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ちょっと地球まで島流し  作者: ハツカ
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買い物をしましょう

さて、天人は基本的に買い物はあまりしない。

服飾や住まいの建築、嗜好品などが買い物の対象となっている。

天人は食事を摂らずとも生命活動は可能だが、その状態を維持するために月海水と呼ばれる水が必要だ。

よって月海水は天人の命の源であり、下層の人にとっては不老長寿の霊薬でもある。

問題なのは、月海水は月海と呼ばれる海の水であり、海の面積は限られているため、どこかの国や人が独占しようものなら天人全体の生命の危機となりうる。これを回避するために各国が国民に均等に行き渡るように配給を行ってい、国際法にそうするように定めている。

だがどこにでも国際法が通じない独裁国家があるわけで、一部海域を占領したり、特権階級が月海水を独占し、国民に少量しか行き渡っていない国がある。

そのような国々に派遣されるのがモラド・朔が中心となっている連合軍だ。


「な、なるほど、セレナはそこの軍に所属してるんだね」

「そう、私は小隊を任されてたんだけど、ガンコな上役殴ったら島流し。やってられない」


なんという脳筋だろう。

と、冬哉は呆れながらセレナと綾の話を聞いていた。

ペットショップがあるという大型ショッピングモールを目指し、歩いてる途中、セレナが買い物をしたことがない、という話からえらく物騒な話に変わっていた。

ちなみに綾を迎えに来た誠はショッピングモール待ち合わせの筈の妹が道に迷った、とかいう連絡を受け、妹の方を迎えに行った。

よって学校からショッピングモールまでの間、三人(主に綾とセレナだが)で、会話を楽しみながら歩いているわけだ。

綾は難しそうな顔をしながら、質問をする。


「その、月海水っていうのが飲めないと、天人は死んじゃうの?」

「いや、月海水は天人を天人たらしめるためのものだ。つまり、月海水を飲めないとただの人、ここに住む下層の人間とほとんど変わらない。魔法も効果が弱いものしか使えなくなるし、食事をしないと餓死をする。」



にこやかに質問に答えるセレナは、いつもの彼女とは似ても似つかない可憐な美少女という言葉が裸足で逃げ出すほどの印象を周囲に与えていた。

結果、冬哉は先ほどから刺さるような視線を浴びながら黙って彼女たちの横を歩くはめになっていた。

セレナに隠れてしまっているが、綾だって普通に可愛い部類の女子だ。

他人から見れば、冬哉は両手に花の状態なのだ。

しかし冬哉は知る由もないが、冬哉本人もかなりの見目麗しい男であるため、注がれている視線はセレナ達を連れ歩いてるための嫉妬が2割、冬哉の見た目についての羨望が1割、残りは女性からの注目といったところだ。

人は自分ではとうてい叶わない見た目の者には、嫉妬や羨望よりは諦めの気持ちを持つものだということを、冬哉はわかっていなかった。

とはいえ、視線は視線。うっとおしいことこの上ない。

いっその事言霊で縛ってやろうか…などと考えていた時、横合いから声がかかる。


「望月くん、ごめんね、私たちだけ話して。私望月くんにも聞きたいことがあるんだけど…」

「え?あ…うん、何?」


不意をつかれた冬哉は間抜けな返事をしてしまっていた。

そんな冬哉を見て、綾は申し訳なさそうな顔で質問をする。


「えっと、望月くんが『力』を使うときにね、なんていうか…モヤっぽい生き物が見えるんだけど、あれは何かなって…」


ぴしり

と、空気が固まった。

自然と3人とも歩くのをやめ、その場に止まっている。

冬哉は驚愕の表情で綾を見下ろし、セレナは何故だか青ざめた顔で冬哉を見つめていた。

綾は自分の発した言葉がどうしてこのような結果になったのか必死に頭を回していたが、わかるはずもない。

最初にフリーズから回復したのはセレナだった。

口をパクパクしながら冬哉に向かって声を絞り出す。


「おお…お主…まさか、さ、朔の、こうぞ」

『不用意な発言は慎め、セレナ=クラヴィウス。その口を閉じろ』


反射的に冬哉は言霊縛りを使い、セレナの口を物理的に閉じさせた。

むぐむぐもごもごとものすごい勢いで唸っているセレナをよそに、冬哉は綾へと向きなおる。


「お前、これが見えるのか」


口調を現代に合わせることも忘れ、冬哉は綾を見つめる。

綾は自分がマズイことを聞いてしまったことを察したが、黙っていることは『許されない』こともわかっていた。

胸の奥からじわりじわりと冷たい空気が競り上がり、キリキリと喉元を締め上げる感覚が綾を追い込んでいく。

先ほど言霊縛りを使った際に降りてきた『神様』が威嚇している、ように見えた。

故に綾は正直に、冬哉を見据えて答える。


「見える。私には、それが神様みたいに思える。それは、何?」


冬哉の顔は驚愕から無表情へと変わっていて、心情は読み取れない。

どういうわけかこれだけの緊張感が流れているのに、周りを歩く人々は一切3人に目を向ける人間が存在しなかった。

理由としてはシンプルで、冬哉が他人が自分達を認識することを禁止したからだが、知るはずもない綾は考える必要がないと判断する。

そして沈黙の時間を破ったのは、綾でも冬哉でもなく、凄まじいほどの殺気だった。


「あ」


と、冬哉が殺気の方向を向いた瞬間、


ブンッ!


と、そこそこの質量がありそうなものが投擲された音がした瞬間、冬哉にまとわりつく『神』がそれを破壊した。

パァン!という音が周囲に響くが、人々は意に介さない。


「…よくも、よくも私に命令したのぅ…覚悟はできているのだろうな?」


そこには、魔王が立っていた。



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