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蒸気大革命  作者: あさま勲
三日目
23/50

23

 雨の中、ゲンザがゆっくりと汽械馬車を走らせる。

「坊、何か考え事でも?」

 ずっと、黙りこくったままのクーに、ゲンザが声をかける。

「色々と」

 曖昧な返事を返し、クーは大きな溜め息をついた。そして、言葉を続ける。

「事態は、好転してるんだか、悪化してるんだか……」

 父や、自分と同じ事を考えていた汽械術師はいた。そして、少ないものの、好意的な考えを持つ錬金術師もいる。

 エンナの父やヒスイ。統連全体を探せば、恐らく、もっといるだろう。

 幼い頃から、皆、月の世界の話を繰り返し聞かされているのだ。昔は、比較的、当たり前に行き来できた。でも今は、限られた、ごく一握りの者しか月へは行けない。月の世界の話など、もう、おとぎ話の中。

 ただ、それを良しとする者たちは、決して多くはない。そう、信じたい。

 そして、ギンの話。

 教団を甘く見すぎていた。気づかぬ間に毒を盛られた。そこで気を付けるべきではあった。汽械術師に直接の影響力を持たないだけで、その力は決して侮れない。特に、錬金術師に対する影響力は、計り知れない。

 統連にいる多くの錬金術師。そして、美原見の家など半ば教団と対立している錬金術師たちもいるが、教団と表立って事を構えられるとは、正直、思いにくい。

 しばらく流れを見た方がいい。クーは、そう結論を出す。

「ギンに、言われたことですか?」

 教団の情報は、ここではギンからしか聞かされていない。

 クーは、こたえない。その沈黙の意味は、肯定。

「ギンを、信用できるとは思えません」

 ゲンザは言う。

「美原見の家は味方だよ。まあ、正確に言えば、敵の敵なんだけど。だから僕は、教団の圧力下で、ミスリルや水晶を手に入れられた。実は、資金面も、あそこの援助を受けてた」

 少しばかり、楽しげな口調でクーは言った。これは、まだゲンザにも知らせていないこと。

「ですが、エンナお嬢さんの、お父上は……」

「あれは、教団に目を付けられないための演技。そもそも、あの人の工房の規模じゃ、浮揚船に使えるだけのカーボライトは創れないよ」

 クーの浮揚船に使われているカーボライトは、幅三メートル、長さ八メートルの長方形の板状。それが二枚。こんな大きさの物が創れる錬金術の工房など、王都には無い。

「ひょっとしたら、ギンは、僕の正体にも気づいてるかもね」

 今、思えば、自分の言動には、かなり問題があった。おまけに血まで調べられた。気づかれても、おかしくはない。

 もし、正体を見抜かれた上でギンが敵に回ったら……。そう考え、クーは小さく笑う。その時は、もう終わりだ。打つ手など無い。

「なにやら……、通りが騒がしいですな……」

 馬車を操るゲンザが呟く。クーが外に目をやると、雨が降っているにもかかわらず、多くの者たちが通りに出て、空を見上げていた。見上げている方向は、飛行船や飛行汽の発着場。

「雨の中、飛行船を飛ばしてる?」

「あれは……浮揚船……ですな。とすれば、教団が動いたのですかな?」

 クーの問いに、ゲンザが躊躇いがちにこたえる。

 その言葉に、クーは濡れるのも構わず、馬車の外に身を乗り出して空を見上げる。

 空には、巨大な物体が浮かんでいた。

 直径百メートルほどの巨大な円盤。そして、船体には、大きな尾を食む蛇の紋章。

 今、存在する飛行汽械の中に、あのような形の物は存在しない。揚力に頼って飛ぶ汽械とは、全く異なる方法で宙に浮いているのだ。

 教団の持つ、浮揚船の一つだった。

 浮揚船は、その巨大な船体を、ゆっくりと空港へと降ろしていく。

「若旦那……」

 ゲンザは、途方に暮れたように言う。

「たぶん、ラセル先生のところへ行くんだと思う。今のところ、僕たちとは無関係かな……」

 そう言い、クーは大きく溜め息をついた。

 ソラが行っていた蒸気推進汽械の実験。それも、関係しているのかも知れない。

 月を目標としていることを、隠していたわけではない。隠していたのは、カーボライトを所持し、それを用いた汽械を造ろうとしていたこと。

 コストさえ度外視するのであれば、カーボライトは必要不可欠というわけではない。ソラも、ラセルと似たようなことを考えてはいたのだ。

 ただし、理屈の上では可能らしい、その程度の問題で、まだ月に手が届く段階ではない。そして、仮に月に手が届いたとしても、コスト的な面の解決は、はっきり言って難しい。

 教団の保有する浮揚船。それと競い合う事など、到底、できない。

 だからこそ、ソラは蒸気推進汽械の作成、そして、その目的を隠さなかったわけだが。

「どうします?」

 ゲンザに問われ、クーは考える。

 わざわざ浮揚船を持ち出したということは、教団の示威行動としての意味もあるのだろう。

 飛行汽械を扱う汽械術師としても、ああも簡単に空に浮かれては、自分の造る飛行汽械が馬鹿みたいに感じられる。

 そして、錬金術師たちに対しても、失われた技の産物を見せつけることは、教団の力を示す上で、決して無意味ではない。

「とりあえず、このままラセル先生のところへ」

 クーは、そうゲンザに告げる。

 兎も角、すぐにラセルが、どうこうなることは無いと思う。自分の時も、とりあえずは、警告があったのだ。

 教団の出方を見て、次の手を考えよう。

最後の山場で、この小説を書くのを止めたのは、カーボライトを現行の錬金術師が再現できない理由付けができなかったからなんですね。

別段、この作中で明らかにする必然性は無いので、そのまま書き進んでたわけですが、SFなんてのは作者が世界観を納得できていないとテンション下がっちゃうんですよね。

当初の予定では、正常に稼働できる本物の浮揚船は教団のみで、正常に稼働できなくなった本物の浮揚船なら他に複数あるはずでした。

ただ、その説明ができなかったんですね……自分を納得させるための。

PCからデータを発掘し読み返し、自分が納得できる理由付けができましたので最後まで書こうという気持ちが戻りました。

これ書き始めた際、書いているウチに理由なんか思いつくという見切り発車的な思いで書き始めましたからね。

問題は、やっぱり内容的に、作中で理由は明かせないんですけどね。

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