17
店を出ると、外はもう真っ暗。そして、雨は、まだ降り続けている。
「坊ちゃん。……申しわけありません」
傘を差して、クーと歩きながらレイハは言う。
余計な物を買う気など無かったのに、気が付いたら、髪を黒く染められ、化粧をされ、そして、たくさんの化粧品を買う羽目になっていた。金額的にも、結構な出費だ。
「何が?」
レイハの言葉に、クーは怪訝そうな顔をする。
「いえ、余計な物を、山ほど買ってしまって……」
クーは、ぱたぱたと手を振った。
「ああ、気にしないでいいよ。面白い物も見れたし」
くすくす笑いながら言うクーに、レイハは、心の中で溜め息をつく。クーは、さらに言葉を続けた。
「うん。今まで、まったく気にしてなかったけど、レイハって、結構、美人だったんだ」
思わず、レイハの足が止まる。それに気づかずクーは歩き、傘の下から雨の中へ出てしまった。そして、慌てたように傘の下へと戻る。
「坊ちゃん、すいませんっ。……あと、からかわないでくださいっ!」
幸い、クーは少し濡れたぐらい。髪の染め粉が流れるほどではない。そして、濡れたことに腹を立てたような気配もない。
「からかってるわけじゃ、ないんだけど……」
不満そうな口調のクー。
通りには、発光石の街灯が等間隔に並んでいる。暗くはない物の、顔色がわかるほど明るいわけでもない。
「どうかした……?」
黙ってしまったレイハをクーは見上げる。どこか不安そうな表情。レイハを怒らせたのかと思ってるのかも知れない。
「何でもありませんっ!」
怒ってなどいない。でも、その言葉には、怒ったような響きが込められてしまう。
暗いからクーには、わからないだろうが頬は上気している。表情は、見方によっては、怒っているようにも見えるかも知れない。
「ゴメンナサイ……」
しゅんとしたように、クーは言う。
「怒っているわけじゃ、ないですから」
今度は、優しく言うことが出来た。そして、荷物を持ち替え片手を空けると、クーの手を取る。すると、クーは、安心したように息をついた。
「遅くなっちゃいましたし、ゲンザさん、心配してるかも知れませんね……」
そう言いながら、レイハは空を見上げる。暗くて空模様は、よくわからないが、雨は、まだ止みそうな気配はない。