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最後の山場まで書いて放置中ですがUPを機会に完結させたいと思います。
1/31完結。2/3本格推敲開始。
大がかりな修正はしないつもりです。
章管理とは何ぞや? とか思いつつ試してみました。
とりあえず作中の日数経過で分けてみましたが、また弄るかと。
ちゃんと章タイトルも考えたいところです。
朝の港は人混みで溢れかえっていた。その人混みを縫うように走る。
走りながらクーは、クスクスと笑った。こんな場合、普段わずわしく思う、この小さな体が役に立つ。動きも以前よりも軽くなった。新しい体も決して悪いことばかりじゃない。
視界を埋める雑踏。その僅かな隙間を、落っことさないよう片手を帽子に添えて、クーは器用にすり抜けていく。一週間も狭い船の中で過ごしていたので、体を目一杯、動かせることが楽しくてたまらない。
茶色いマントコートの裾から、ブーツを履いた白い足が元気に飛び出す。手を添えた帽子の下には、切り揃えられた真っ直ぐな黒髪。歳の頃は十前後といった程度、なぜか目立つ黒眼鏡をかけた少年。黒眼鏡に若干の不自然さを感じさせるものの、クーは良家のお坊ちゃんといった格好だ。
「坊! ちょっと待ってくださいよ!」
遙か後ろから、慌てたような叫び声。お供のゲンザだ。クーは足を止めて振り返った。
「ゲンザ遅いよ! ちゃんと付いきてよ!」
その場で足踏みしながらクーは叫ぶ。
少しすると、遠慮がちに雑踏をかき分けながら、ゲンザがクーのところへやって来た。
ゲンザは、剃り上がった頭に厳つい顔、そして筋肉質の体。周囲の雑踏から、頭一つ飛び出す大男だ。
強面の外見とは裏腹に、気の優しい男だった。周囲に遠慮してしまい、走るクーに付いていけないのだ。
「坊。もう少し、ゆっくり歩いてはくれませんか? この人混みじゃ、はぐれちまいますよ……」
額の汗を拭いつつゲンザはぼやく。
「目的地は賢者の塔。エンナに面会の申し込みを入れとくから、話を通せば、すぐ落ち合えると思う。賢者の塔へは、汽械馬車を使えば一発だよ」
ゲンザのぼやきを無視し、無邪気な笑顔でクーは一気にそう言った。まるで、これから、はぐれますよと言わんばかりの言葉にゲンザが顔色を変える。
「じゃ、そういうことで!」
無責任に言うと、クーは踵を返し駆け出した。……駆け出そうとした。が、ゲンザの大きな手が、クーの華奢な肩をしっかりと掴んでいる。
「っとと! ゲ、ゲンザってば!」
ゲンザは、そのまま両手でクーを掴み上げると、肩へと担ぎ上げた。
「さして急ぐ必要もなし、ゆっくり行きましょうや」
そのままクーを肩車したゲンザは、クーを見上げにやりと笑った。
「……まあ、いいか」
クーは傾いた黒眼鏡を整える。その際、わずかに覗く瞳の色は澄んだ青色。溜め息をついて、クーは周囲に目を向ける。
長身のゲンザに肩車されているため、視界が大きく変わる。それまで見えなかった、港で使われている汽械式リフトや汽械馬車といった様々な汽械の数々。そして、それらから立ち上る蒸気の白煙。雑踏の向こうに見えるのは、統連の町並み。汽械術師や錬金術師の工房、そして宿舎。彼方に見える巨大な塔が賢者の塔。
「……エンナ、元気かなぁ」
クーは賢者の塔を眺めつつ呟く。
「元気ですよ、きっと」
「ならいいけどね……」
ゲンザの言葉に、クーは呟くようにこたえる。
空に目をやると、沈みつつある大きな青い月、その手前を、飛行船が、ゆっくりと通り過ぎてゆく。月の表面には、無数の白い雲。そして、雲の下には海と大陸。
ここは統連。
統連は島の名前にして街の名前。汽械術師や錬金術師たちが技を磨く場所。学術都市とも呼ばれ、国中の賢人たちが集う街――