬金術師が集まり、各々が好き勝手な研究をやっている。それに対し、教団は纏まった、一枚岩の組織。
教団が本腰を入れたら、連携の取れない現在の統連では、到底、対抗できない。
エンナは、部屋のベッドに腰掛け、そして仰向けに横になる。
教団に話したのは、ソラの死の理由。そして、教団が何を恐れているか。それだけ。
クーやヒスイ、そしてギンの事は話していない。彼らに累が及ぶことは、今のところ無いだろう。
「失敗したなぁ……」
天井を見上げながら、エンナは呟く。
上手くやれば、こんな事にはならなかった。
元々、月へ行きたいと思っていたわけじゃない。ラセルのために水晶を精錬したのも、自分を高く評価してくれたから。
自分の現状を考える限り、ラセルは、もう、あの実験は続けられないだろう。それを気の毒だとは思うが、自分には、直接、関係はない。
問題は、自分がどうなるか。
エンナは溜め息をつく。
もう、どうでもいい。
何か、やりたいことがあったわけでもない。目的も、今は特にない。統連の外にも憧れたが、ソラの死を告げられて以来、そういった気持ちも無くなった。思い返してみると、自分は、ソラと一緒にいたかっただけなんだと思う。
クーの事を考える。
よくわからない男の子だった。汽械術について、かなりの知識を持っていた。ソラに似た雰囲気から、ソラの弟と言われ信じたが、そんな話は聞かされていない。ソラの友達だったと言っていたヒスイも、クーのことを知らなかった。
ギンが不審に思うのも、よくわかる。でも、紛れもなくソラの弟だ。昨日の検査の結果は、両親共に同じでなければ、まず出ない結果だ。
「あっ!」
ソラの母は、ソラが幼い頃に死んでいる。エンナは、そう聞かされた。もし、それが事実なら、あんな結果が出るはずがない。
ソラとクーの年齢差を考えれば、両親共に同じということは、絶対に有り得ないのだ。
クーの言動を思い出してみる。まるで、統連を、よく知っているかのように、エンナの手を引いて歩いていた。仕草も癖も、ソラによく似ていた。そして、汽械術には、年齢を考えれば、異常といえるほどの知識を持っていた。
血を調べたとき腕にあった傷。あれは、昔、エンナが付けた傷。
「ソラさん……!」
まず、間違いない。なぜ、あんな姿になったのか、まったく見当はつかない。でも、間違いなく、クーはソラだ。
気づくのが遅すぎた。気づけるだけの材料は、十分、出そろっていたのに。邪魔の入らない場所で、話をしたがっていた理由もわかる。でも、こうなってからでは遅い。
「どうしよう……」
エンナは呟く。
もう、どうにもできない。




