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ちょっと地球まで島流し  作者: ハツカ
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お勉強


冬哉は下層界へ降りる際、必要最低限の知識は月で詰め込まれてきていた。

下層界での「こうこうせい」とやらは「べんきょう」が本分であり、できなければそれなりの罰が与えられる、ということも知っていた。

だから「こうこうせい」が学習するらしい事項を一通り見てみたが、どれも知っていることばかりでつまらなかった。


だが彼は失念していた。


朔の国出身である冬哉は、日本語である「こくご」はともかく、外国語である「えいご」という学問に、全く適性がないということだ。

月での共用言語はもちろん会得していたし、若造とはいえ四捨五入すれば200年は生きているため、歴史や社会についても下層のもの含めて詳しい。長年かけて数学、物理について研究(趣味)してきたためそちらにも明るい。

だが「えいご」は全く未知の領域だった。

現代では「えいご」がそのまま日本語のように扱われていることが多々あるらしいがそのような概念は月には存在しない。

文字はモラドで使用されているものに似てはいるが違うものもあり、そして発音も違う。


要するに、冬哉は新入生学力テストで、英語が全くというほどできなかったのだ。


「お、落ち込まないで、大丈夫。セレナさんだって出来てないかもだし…」

「慰めてくれるのはありがたいけど、今は心に響く。アメリカからの帰国子女設定が揺らいでしまう…」

「も、もともと英語を話す人にとっても日本のテストは文法的すぎて難しいって聞くよ。」

「そうなのか?じゃあ、話す分には問題ないわけだし、大丈夫かな…」

「話すぶんには大丈夫なんだ…」


終礼が終わり、生徒もまばらな教室で、綾のもっともなツッコミに答えられない程度に冬哉は動揺していた。


「セレナ?ど、どうしたの。顔色悪いよ」


ふと、綾とは違う気配を感じて顔を上げると、少々動揺しているように見えるセレナがそばまで来ていた。

というより、綾に抱きついていた。


「むり…勉強むり…」


ボソボソと情けない声で呟きながらセレナは綾の胸元に顔を埋めていた。

どうやらセレナは冬哉以上にまずかったらしい。

月では義務教育というものは存在しない。強いて言うなら自らの持つ魔法、呪術の訓練課程が必須となっている。

根本的に、科学技術を必要とせずとも魔法、呪術で解決できるからだ。

よって魔法理論、や新魔法開発などが主な技術職となってくる。

冬哉のような物好きでなければ、物理学も化学も学習しない。

魔法学で必要とするのは、数学のみだ。


「せ、セレナ、大丈夫だよ。教えてあげるから、ね?今から頑張ろう?」

「分かる気がしない…数学しかできなかった…」

「なんで数学…」


綾のツッコミに答えるほどの気力は、セレナにもないらしい。

冬哉はこれからの方針を考える。

この世界で、なるべく目立たずに生きるためには、それなりの成績を取らなければならない。

ただでさえ目立つ容姿の自分たちだからこそだ。

差し当たっては、勉強を教えてくれる人間が必要だ。

綾も教えてくれるだろうが、自分よりセレナを優先したほうがいい気がする。

そうなると、自力学習か、もう一人協力者を増やす必要がある。

山積みの問題に頭を抱えたとき、『綾』と、教室の外から声がかかった。


「誠くん、迎えに来てくれたの?」

「昇降口で待ってても来ないから…何してるの」

「テスト、できなかったんだって」

「お、おう…そうか」


若干動揺した声で答える、木場を少し可哀想に思った時、冬哉は綾との約束を思い出す。

そうだ、今日はネコのエサを買うのだった。

たしか、木場と、その妹も付いてくると昨日メッセージで知らされていた。


「柳瀬、忘れてた。ネコのエサ買わなきゃ」


すると綾に抱きついていたセレナがパッと顔を上げた。


「私もいく」


『いや、君はいらない』という言葉が喉まで出かかったがそのまま引っ込めた。

今、セレナを怒らせたら教室が吹っ飛びそうなきがした。




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