19
抱きしめられる感触で目が覚める。
「若だんっ、……坊ちゃん、大丈夫ですか?」
レイハだった。抱きしめる手をゆるめると、心配そうにクーの顔をのぞき込んでいる。
「大丈夫……」
クーは、そうこたえる。そして、自分が泣いていたことに気づいた。
「ずいぶん、うなされてましたよ」
「うん。だと思う」
レイハの腕の中から抜け出し、そして背を向け横になる。全身が、じっとりと汗で湿っていた。
薬を飲まされ、体中が、灼けるように熱くなったあと、ソラの意識は途絶える。そして、目が覚めたら、こんな体になっていた。
錬金術関連の書物をひっくり返し、エンナの父の残した解毒剤の説明文などを調べた結果、毒で、使い物にならなくなった部分を切り捨て、残った部分で、再度、体を作り直したらしいとわかった。結果、体重は半分以下の、こんな子供の体に。
クーは、溜め息をついて身を起こす。
「坊ちゃん?」
「顔、洗ってくる」
そう言い、ベッドから降りると、クーは部屋を出た。クーが心配なのか、レイハが黙ってついてくる。
ソラが毒を盛られたらしいことは、すでに周りに知られていた。だから、ソラは死んだということにしたのだ。姿も変わったし、教団の目を欺くには、ちょうどよい。それに、生きているということが知られたら、恐らく次の手を打ってくるだろう。そうなったら、もう対策はない。
クーは、顔を洗い、レイハが手渡してくれたタオルで顔を拭う。
「本当に、大丈夫ですね?」
「大丈夫。……起こしちゃったみたいで、ゴメン」
レイハの部屋は、クーの部屋の隣。たぶん、うなされているクーの声が、そこまで聞こえたのだろう。
「朝まで、一緒にいますよ」
「大丈夫だよ」
力無く言うクーに、レイハは苦笑混じりにこたえる。
「坊ちゃんが心配で、わたしが眠れません」
本気で心配してくれているのはわかる。だから断りにくい。クーは、何も言わずに、大きく溜め息をついた。
雨が、屋根や甲板を叩く音が聞こえてくる。まだ、雨が止みそうな気配はない。