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ちょっと地球まで島流し  作者: ハツカ
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その恋は歪かもしれない


恋は盲目である。

と、いうことわざを、綾は常々実感している。

彼女が恋をしたのは中学2年生の時。

両親について悩んだ時、進路について悩んだ時、友達との関係に悩んだ時、誰にも相談出来ない孤独な時、話を聞いて、支えてくれたのが、彼女の幼馴染である木場誠だった。

誠は綾より1つ年上で、綾と同じ歳の妹がいる。

隣家同士だったため、幼い頃はよく遊び、誠に面倒を見てもらっていた。

優しいお兄ちゃん、という立ち位置だった誠を異性として認識してしまったその時から、綾はとにかく努力した。

誠が好きだと言った長い黒髪の手入れを念入りにしてみたり、体型を気にしてみたり、誠と同じ高校に行きたくて成績も上げた。

デートにも誘ってみた。

なんだかんだ理由をつけて一緒にいた。

自分は彼の眼中に入っているだろうかと気にしながら、他のことはそのついで。

恋愛体質と言われればそれまでだが、綾にとって祖父以外の『頼れる異性』は誠だけだった。

故に執着した。

例えそれで、親友であり幼馴染であり誠の妹である奈緒に、『その恋は歪すぎる』と言われても。

例え誠に異性として相手にされてなくて、妹のように扱われても。

やめることなど、できなかったのだ。


「えーっと、じゃあ、今度はこのマークを触って、私のアカウントを選んで、メッセージを送ってみましょう。」

「「あかうんと…」」

「あ、私の名前を選んで。これこれ」


スマホどころかケータイという電子機器に関して、自分の祖父母以下である自称異世界人2人に、メッセージアプリを教えている傍で、綾を迎えに来た幼馴染が待っていた。

あれから、冬哉は人払いの言霊縛りをほどいた。

するとすぐに首をひねりながら教室に入ってきたのは綾の幼馴染兼想い人である誠だった。

冬哉が言っていた『ぐるぐる回って可哀想』とは、知っているはずの教室に辿り着けずに周辺をぐるぐる回っている誠のことを言っていたのだ。

教室に入ってきた誠はセレナと冬哉に気づくとかなり驚いた顔をした後、少し警戒している表情をした。

綾は慌てて言う。


「お友達になったんだ。ちょっと待っててくれる?」


すると誠は綾の座っている席と同じ列の最後尾の席に座り、待ってる、と短く告げた。

そして今現在、綾はどうにか二人とメッセージアプリのアカウントを交換し、使い方を教えることに成功したのだ。


「うん、使えるようになったね。じゃあ、私約束があるから」

「ああ、ありがとう柳瀬。また明日」

「私も、ありがとう。また明日」


綾は最初に暴れまわっていたセレナにまでありがとうと言われてくすぐったくなり、はみかみながら「どういたしまして」と答えた。

綾の用事が終わったことを察した誠はもう教室の出口で荷物を持って待っている。

綾もそちらに向かう。が、振り向いて一言。


「また明日!」


不思議すぎる二人だったが、一度として綾は身の危険を感じたりはしなかった。

だから彼女は、とりあえず彼ら二人については、彼らの言うとおりなのだと信じることにしたのだ。

冬哉に降りてきている『神様』がまた、笑ったように見えた。


ーこんど、あの神様について聞いてみようかなー


などと思いながら、綾は誠と教室を後にして、昇降口へと歩く。

教室でへあまりしゃべらなかった誠が口を開いた。


「あの二人、今日来てる二年の連中にも噂されてたぞ。すごい美男美女だな」

「うん。私もびっくりした。男の子の方は望月くんっていうんだけど、出席番号が私の一個前なんだ」

「ずいぶん、仲よさそうだったな」

「まぁ、席が前だしね」


仲が良かったかどうかは甚だ疑問であるところだが、今ここでそれを言ってしまえば今日あったことを全て白状しなくてはならなくなる。

どうせ話したところで、冬哉によって記憶は消されてしまいそうだが、そんなことをしてしまうのはなんだか誠が可哀想な気がした。


「望月くんは帰国子女で、セレナ…女の子の方は家の事情で日本にいるみたい。日本語はペラペラだったよ。いろいろ教えて欲しいって言われた」

「帰国子女…だからなのか、距離、近くなかったか?」

「うん?近かった?ふ、普通だと思うけどな」


綾はギクリとしながらなんとか答え返す。

実際にスマホの使い方を教えている時にわかったが、冬哉とセレナは異世界人と名乗るだけあって綾との常識、マナーの差が激しかった。

ひと昔前の老人喋りが本来の喋り方なのだろうけれど、それだと周りから浮いてしまう。それは二人ともわかっているからか、とりあえず現代風味な話し方は会得しているようだったが、そもそも異世界とこちらの言語が一致していること自体がおかしなことだ。

いつもは末っ子のような立ち位置の綾だが、あの二人といると、世話のかかる兄弟、いやご老体みたいだと感じずにはいられなかった。

明らかにぎこちない綾の返事に、いよいよ誠が怪訝な顔をし、立ち止まって問いただしてきた。


「綾、本当はあの二人になんか言われてたんじゃないのか?本当に友達?」


微妙に確信をついてくる誠の質問に、罪悪感を感じながらも嘘をつこうとした時、ポンっと頭の上に手が置かれた。そのままぐりぐり撫でられる。綺麗に流されていた髪は途端に鳥の巣のように絡み出す。


「えっうえっ、誠くん、髪型がぁっ…」

「悪い。そんな顔させたくて言ったんじゃないんだ。お前は少しボンヤリしてるから、心配で…」


複雑そうな顔をしながら、誠は帰るぞ、と言いゆっくり歩き出す。

いつだって綾の歩幅似合わせてくれる誠のその優しさが、どうしようもなく好きだ、と思いながらも、高校入学前に『その恋は歪すぎる』と言った親友の忠告が、胸の奥底で反響していた。


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