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ちょっと地球まで島流し  作者: ハツカ
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目立たないためには

 とある国で竹取物語という物語が出来てから1000年が経とうとしている現代。

 1000年の間に地球の人々は月に降り立った。

 人類の宇宙進出というべきビックイベント。

 だが彼らは勘違いをしている。

 世界、いや、宇宙は層で出来ている。

 それはパラレルワールドと言われているようなもので、彼らが住んでいる層の月に、誰も住んでいないだけなのだ。

 つまり、彼らが住んでいない層の月では、そこに住んでいる者たちが存在するということだ。

 その者たちは自分たちのことを地球人よりも高い層に住んでいると認識し、自らを「天人」と称して度々下層の地球人と接触してきた。


 彼らは月が誕生してから永い永い時を生きてはいるが、繁殖能力が低く、未だに数世代しか変わっていない。

 彼らには下層に住む者達は見えるが下層に住む者には高層に住む彼らが見えない。

 しかし、あえて見えるようにすれば、話し、触れることも出来る。

 とある学者の理論のように、認識されることによってそこに存在出来るようになるのだ。


 さて、天人と自称する彼らだが、見た目はヒト。見た目では見分けがつかない。

 そんな見分けのつかない天人が、ここ、日本に2人、存在する。


「桜舞い散る春、私達は期待に胸を膨らませ、この私立天翔学園高等学校へ入学しました…」


 入学式のスピーチが会場を震わせる中、その天人のうちの一人、望月冬哉はどうしてこうなってしまったのかと未だに嘆き、また別の一人、セレナ・クラヴィウスは周りからの突き刺さるうっとおしい視線に痺れを切らしそうになっていた。


 彼ら天人に姓は無いのだが、下層に降りる際にとりあえず付けられたその姓の通り、一人は日本人、もう一人は北欧系のような外見をしており、特にセレナは、いやでも注目を浴びざるをえなかった。


「なぜ、もっと目立たない場所にしてくれなかったのか…隠さなくてはいけないことは山ほどあるのに…」


 セレナは不穏な空気を撒き散らしながらブツブツ呟く。

 かわいそうに隣に座っていた女子生徒はその殺気に当てられて顔色が悪くなってしまっていた。


 そんなセレナを尻目に冬哉はこれからどう乗り切るのかを考えていた。

 冬哉の外見は日本人のそれではあるものの、病弱の美少年という響きが似合いそうな繊細なものだ。やはり目立つ。


 天人であることがバレないように行動しなくてはならない。という規則があるわけではない。バレたところで彼らは高層に住む生き物で、下層のものは傷つけるこもすらできない。

 今はただ、彼らに自分たちを認識させて、あたかもそこにいるかのように振る舞ってるだけだ。

 いざとなれば何を使ってでもトンズラすればいいだけの話。


 ただ、バレると面倒臭い。という理由。それだけだ。


 冬哉は聞こえてくるヒソヒソ話を早々にシャットアウトし、しばらく物思いにふけっていたが、ふと少し離れた席に座って殺気を放っているセレナを盗み見ると、すごいことになっていた。


 あのままではこの場で2〜3人本当に殺してしまいかねないような雰囲気であることを確認し、早くこの入学式とかいう苦行を終わらせてくれと心から願う。


 たかだか1時間弱が1000年に感じた。


「では、新入生諸君、各クラスの担任教師の引率に従い、教室へと移動してください」


 そんな教頭の号令に従い、セレナに向かっていた視線は霧散していき、冬哉はホッと息を吐く。

 いくら数が多く、争いも多く、生き急ぐ下層の地球人とはいえ、生き物は生き物。

 うっとおしいという理由で殺されてしまうのは余りにも忍びない。


 担任教師とやらに引率され、広い校舎の一角にある教室へと案内され、出席番号順に座らされてから、改めて周りを確認する。

 当然、下層の者ばかり。とりあえずセレナは同じクラスではあったらしい。

 不機嫌そうな顔で周りを威嚇してはいたが、外見のせいかあまり効果がないようだ。

 セレナは派手な見た目なのに地味目を志したせいか、金髪蒼目なのにゆるめの三つ編みにメガネ。もともとの繊細な美少女ぶりが地味に押されられた分、気安さが出来てしまっているのだ。

 案の定、前の席に座っている「イマドキ」な男子生徒にしつこく絡まれていた。

 冬哉はそっと目を閉じ祈る。


 …どうかあの弱き男があの万力女に締め上げられませんように。


「あ、あの…これから、よろしくお願いしますね。望月くん」


 突如として声をかけられた冬哉は驚き、目を開けた。

 どうやら冬哉は、後ろに座っている女子生徒に話しかけられたようだ。

 どことなくふわっとした印象を抱かせる正真正銘のか弱き少女が目に移る。

 とりあえず、普通の初対面の挨拶をされたらしいので、それらしく返すのが礼儀というもの。


「ああ、よろしくね。えーっと、柳瀬さん。どこ中出身なの?」


 こちら側に来る前に、ありとあらゆる下層の人々の会話についての本を読み漁り頭に叩き込んだ成果は問題なく発揮された。

 柳瀬綾、事前に配られていたクラス名簿でその名前が自分の名前の後ろにあることを確認した冬哉は、1ヶ月ほどは席も出席番号のままだろうし、世話になることもあるかもしれないと冬哉は考えていたため、チェックしていたのだ。

 元来冬哉は慎重派であり、なにより研究肌なのがこの場では功を奏していた。


 予想どうり、綾は緊張で強張っていた表情を緩め、冬哉の質問に答える。


「私は、北山中学。望月くんは?」


 シュミレーション通りの返しに、用意していた回答を自然に返す。


「俺、実は帰国子女なんだ。悪いけど、日本の常識ないと思うから、いろいろ教えてくれ」


 どうやら盗み聞きしていたらしいセレナが冬哉を睨んできたがさも知らぬふりをして無視をする。

 今にも罵声が飛んできそうだ。


『ふざけんな、私も日本人の見た目ならその設定使えたのに!』


 そんな罵声を幻聴として聞いてしまった冬哉だが、なじむための努力を怠ったセレナが悪いと割り切った。

 助ける義理などないのだ。


「帰国子女、すごいね。どこの国からなの?このクラス、外国からの人が多いのかな…」

「ああ、クラヴィウスさんね。ドイツの方の苗字じゃないかなぁ…あ、俺はアメリカからね。北の方だったから、日本の夏が怖いよ」


 用意していた台本通りの対応をしながら、冬哉はなぜ自分たちが下層に降りて学生の真似事などをしなくてはいけなくなったのかを再び思い出す。

 それは、ほんの少しの気の緩みから出たミスだったのだ。


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