風薫る
いつもやさしかったじぃじがしんじゃった。
じぃじとはもうあえないんだよ、ってママがいってた。
ふたりとも
じぃじのことがだいすきだったから、マキちゃんといっしょにわんわんないた。
ねてるじぃじのては、しわくちゃで、まだあったかかった。
つぎのひ、こくべつしき、とかいうのがはじまった。
じぃじがおっきなはこにいれられてた。
ないしょでさわったじぃじのては、もうつめたくなってた。
おばちゃんに、こどもはおそとであそんでおいで、っていわれたから、マキちゃんといっしょにおにわにでた。
でも、マキちゃんはずっとないてた。
だから、あたまをなでなでしてあげた。
そしたら、
「いつまでも、わたしたちは、わたしたちだけはいっしょだよね?」
マキちゃんが、なみだごえでわらいかけてきた。
「ずーっといっしょだよ。だって、マキちゃんは、かわいいかわいいいもうとだもん!」
だから、マキちゃんにわらいかえした。
「・・・そうだよね。わたしは、いもうと、だもんね」
マキちゃんは、すこしさびしそうに、わらった。
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・・・今日も目覚ましが鳴るぴったり五分前に目が覚めた。
独りベッドの中で伸びをする。
どうやら懐かしい夢を見ていたようだ。あれから十年以上も経つなんていまだに信じられない。
あの頃から、いや、もっと昔から。僕の心の中にあるものは一つ、あの子の幸せだけだ。それはこれからも変わらないだろう。
でもたしかに、僕らを取り巻くあれやこれやは、大きく変わっていた。
僕らだけを取り残して。
隣に住んでたトモキは、中学に上がるときに引っ越していった。
「ぜったいずっとともだちでいような!」なんて言って別れたけど、先に手紙を返さなくなったのはトモキだった。
お向かいのサオリちゃんは、もう大学生のカレシがいるらしい。
昔は「カオちゃんと結婚する!」なんて言ってたのもいい思い出だ、と、彼女は笑っていた。
一緒に住んでた父さんと母さんは、転勤のせいで去年から遠いところへ行ってしまった。
「カオちゃんはもう高校生になるんだから、平気よね?」と訊かれて、曖昧な顔で頷いたのを覚えている。
まあ実際、家事は一通りこなせるので、今まで困ったことは何もない。
ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ。
おっと、目覚ましを止め忘れていたようだ。
暖かい布団からもぞもぞと這い出て、目覚ましの頭をはたく。
そろそろ着替えて、あの子を起こして、それから朝食も作らなきゃな。
朝食のメニューを考えながら、パジャマのボタンを外した。
あの子、今日も僕と顔をあわせないつもりなのかな。
TVをつけ、結局自分の分しか作らなかったクロックムッシュを齧りつつ、一つ下の妹のことを考える。
さっき確認したら冷蔵庫の中の食材が減っていたから、あの子が夜に食べたんだろう。
そういえば一度、あの子の晩御飯に、あの子の好物のオムライスを作って冷蔵庫にしまっておいたら、朝まで手付かずで残っていたことがあった。
それには「こんなことはしなくていいです」と書かれた付箋が貼られていた。
しっかり食材は減っていた。
どうせ何か食べるなら、僕が作ったのを食べて欲しかったなあ。
するな、といわれたのでそれ以降はしてないけれど。
あの子は、昔は僕よりも元気で、外で遊ぶのが大好きだった。
いつも日が暮れるまで友達と走り回って、服を泥んこにしては母に叱られていた。
それで僕に「ママにおこられた〜〜〜!!!」ってよく泣きついてきたっけ。
僕が慰めると、あの子はそれまで泣いてたのが嘘のように笑顔になったのを覚えている。
二回生(あの子の通う中高一貫校では、中学二年生のことをこう呼ぶ)のときにはクラス委員長を務め、友達には、「みんなのお母さん」と呼ばれて親しまれていたそうだ。
家族の中でもあの子はムードメーカー的存在で、いつも明るく振舞っていた。
でも、二年ほど前から、あの子は家族の、特に僕の前で笑わなくなって、学校も休みがちになった。
そして、昨年僕が高校生になったとき、ついに自分の部屋から出てこなくなってしまった。
あの子への虐めなんかはなかったと断言できる。
実際、あの子を心配する子達が何度もうちを訪れてプリントやノートを届けてくれていたし、今も届けてくれている。
あの子がいつ学校に復帰したくなってもいいように、そのノートはちゃんと僕がコピーをとって全部保存してある。
どのページにもあの子への思いやりが感じられるノートで、本当にありがたいことだと思う。
だからこそ、あの子が引きこもってしまった理由が分からず、僕ら家族は困ってしまった。
理由が分からないなりに改善も促したし、カウンセリングの先生にお願いもした。
けれど、僕らの一年にわたる奮闘の甲斐むなしく、結局彼女は部屋から出てこなかった。
両親は、この一年ですっかり老いてしまったようにも見えた。
その後、両親に転勤の話があった。
僕は一緒についていくつもりだったし、あの子も環境が変われば、と期待していた。
でも、両親は二人だけで出て行くことを決めた。
仕事の都合とはいえ、両親が僕らを置いていった、というのは、つまりそういうことなんだろう、と僕は思っている。
僕はまだあの子の社会復帰をあきらめたわけじゃないけど。
ふとつけっぱなしのTVを見ると、遅刻ぎりぎりのサインでもある占いコーナーが始まっていた。
TVを消してクロックムッシュの最後のひとかけを急いで口に放り込み、冷たいミルクで流し込む。
考え事をしながら食べていたから、遅くなってしまった。
部屋から通学かばんを取ってきて、そのついでに妹の部屋の様子を伺う。
・・・・・・なんの音もしない。寝なおしたのかな。
小さくため息をつく。
これではまだまだ時間が掛かりそうだな、と思いながら、家を出た。
遅刻しないように祈りながら、僕は学校に向かって走り出す。
じとっと湿った五月の空は、灰色に曇っていた。
学校までは走ると十分ほどで着ける。
いつもの通学路。
でも、いつもと時間帯が違うから、すれ違う人はみんな知らない人だった。
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なんとか本鈴の前に滑り込めた。
「昨日の山Pのドラマ、ちょーよかったよね」
「たかみな卒業ってマジ?」
「マツジュンてかっこいいよねー」
「ノンスタ、やっぱ面白いよな」
クラスメイトたちがいつも通り談笑しているが、いつも通り何のことかさっぱりわからない。
興味もないし別にいいんだけど。
彼らが興味のあるようなことのほとんどは、僕にとってどうでもいいことだった。
僕はただ、あの子が幸せであってさえくれればそれでいい。
机と机の間をすり抜けつつ、自分の席へと向かう。
今の席は最後列近くの窓際で、授業中にぼーっとするのに最適なので比較的気に入っていた。
「おはよー、カオル」
「カオちゃん今日はぎりぎりだね」
近くの席の友人らの挨拶に手を挙げて応える。
自分の席に着くと、いつもの癖で、僕は教室の左隅を眺めた。
そこには、昨日までなかったはずの、蜘蛛の巣ができていた。
その網の真ん中に、もがく一匹の綺麗な蝶がいた。
巣の主は、どこかに出かけているようだった。
そうだ、今日は一日この蝶を観察することにしよう。
退屈な授業の暇つぶしを見つけることができたので、僕はちょっとうれしかった。
一時間目の授業中、ずっと蝶を眺めていた。
彼女(彼かもしれないが、何故か僕は彼女と呼ぶべきだと思った)はずっと足掻いていたが、全く動くことはできなかった。
「うーん、じめじめして暑いですねえ」
先生はそういいながら窓を開けたが、空気は淀んだままだった。
観察を始めて二時間が経った。
この間、やはり彼女は1ミリも動くことができなかった。
翅をどれだけ動かしても、脚をどれだけ動かしても、逃げ出すことができない。
足掻き続ける彼女の心中には、いかほどの絶望が渦巻いているのだろうか。
まだ巣の主が戻ってくることはなかった。
三時間目の国語の最中、ようやく巣の主がご帰宅なさった。
彼女はいまだに囚われの身のままだった。
捕食者を前に、彼女はいっそう身を震わせる。
それは必死の抵抗にも見えたし、SOSのサインにも見えた。
ゆっくりと彼女に近づく大きな蜘蛛。
震えるばかりの彼女。
いきなり食いつくことはせずに、じっくり、じっくりと彼女の周りを回る。
彼女も懸命に逃げようとするが、それは叶わない。
僕は息を呑んだ。
何故か、必死にもがく彼女が、あの子とかぶって見えたからだ。
もしかすると、あの子も今、独りで、自分の心という蜘蛛に呑まれそうになってるんじゃないか。
あの子はずっと僕に、助けて、って叫んでたんじゃないのか。
僕があの子のために、良かれと思って見守ってきたのは、実はとんでもなく酷なことをしてたんじゃないのか。
ガタン。
思わず立ち上がる。
クラス中の注目が僕に集まる。
やめろ。
そんなことお構いなしに、
やめろ。
食い破るように、
「やめろっ!」
蜘蛛の牙が、彼女の首筋を、まさに捕らえんとしたその時。
開いていた窓から、一陣の風が吹いた。
風は、部屋中に吹き荒れた。
机の上のプリントが舞う。
ノートがさざめく。
教室がざわめく。
ひらり。
その時、僕は確かに、解き放たれた彼女を見た。
彼女は、風の中を、嬉々として飛んでいた。
風に感謝の舞を捧げるかのごとく。
そして風と戯れるように、外へと羽ばたいていった。
そうか、彼女がもがいていたから、糸の粘着が弱くなって、風で外れたんだ。
頭では小難しい考察をしていたが、心の中はこの一言に尽きた。
ああ、彼女の足掻きは無駄じゃなかったんだな、と。
僕はなんだか気が抜けてしまって、がくんといすに座り込んでしまった。
「まさに”風薫る”、ですねえ」
この時間の担当であるおじいちゃん先生は、暢気にそうつぶやいた。
僕は、あの子にとっての、”風”にならなきゃならない。
たとえあの子が干渉を望んでいなかったとしても、たとえこれが僕のエゴであったとしても。
あの子の人生に、風穴を開けてやらなきゃならないんだ。
だって、あの子は、マキちゃんは、僕の「最愛の」妹なんだから。
「おや、そろそろ時間ですね。では今日はここまでにしましょう」
先生が教室を出た後、チャイムが鳴った。
あの風が雲を吹き飛ばしたのか、五月晴れの空は吹き抜けるように青かった。
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僕はその後早退した。
後で叱られるのも覚悟の上だ。
とにかく早くあの子の元に行かなければ。
それしか考えていなかった。
走れば十分ほどのはずの道のりが、とても長く感じられた。
ようやく家にたどり着いた。
焦りで震える手で鍵を開けて、
「マキちゃん!」
妹の部屋のドアを開けた。
「・・・ひっく・・・・・・ひっく・・・ふえ?」
マキちゃんは、電気もつけず、カーテンも締め切った暗い部屋の中で、声をこらえて泣いていた。
僕は、マキちゃんを抱きしめて、頭をなでた。
「・・・なんで帰ってきたの」
「なんでって、『最愛の』妹が苦しんでいるような気がしたからね。案の定だった」
「いままでそんなことなかったくせに」
「それはごめん、力不足だった。謝ろう。でも、これからはマキちゃんを泣かせたりなんかしないよ。全部受け止めてあげるから」
「うぅ・・・うっ・・・うわあああああああああん!」
するとマキちゃんは、火がついたように、大声で泣きじゃくった。
ただただ僕は、僕の想いが伝わるように、心を込めて、なで続けた。
「・・・うん。もう落ち着いたよ」
しばらくして、マキちゃんは泣き止んでくれた。
「ねぇ、覚えてる?前にもこんなことがあったの。」
マキちゃんは、僕にそう言った。
「ああ。じぃじの告別式の時だね」
僕は、マキちゃんの頭をなでながら答える。
「じゃあ、もう一度聞くね。いつまでも、私たちは、私たちだけはいっしょだよね?」
マキちゃんは、あの時と同じように、涙声で笑いかけてきた。
「ずーっといっしょだよ。だって、マキちゃんは、かわいいかわいい妹だからね」
だから、あの時と同じように、マキちゃんに笑い返した。
「・・・そうだよね。でも、ごめんね」
でも、マキちゃんの返答はあの時とは違った。
「もう、お姉ちゃんの妹なのはいやなの!私は、私はっ、あの頃からっ、ずっと・・・っ」
マキちゃんは顔を上げて、僕の方を向いて。
「お姉ちゃんのことが好きだったのっ!」
泣きながら笑っていた。
「最初は、ただお姉ちゃんのことをお姉ちゃんとして好きなんだ、と思ってた。
でも成長するにつれて、これが恋なんだ、これこそが恋だったんだって分かっちゃったの。
周りの子はアイドルがかっこいいとか、隣のクラスのだれそれが好きだ、とか言ってたけど、私は、いつも私のことを考えてくれてたお姉ちゃんしか好きになれなかった。
それを誇らしく思ってもいたけど、だんだん怖くなってきたんだ。
だって、女の子同士で、しかも姉妹だなんて。普通に考えたら受け入れてもらえるはずないじゃない。
友達やお姉ちゃんにこんなこと考えてるってバレたりしたら、いったいどんな目に合うんだろう。
少なくとも今まで通りではいられなくなるだろうし、もっとひどいことも起きるかも・・・なんて考えてたら、どんどん外に出るのが、自分の気持ちを外に出すのが怖くなって・・・
でも、こうやって今お姉ちゃんに気持ちを打ち明けられて、今本当にすっきりしてるんだ。
ありがとう、お姉ちゃん。どうせ振られるだろうけど、できれば今まで通り接してくれるとうれしいな・・・んむっ?!」
聞いてられなかった。
マキちゃんが不憫で、愛しくて。
思わず口を口で塞いでしまった。
「なっ・・・お姉ちゃんっ・・・なんで」
「なんでって・・・言っただろう?『最愛の』妹だって。僕・・・いや、私も昔からマキちゃんのことを愛してたよ。でも、マキちゃんが幸せになることを考えたときに、私のマキちゃんへの愛は障害でしかないと思ったんだ。だから、封印することにした。自分のことを『僕』って呼び始めたのもそれが一つの理由だよ」
「今までそんなそぶり、見せたこともなかったじゃない!」
「それはそれだけ私の自制心が強かったってことだね。でも、私も結構、かーなーり、我慢してたんだよ?」
「じゃ、じゃあなんで今日は封印しなかったの?」
「そりゃああんな熱烈な告白をされたら・・・ねえ?というのは半分冗談にしても。実のところ、風と蝶に勇気をもらったからかな」
「風と・・・蝶?」
「今からゆっくりそれを話してもいいんだけど・・・マキちゃんはお昼は食べたの?」
「ううん、まだ」
「じゃあお昼を食べてからにしようか。私も食べてないし。何がいい?愛しのマキちゃんのためなら何でも作ってあげるよ」
ちょっと調子に乗った発言をしてみると、マキちゃんは真っ赤になって俯いてしまった。
「・・・・・・イス」
「ん?」
「お姉ちゃんのオムライスがいい」
真っ赤な顔でぼそっと呟いたマキちゃんを、私は満面の笑みで抱きしめた。
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・・・今日も目覚ましが鳴るぴったり五分前に目が覚める。
ベッドの中から起き出して、立ち上がって伸びをする。
昨日はいろんなことがあった。
キャラじゃないと分かりつつも、頬のにやけが抑えきれない。
昨日のことを思い返しながら、目覚ましの頭をはたく。
そろそろ着替えて、マキちゃんを起こして、それから朝食も作らなきゃな。
朝食のメニューを考えながら、パジャマのボタンを外した。
着替えてマキちゃんを起こしに行ったが、部屋はもぬけの殻だった。
リビングに向かうと、
「お姉ちゃん、おはよう」
制服を着たマキちゃんがいた。
「うん、おはよう。制服姿を久しぶりに見たけど、よく似合っててかわいいね。ちゅっ」
あまりにもかわいすぎて、思わずキスをしてしまった。
「ひゃっ。お姉ちゃんいきなり何するの!」
マキちゃんは真っ赤になってぷんすかした。
うーん。怒るマキちゃんもかわいい。とか思ってしまう私は完全に頭が茹だってしまっているみたいだ。
「まあまあ。着替えてるってことは、今日から?」
「・・・うん。学校に行こうかなって」
「えらい!んーちゅっ」
「ひゃあ、またちゅーした!」
「だってマキちゃんがかわいすぎるから!これはしかたないんだ」
「もー、次やったら怒るからね?」
マキちゃんがかわいすぎて怒らせたい。まあそれはともかく、早く朝御飯を作らなきゃ。
「よし、完成。召し上がれ」
マキちゃんと二人で出来立てのハムエッグサンドを頬張る。
「おいしいね、お姉ちゃん」
「うん、おいしいね、マキちゃん」
「ところでさ、お姉ちゃん」
「ん、なに?」
「私たちさ、その、恋人に・・・なったわけじゃない?」
マキちゃんの顔は真っ赤だ。
「そ、そうね」
勿論私の顔も。
「だ、だからさ?呼び方もさ?カオルさん・・・とかの方がいいかなって思ったんだけど・・・どうかな?お姉・・・じゃなかった、カオルさんがよければそう呼びたいんだけど」
「〜〜〜〜〜〜」
これには本当に参ってしまった。完全にやられた。マキちゃん、まだかわいくなるとは。恐るべし。
「やった、カオルさんも顔真っ赤だ。私といっしょだねっ」
うれしそうなマキちゃんを見て、私はもう矢も盾もたまらなくなってしまった。
「もう我慢できない!マキちゃーん!かわいい!かわいすぎる!ちゅっちゅっちゅ!」
「ひゃああ、三回も!もうやめてーっ!」
ああ、二人でいちゃいちゃしながら食べる御飯がこんなにもおいしくて楽しいものだったとは知らなかった。
おかげでまた遅刻ぎりぎりになってしまった。
「ほら、急ぐよマキちゃん!マキちゃんの学校は私の学校より遠いんだから!」
私はマキちゃんを急かす。復帰一日目から遅刻させるわけにも行かないし。
「ああっ、待ってカオルさん、まだ靴が履けてないの」
慌ててかかとを靴に入れようとしてトントンするマキちゃん。
「よし、履けた!」
「じゃあ、出発だ!いってきまーす!」
「いってきまーす!」
私たち姉妹は、あわただしく家を出た。
いつもの通学路。
でも、マキちゃんが隣にいるから、世界がいつもと違って見えた。
ざあっと、新緑を揺らす薫風が吹きぬける。
私は思わず振り向いた。
綺麗な模様の蝶のつがいが、ひらひらと舞っていた。
「カオルさーん!遅刻しちゃうよー!」
マキちゃんの呼ぶ声がする。
「はいはーい、今追いつくよ!・・・・・・勇気をくれて、ありがとう」
私は小さく礼を言うと、前を向いて、マキちゃんの隣へと走り出した。
[fin]