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黒檀のデスクに新型のデスクトップパソコン。
壁紙は真っ白で絵やカレンダーの一つも飾られていない。
部屋の隅には植物が飾られ、床には赤い絨毯が敷き詰められている。
椅子には豊かな胸を黒スーツに押し込み、50デニールの黒ストッキングを履き、銀縁のメガネをかけて、ブロンドの髪をひっつめた女性の姿。
「こんにちは。鶴桜侯爵夫妻のお子さんで間違いないですか?」
一片の温かさも感じさせない声で女性が尋ねる。
「…」
「ああ、ごめんなさい。現在あなたの両親は爵位持ちではないみたいですね」
「…」
「えー……あなたはですね、厳正なる抽選の結果、我々が祝福を授けることになりました」
「…」
「ええ、ええ。落ち着いてください」
「…」
「まあ、落ち着くと言ってもあなた受精卵なんですけどね」
「…」
「いや、その……。長いこと独りですとね、こう、一人芝居とか独り言が増えてしまってですね……って誰が万年独身やねん!」
「…」
「…………」
「…」
「……………決裁印どこやったっけ」
「…」
「…あったあった。自分で置いたのに、無くしたと思って慌てて探すことってありますよね」
「…」
「はいオッケーでーす! これであなたは立派なレディとして長生きすることでしょう! ………数百年ほど」
「…」
「あなた様が無事に着床することを願っております! Bon voyage!」
すると、受精卵が一瞬で目の前から消える。
消えるも何も小さすぎて最初から見えていなかったのだが。
「………行ったかな?」
「よし。お仕事終わりー!あとはこの書類をボスに渡して……おっと祝福の証拠として彼女に何か渡さなければ」
そう呟きながらデスクからカタログのようなものを取り出す。
「んー、銀の弾丸でいっか! 確か軍人の家系だったし! んじゃ書類に書き足してっと」
自分のデスクに戻り書き足す。
「それにしても軍人で貴族って大変そうよねー。でも次男ってことはそうでもないのかな?」
独り言と共に書き終わり、ふと違和感を感じる
「次男?次女じゃなくて?」
溢れ出る冷や汗。見たくない、しかし見なければならない。
「神様どうかお願いします……! ゔぇあっ! 次男って書いてある!」
現実は非情である。
「そうじゃん、この家は女の子いないから生まれるとしたら長女じゃん! やっべぇ。……やばいぞー。これアカンやつやぞー……」
「どうすんべなー。素直に言ったら説教でしょー? 黙ってたら……説教だよなぁ」
さらに減給もありえる。
「いっそのこと逃げてしまおうか……逃げ?…そうだ! 私はこれを見なかったし気付かなかった…は怒られるから、力及ばずに女の子っぽくなっちゃっただけです!私は悪くない!」
怒られたくないという子供のような理由で逃亡が決定する。
「よーし! そうと決まれば行く場所決めないとね。金髪が目立たない国で、比較的日本の情報が入りやすい国………イギリスでいっかな?」
即座に出張申請書を書き上げ先ほどの書類と共にデスクの真ん中に置いておく。
「ここに置いとけば誰か気付くでしょ。それじゃ、行ってきまーす!」
こうして受精卵は祝福を受けたとは思えないスタートを切ったのである。
都内 某病院
貴族やお金持ちの人間が利用する病院の一室。
ここに鶴桜 智哉は呼ばれていた。
「この度はおめでとうございます」
「ありがとうございます。 それでどうしました? 何か問題が? 母子ともに健康なのでしょうか? いや………アレが病気などなるはずもないから子供に? ここここここ子供になにかあったんですか!?」
「あー、お父さん?落ち着いてください。心配なのはよくわかりますがね? とりあえずお掛けください」
「うぁ、いや…でも………ええ、失礼します」
「えー、その………おじいさん? できれば貧乏ゆすりをやめていただきたいのですが」
「うん? わたしゃ何も心配しとらんぞ!? えぇ? 先生の腕がいいのは私がよく知っておる。な、智哉くん?」
「はいもちろんです! 先生にはお世話になって………」
「あー、えー…信頼してくださっているのはありがたいのですが、どうか落ち着いてください、ね?」
落ち着かせるのに20分かかった。
「今回お話しさせていただくのは」
「うん? それはへその緒を入れる箱なのではないのかね?」
「はい、こちらの桐の箱には」
「もう入ってるんですか!?」
「いえ、まだですね。それでですね」
「なるほど、名前を入れるから教えろということだな?」
「えー、違います。少し落ち着いて……」
「では、切る場所が悪すぎて収まりきらないとかですか?」
「そんなことはありません。お話しというのはですね」
「それはいかん! 智哉くん、早急に箱を用意せねばならんな」
「違うって言いましたよね? 話聞いてました?」
「そうですね! お義父さん、やはり桐が良いのでしょうか?」
「あっ、聞いてないですね。できればこちらの話に耳を…」
「そうだな、至急取り寄せねばならんな」
「お願いですから私の話を聞いてください」
黙らせるのに30分かかった。
「どうぞ、開けてみてください」
「失礼します」
「これは……弾丸?」
「うむ、しかもシルバーチップではないか。これがどうかしたのか?」
「そのー、大変申し上げにくいのですが………」
「よい、よい。遠慮せず言うがよい。我々はどんなことでも受け入れるぞ? な、智哉くん」
「はい、なんでもおっしゃってください」
入ってきたときの様子を思い出していただきたいと言いたいが、言わない。大変人間ができているお医者様である。
「これがですね、あのー……奥様のですね、胎盤と一緒にですね、出てきました」
重たい空気が部屋を包む。
「これが、か?」
「これが、です」
「妻のお腹から、ですか?」
「奥様のお腹から、です」
数々の戦い(各々の戦いの内容は異なります)を制してきた男たちが黙り込む。
「これ、12.7mm弾ではないか?」
「申し訳ありません、私の主な仕事は書類の相手でして…」
「私も軍には籍を置いたことがないのでなんとも…」
「その、先生? 本当に妻のお腹の中から出てきたのですよね?」
「はい、本当に奥様のお腹から出てきました」
「こ、子供に影響は」
「いえ、これといった問題はございません。ただ……」
「ただ、なんですか?」
「どうしてこれほどの大きさのものがエコー検査で見つからなかったのかと……」
「あぁ、それは……しかし、なぜこのようなものが?」
「私どもも議論を重ねましたが結論は一向に出ず……大変お恥ずかしい限りです」
「いえ、よいのです。母子ともに健康ならそれで。ですよね、お義父さん! お義父さん? どうかなさいましたか?」
「いや、その……な。あいつは性欲が強いだろう?」
「えぇ、まあ、そのですね、あぁっと………はい」
「それでだ。妊娠中は………その、出来ないだろう? そこで、これを使って発散していたのだとしたら」
「いや、しかしですね。出産間近で……いや、ありえるかも」
さらに重い沈黙に包まれる。
「私は父上に報告してくる」
「いや、待って下さいお義父さん? ここから逃げ出そうったってそうはいきませんよ?」
「いやいや、夫婦間の問題に私が首を突っ込むのもおかしいな話だろう? それに父上も楽しみに待っておるのだ」
「いやいやいや、これは家族みんなで話し合うべきでしょう?」
「いやいやいやいや、私が娘の性的満足度なぞ知ったって気まずいだろう? それは2人で話し合ってくれはしないか?」
「いやいやいやいやいや、妻と二人っきりでそんな話しはしませんよ!?ここで私だけ残ってどうしろというのですか!」
「いやいやいやいやいやいや、知らんよそんなことは! 先生と一緒にあいつのところへ説明に行けば良いではないか!」
ここで黙って成り行きを見ていたお医者さんが口を開く。
「ひとつ、提案が……」
「いやいやいやいやいやいやいや! それこそ私1人で行けというのですか!?」
「やっぱり聞いてもらえないのですね。」
「ほ、ほれ。先生が話しがあると言っておるぞ! ちゃんと聞いたらどうだね!?」
「あっ、聞こえてらっしゃったんですね。それでですね、話というのはお祖父さん……」
お祖父さんといった時点で嬉しそうに笑う旦那。
「ぴゃーーーー! お話があるのはお義父さんにですって! 報告は私がしておきますからゆっくり、一字一句漏らさぬようによーく聞いてきてくださいね!」
これが義理の父に対する態度なのだろうか。
「いえ、旦那さんに……」
お祖父さんのターン。
「ダハハ! お祖父さんではなく旦那さんにお話だと! あばよ! 智哉くん、頑張りたまえよ? ブハハハッ!」
諦めの境地に達した先生。この2人に黙って話しを聞かせる方法はひとつしかない。
ゆえに、後ろで顔を引きつらせている看護師にこう言った。
「すまないが鎮静剤とガムテープを持ってきてくれないか?」
3分後、屈強な男性看護師に取り押さえられてガムテープで口を塞がれた2人にこれはここだけの話しにすること、近隣の産婦人科医には緘口令を敷いた上で事実を話すことを伝え、承諾書にサインを書かせたのであった。
こうして平和的な解決に成功したのだが、これを機に妊婦の性欲解消法が大真面目に議論されることとなったのである。
鶴桜 瑞希 24歳
遠洋練習航海から帰ってきた翌々日の午前11時。
起きたら部屋に来なさいという父親からの言伝を賜ったメイドの伝言により私は父の前にいる。
父の前と乳の前、読みが同じである上に目の当たりにした時の緊張感も同じである。さらに慣れると緊張しなくなる点まで同じである。……つまり父=乳と言えるのではなかろうか!?
これは学会に発表せねば!
などと高尚なことを考えていると父から声がかかる。
「またロクでもないことを考えているな?まあいい、まずは卒業おめでとう」
いくら緊張していないとはいえ相手は海軍少将である。礼儀は必要だ。
それと考えていたのはとても崇高なことです。
「ありがとうございます、お父様。それで話というのは?」
「本当は昨日の夜にでも話してしまいたかったのだがね。飲みに行ったというじゃないか!帰ってきてから話そうと思って待ってたのだがてっぺん回っても帰ってこない。いつまで飲み歩いていたのかな?」
二言目には小言である。
「2時です」
「ほー!2時! 2時ですってよ奥さん!こっちは帰りが遅い息子を心配してたってのに?当の本人は2時までお酒を嗜んでいたと?」
あなたの奥さんは他所の国で多国籍軍の一員となってライフル振り回してますよ?
「私もお酒飲みたかった!」
それが本音か。
「そんなこと言われましても。演習が終わって部隊に配属となると会う機会も減りますし」
そうなのだ。
兵学校卒業後の配属先は航海中に発表があり、ともに艦に乗っている指導員や士官、はたまた下士官にまで部隊の雰囲気やお得なスーパー、家賃相場などを聞いて回り、それが縁で少しだけ仲良くなるというイベントがある。
配属先は様々でいきなり国外勤務というのはないものの、全国各地の基地へと散り散りとなる。しかも日本海軍は規模が大きく外洋海軍であるため出港すると半年会えないなどということがざらにあるのだ。
卒業以来、タイミングが合わずに海軍大学校でたまたま10年ぶりに再会するなどということもあるらしく、それを知っているというより経験している司令や艦長をはじめとする先輩士官が店を貸切にしてくださったのだ。
そして、酔って演説をぶちあげる先輩たちの面倒臭さを身を持って味わったのだ。
以上のことを伝えると父は気まずげに視線をそらす。
仮にも兵学校出身の海軍軍人。身に覚えがあるのだろう。
「そのことなのだがな」
おっと、もう少し朝帰りの追求をされると思ったのだが。
「お前には習志野に行ってもらう」
「はあ………習志野…」
習志野と言えば陸軍の習志野駐屯地のことを指し、4年前に落下降下訓練で行ったきりである。
「空挺バッジを取って来いとでも?」
つい一昨日まで海軍の航空要員として訓練をしていたのだ。
まさかそんな訳がないと思いつつ尋ねる。
「察しがいいな。その通りだ」
そんな訳があったよ。
「はぁ? 嫌なんですけど?」
もはや礼儀なぞ知ったこっちゃない。
胸に付けるバッジはウィングマークだけで十分である。こちとら空挺降下する人間を送り届ける輸送機を護衛する側だったのだ。送り届けられる側になりたいと思ったことはない。
「命令だ。空挺基本訓練課程を修了してきなさい」
命令だと言われてしまうと反論できない。やだ、まるで根っからの軍人じゃない!
「しかし、陸軍が許可するとは思えませんが」
こちらは海軍、あちらは陸軍。組織間の仲は徐々によくなってきているらしいが、しっかりと住み分けはできているはずだ。
「知ってるかい?君のお爺様は海軍大臣なんだよ?」
これだから権力者は。
「ねじ込んだのですか?」
「人聞きが悪いね。陸軍の菊桜 将道大臣にお願いしただけだよ」
と、言いつつ渡された写真を見ると若い女性を5人ほど侍らせた菊桜大臣が料亭に入って行くところがしっかり写っていた。
70歳になったというのに元気なことである。
恐らくこれを使って"お願い"をしたのだろう。
「まあ、なんでもいいですけど」
かわいそうにと思いつつも自業自得なのだからしょうがないと納得し、写真を懐に入れる。
「それで?入校はいつです?」
「今年の12月からだよ。写真返して」
「いやですよ。私も使いますので。では、それまでは何を?」
これを持って菊桜さんちの爺さんのところに行って2度とこのようなことがないようにお願いしなきゃ!この写真は保険だからね。使わないよ?使わないで済むならね!
「ああ、最近ヘリばかり飛ばしてたんだろう?横須賀に停泊中の翔鶴でジェット機を飛ばす練習をしていてくれ。写真はお前が使っても効果は薄いぞ?」
一応効果はあるらしい。なおさら返す訳にはいかないね。
「使えないわけではないのでしょう?では、卒業したら艦載機のパイロットとして任官ということですか」
「そうなる………のかな?浮気は男の甲斐性という言葉を知ってるかい?」
浮気相手5人をまとめて相手するとかこのジジィはどんだけ体力があるんだ。
「それは知っていますが……なんなんですかその胡乱な返事は」
「決めたのはお義父さんだからよくわかんないんだよ。私は人事教育部長という立場をちょこっと使って配属に待ったをかけただけさ。いい加減に写真を返しなさい」
「そうですか。お爺様からの命令となるとどうしようもありませんね」
「だろう?だからおとなしく写真を返して横須賀に行きなさい」
「父上は婿養子であるがゆえ肩身が狭いようですね」
「うん? どうしたんだ突然。その通りだが」
「実はとある筋から我が家の秘密を入手いたしまして……」
「秘密? そんなものないよ? 軍事機密ならいくらでもあるがね」
「そうですか。では、妹のことで何か隠していませんか?」
実は妹に関しては昔からおかしいと思っていたのだ。
我が家系に巨乳はいない。全員がぺったんこである。まな板である。絶壁である。御多分に洩れず母親もお山がない。
その中で妹だけが豊かなものをお持ちなのである。14歳にしてCカップくらいはあると思う。平原に突如現れたお山だ。天変地異である。
なぜ妹のおっぱいのサイズを知ってるかって?
毎回報告にされるのよ。
今年は航海中に無線で報告してきたからね。「C(65)になりました!お兄様も頑張ってください!それではっ!」ですって。
ちゃんと主語を入れてくれないと何を頑張ればいいのかお兄ちゃんわかんない。つまり、バスト=胸筋の我が家系にあるまじき発達をしているのだ。
「優海に?知らんなぁ」
しらばっくれやがった。
いいや、爺さんに聞いてみよう。
「そうですか。では、私はお爺様に挨拶をしてきますので」
回れ右して出口へ。
「オーケーわかった。写真を渡そう。もともとそれはお前にあげるつもりだったんだ。本当さ。…本当だぞ?僕が嘘をついたことがあるとでも?海軍の人事教育部長であり次期鶴桜家当主である私が嘘をつくはずがないだろう?だから、その……挨拶とやらの内容を教えてくれないかい?いや、お義父さんに失礼があってはいけないからな。だから、な?教えてくれよ」
え、突然なに!?
部屋を出ようとしただけなんですが! 挨拶って「こんにちはお爺様、くたばれ」って言うだけですよ?
それならいい? 失礼という言葉の意味をご存知で?
「もう行っていいですか?」
いい加減疲れたわ。早く行って私になにをさせようとしているのかゲロって………失礼、お話ししていただかねばならんのですよ。
「もうちょい待って!もう少しおしゃべりしようや!な?」
ナンパかな?
「何を騒いでいるのです?」
親父が私を引きとめようと躍起になっていると、隣の部屋で書類整理の手伝いをしていたらしい兄が出てきた。
「あらお兄様。ただいま帰りました」
「おう 帰っていたのか」
「ええ、昨日に」
「それで、さっきの騒ぎは?」
そりゃ気になりますよね。
「それでしたらお父様が」
「あーーーーーー!信武ぇぇぇ!書類整理は終わったのぉぉぉぉぉ?」
うるせぇ!
さっきからなんなの?
「ええ、終わりましたよ」
やだ、お兄様ったら冷静。さすがお兄様!なかなかできることじゃないよ!
「そうかそうか!悪いがこっちに持ってきてくれないか!」
「はぁ、では失礼します」
Oh! He's so cool!!
何も聞かずに引っ込みますか。
「ほらこれ!他の写真とお金。久しぶりの陸だっていうのに何もしてないんでしょ?観光でもしてきなさい。ね?」
だから観光ではなく挨拶に行くと何度も。
……でも?観光に?行けって言うなら?行ってやらんことも?ないかなーって。
渡された、というより押し付けられた封筒の中身を見てみると何枚かの写真と諭吉さんが1人。しょっぱい!!
「………お兄さまー!」
「あーーーーーっ!ほら、これでどうだ!」
諭吉さん2人追加っ! いや、給料はもらってるんですけどね? 人のお金で贅沢したほうが気持ちいいじゃん?
「どうした?」
さっきの私の声を聞いて出てきたらしい。
チラッと親父を見ると必死でウインクしている。
おっさんウインク★
どうしよう………凄く気持ち悪い。
「いえ、今からお爺様のところに行きますので一緒にどうかと」
親父めっちゃホッとしてるやん。
「ん、そうか。では俺も行こう…」
「おっと信武くん。まだ手伝って欲しいことがあるのだが?」
そんな食い気味に言わなくともしゃべったりしないっての。
「そうですか。 という訳ですまないがついて行けそうもない」
「分かりました。それではまた」
「おう、またな。爺さまによろしく言っといてくれ」
「お義父さんに今度ご飯でもどうですかって伝えておいてくれ。あと、挨拶が終わったら戻ってきてくれよ?」
余計なこと言わなかったか聞き取りをするつもりなのだろう。信用されてなさすぎて凹む。
これ以上信用のなさを目の当たりにする前に部屋を出ようとすると、親父と兄が何か言いたそうにしているのが目に入る。
なに?兄からも信用のなさを突きつけられるの?
「何か言いたいことでも?」
聞いてやろうではないか。
「いい加減髪を切らないといつも以上に女みたいだぞ?」
聞かなきゃよかった!聞かなきゃよかった!!昔から気にしてるの知ってるくせに!
「うるさいよ。もう行きます」
扉の前で一礼して廊下へ出る。
どんなにイラついていてもこれだけは忘れない。もはや癖だね。
敬語とともに家族の前でくらいやめなさいと言われ続けているものであるがしょうがないね!癖は直らないからね!直そうとも思わないけど!