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蒸気大革命  作者: あさま勲
二日目
12/50

12

 歩きながら振り返って、エンナが、こちらをチラリと見る。きっと、何か思う事でもあるのだろう。

「大失敗」

 クーは呟き、大きく溜め息をついた。

「坊、どうしたんです?」

「口が滑った。……まあ、後で、手札は全部みせてみる。それで、挽回は効くと思うけど」

 ゲンザの問いに、クーは小声で答える。ゲンザなら、この説明でも、十分に意味はわかるはずだ。

「坊も、結構、無神経なところが、ありますからなぁ……」

 ゲンザの言葉に、クーは、ただ黙っているだけ。そんなクーを見ながら、ゲンザは言葉を続ける。

「で……ラセル師は、いったい何を考えているのやら。あれでも飛べはしますが、物を運ぶには、あまりにも効率が悪すぎます。それに、単に蒸気推進汽械の試験にしては、大がかりすぎますし……」

 ぼやくような口調のゲンザ。

 まあ、ゲンザの言わんとする事は、クーにもわかる。あの汽械の原型を造ったのはソラだ。そしてゲンザは、その助手。だからこそ、汽関の推力のみで飛行する事の効率の悪さを知っている。

「あんなんじゃ月には、手がとどかないよ。でのまあ、本当の目的は、ここの錬金術師たちの尻を蹴っ飛ばす事だと思うけど」

「はぁ……」

 意味がわかってないのか、曖昧な返事を返すゲンザ。そんなゲンザを見て、クーはクスリと笑ってエンナの後を追う。多少、頭が冷えた。

「ラセル先生も、結構、色々と考えてたんだ」

 呟き、クーはエンナから少し距離を置いた場所で足を止める。ラセルは、すでに回り集まった者たちに、今回の実験の趣旨について話を始めていた。

 要約すると、その骨子は三つ。

 一つ目は、これは月へ行く新しい手段であるということ。

 二つ目は、この汽械は、あくまで試験用であって、月へと行くことはできない。

 三つ目は、この汽械で、月へ行く手段の提示。

 三つ目の説明、その途中で、周囲の見学者たちがざわめいた。

 その内容は、昇宙汽械を複数束ねて打ち上げ、そして、燃料の切れた物から段階的に切り捨て汽械を軽くし、主要部分のみを空気が無くなる高さまで持ち上げる。そして、そこから月に向かって、その主要部分を飛ばすのだ。

 周りがざわめいたのも無理もない。この汽械には、極めて高価なミスリルの罐が使われている。それを、たった一回の飛行のために使い捨ててしまうのだ。

 それ故に、ソラには思いも付かなかった方法だった。

 ラセルは、最後を、こう締めくくった。

「これは、あくまで現行の汽械術で使える物のみで行った場合です。改良案や、別の手段があったら、いつでも言ってください。参考にさせていただきます」

 クーには、ラセルの考えはわかる。この汽械を、カーボライトと組み合わせてみようと、錬金術師たちに、そう考えさせることだ。

 ただ、クーの見たところ、問題は三つ。

 カーボライトの精錬が、教団に禁忌とされていること。そして、その存在を知る錬金術師が少数であること。最後に、その精錬が可能だと思われるほどの技を持つ、大物の錬金術師が、この実験の見学に来ていないこと。

 ラセルの様子を見ると、この三つの問題は、気にしていないようだ。

 単に何も考えていないのか、あるいは問題ないと考えているのか、そこまでクーにはわからない。

 ラセルは、クーの師匠でもある。だから、ある程度の手の内は、わかっているつもりなのだが……。

 クーは大きく溜め息をついた。

 とりあえず、ラセルとは距離を置いておきたい。ラセルの弟子だったのは、この体になる前で今は別人だ。だが、ラセルの元に十年近くも身を置いていたのだ。同一人物であることを見抜かれてもおかしくはない。

 ラセルに、同一人物だと見抜かれること自体は、別に問題ではない。が、この場ではまずい。大勢の者の前で、それを明かされるのは、さすがに困る。

「さて、先生のお手並み、拝見させていただきますよ」

 クーは、小さく笑って呟いた。

 まもなく打ち上げ実験が始まる。

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