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資料を手渡すと、シルバは、早々に自室へと引き上げていった。
塔の食堂。そこで朝食をとりながらエンナはクーのことを考える。
今日、クーは自分のところにやってくるだろうか? そう考えるが、昨日の事を思い出し、今日はクーは来ないだろうと思った。
ヒスイの汽械馬車。その改造をするといっていた。どこかの工房を借りてやるのだろうが、その工房の場所を、聞いておけばよかったと、エンナは後悔する。
もう、専属の仕事は終わった。次の仕事を見つけるまでは暇だ。蓄えができたので、常に需要のある粗製水晶や、発光石の精製でしつつ日銭を稼ぐ必要もない。
クーといれば、退屈しないですむし、それに、クーから、すべての話を聞いた訳じゃない。まだ、クーに話すつもりがあり、そして、まだエンナが聞かされていない話があると思う。
「あの、エンナ師?」
徒弟の少女に話しかけられる。
「はい」
「エンナ師に、ご面会したいという方がいらしてますが」
その言葉で、真っ先に頭に浮かぶのは……
「クー君ですか?」
勢いよくたずねるエンナ。そのエンナに、徒弟の少女は気圧されたようにこたえる。
「ヒスイ様とおっしゃる、美原見の本家の方ですが……」
エンナは大きく溜め息をつく。
ヒスイが、最初、難色を示した汽械馬車の改造。それに、ギンの耳打ちを受けて、あっさり同意したのは、こういう事だったのか。
「お引き取り願うよう、申し上げましょうか?」
クーと一緒にいるところを、何度も見られているので断りにくい。それに、以前ほど、印象を悪く感じることも無くなった。
「そう言うわけには、いきませんから……。今から、そちらへ向かいます」
そう言い、エンナは立ち上がった。
別に構わない。クーから、すべての話を聞くまで、次の仕事を探す気はない。そして、今日は、たぶんクーは来ない。
どうせ暇なのだ。それに、以前のように、ヒスイを嫌っているわけでもない。
それに、もう少し、ヒスイの事も知ってみたい。何度も顔を合わせているのだが、ヒスイの事は、よく知らなかった。だから、今回は聞き手に回るのは止めよう。そうエンナは思った。




