思い出作りの下拵え
六.
「思い出作り?」
ベテルギスクは三つの目を瞬かせてから、口角を緩めた。
「いかにも青春、って響きだね」
日当たりの良い談話室で、礼司はベテルギスクと向かい合ってテーブルに付いていた。両者の間にあるテーブルにはオセロが広げられ、白と黒のコマが緑色の盤にまばらに置かれていた。勝負は五分五分、といったところだ。
「じゃ、次は俺な」
礼司は黒のコマをつまむと、空いているマス目に置いて黒で白を挟む。
「でも、どうしてそんなに余のことを気に掛けてくれるの? ……嬉しいけど」
ベテルギスクは爪先で慎重に白のコマを挟み、んー、と思い悩む。
「まあ、あんまり細かいことは気にするなよ。で、どこに行きたい?」
礼司は頬杖を付き、ベテルギスクを見やる。日曜日のまろやかな日差しによって魔王の威圧感は薄らぎ、三つの赤い瞳も眼差しが柔らかい。もっとも、それは礼司の主観だ。ベテルギスクと接するようになってからは、彼の人となり、というか人外となりに触れるに連れて第一印象は氷解した。今となっては、ベテルギスクは手の掛かる弟のような感覚だ。実年齢は大幅に違うだろうが。
「行きたいところ、っていうと、一杯あるんだけどね」
ベテルギスクは談話室のソファーを埋め尽くす巨体を縮め、はにかむ。
「余は螺倉からほとんど外に出なかったから、そうだな、海を見てみたいな。螺倉の外に出てちょっと行けば、海があるんでしょ? 余の世界の海は煮えたぎった溶岩だから、冷たくてちゃぷちゃぷした海が見てみたいな。出来れば、ちょっと触ってみたいかも。でね、貝殻を拾ってみたいな。あと、波で削れたガラスの欠片も。それを綺麗な箱に詰めたり、ドライフラワーと一緒に可愛い小瓶に入れたり、額縁の飾りにしたり……」
「描写から何から何までいちいち乙女チックだな」
「え、あ、ごめん」
「いや別に責めちゃいないけどさ。慣れてきたし」
どうしてこれが魔王で、アレが姫騎士なのだろう。礼司はこの世の理不尽を目の当たりにしながら、女子寮と男子寮の間にある中庭で汗だくになって自主鍛錬に励むブレイヴィリアを見やった。かれこれ一時間以上も仮想敵を相手に徒手格闘を行い続けている。その前はグラウンドを三十周走り込み、更にその前は筋トレと、見ている方が嫌になるほど己の体を痛め付けている。だが、どれほどブレイヴィリアが激しく動き回ろうと汗を散らそうと水を被ろうと、金髪縦ロールだけは解ける気配すら見せない。光沢といい髪型の丈夫さといいバネ状の動き方といい、あれは実はワイヤーで出来ているのではないだろうか。ともすれば、ブレイヴィリア自身も鋼鉄製ではなかろうか。実際、鉄の女と呼ぶに値するが。
「せっかくだから、小林先輩も誘ってみねぇ?」
礼司がブレイヴィリアを示すと、ベテルギスクはひっと飛び退く。
「やっ、やだよぉ、先輩が一緒だと……余は……」
ふえええ、と情けなく嘆いたベテルギスクは後退りに後退り、談話室の壁際に背中を当てた。礼司は片足を膝に載せ、つま先をぶらぶらさせる。
「遊んでいる間ぐらいは、さすがに小林先輩も襲ってこないと思うぞ?」
「そりゃ阿部君達は襲われないけど、余は違うもん。余は……」
ベテルギスクは部屋の隅に至ると、カーテンを被り、丸まった。
「それ、外から見ると丸見え」
礼司が指摘すると、ベテルギスクはびくついた。途端にブレイヴィリアが駆け寄ってきて、外から談話室の掃き出し窓を全開にした。
「ここで会ったが一千万年ーっ!」
「いやああああああ!」
ベテルギスクはすぐさま逃げ出そうとするが、カーテンに足を取られて見事に転んだ。ブレイヴィリアは泥まみれのスニーカーを脱ぎ捨て、談話室に上がり込んでくる。水を得た魚ならぬ仇敵を得た姫騎士は哄笑しながらベテルギスクに詰め寄り、半泣きのベテルギスクの頭を鷲掴みにしようとした正にその時。
「あんたら、マジウッゼェんだけど」
談話室のもう一つのソファーセットから、人型のユニコーンが起き上がった。シルクのように滑らかな白い毛並みと額から伸びた螺旋状のツノ、豊かなタテガミは後頭部で一括りに結ばれていて正真正銘のポニーテールである。学校指定ジャージの裾から出ている獅子の尾は不愉快げにしなり、ソファーのクッションを叩きのめした。彼の蹄にはニンテンドーDSが縦型に握られていて、尖った耳にはイヤホンを差している。
「あ……ごめんなさい」
ベテルギスクが平謝りすると、ユニコーンは派手に舌打ちする。
「おかげで俺の嫁のセリフが聞こえなかったし。てかリア充してんじゃねぇ」
「ごめんなさい……」
ベテルギスクは首が折れかねないほど頭を下げるが、ユニコーンはまだ愚痴る。
「つかさ、そこの暴力女ってお前んとこの出身だろ? ちゃんと躾けとけって」
「いや……その、余と小林先輩は出身は厳密には違うし、敵同士だし」
「そんなん俺は知らねーし。てか、処女でもあんなメスゴリラを俺の縄張りに入れるなっての。マジ興醒めなんだけど。つか、マジいらね」
「あれ、どこのクラスの生徒?」
礼司が声を潜めてベテルギスクに尋ねると、ベテルギスクは小声で答えた。
「あ、うん、高等部二年C組の白馬・ユニコーン・一角先輩。結構、怖い」
名は体を表し尽くしている。
「つか何それ、俺にケンカ売ってんの? てか俺の視界に入るなよ、ウゼェ」
白馬はその美麗な外見とは裏腹に、歯茎を剥いて威嚇してくる。そういえば、ユニコーンは元来凶暴で処女の前だけ大人しくなる種族だ、と何かのゲームの攻略本に書いてあった気がする。礼司はベテルギスクを小突き、廊下を示す。ベテルギスクも頷いて廊下に向かおうとしたが、ブレイヴィリアはつかつかと歩いて白馬の元に歩み寄ると、その手中にあるDSを手刀で叩き落とした。
「鬱陶しいのは貴様の方だぁああああっ!」
話を蒸し返すどころかガソリンを注ぎ込んでどうする。礼司はブレイヴィリアを諌めようとするが、ブレイヴィリアは凶相で礼司を睨め付けた後、絶叫しながらDSを取り戻そうとする白馬を罵倒し始めた。
「貴様はそれでも剣を持って生まれ落ちた身の上か! さあ立て、走れ、そして武器を持て! 日の高いうちから非生産的な娯楽に興じおって!」
「データ飛んだらどうしてくれんだよぉおおおおっ!? 俺とネネさんの愛の軌跡がお気の毒ですが冒険の書は消えました状態になったらどう責任取ってくれんだぁああああああっ!」
その気持ちは痛いほど解る。一瞬、礼司は白馬に同情しかけた。
「どいつもこいつも多次元宇宙の出身のくせしやがって、どうして誰もネネさんを俺の元に連れてきてくれないんだぁああっ! つか俺がなぜ二次元に行けないのかと小一時間! カモン二次元、レッツオール処女、滅びろ中古!」
が、一秒も経たずに白馬に対する同情心は綺麗さっぱり吹き飛んだ。礼司はなんでもいいからこの場から退散したいのでドアを開けようとすると、ブレイヴィリアが無駄に勇ましく言い返した。
「どの多次元宇宙であろうと、貴様のような輩に操を立てる娘がいるものか!」
「なんだとこの金髪ドリルビッチ脳筋ババァ!」
「貴様、この私を侮辱したな!? しかもこの世界では最低な言葉で!」
「俺以外の男と口利いた時点でビッチなんだよこのドグサレビッチ!」
「いくら馬並みといえど、鞘を被っておっては切れ味も悪かろうな!」
「ばっ、べっ、バァアアッカじゃねぇのー!? 俺のはそんなんじゃねーし!」
「試し斬りすらしたことのない剣で私を斬れるものか!」
「てか馬鹿言ってんじゃねーし! 俺は無駄撃ちしねー主義なんだよ! てか処女以外のに触らせるわけねーだろ! 腐っちまうし!」
「ならば腐らせてみせようではないか! ふんぬっ」
「あうおっ!? うぐぇっ!?」
「……意外に大したことはないな。馬並み、とは言い過ぎたか」
「んげぇええええええ、捻るな揉むな引っ張るなぁあああっ!」
居たたまれなくなって礼司とベテルギスクは背を向けたが、何が起きているかは大体想像が出来た。男子生徒同士でも、もうちょっと優しく戯れる。今一度白馬に同情しながら、礼司は彼の下半身の無事を祈った。同性として。
「これに懲りたら二度と私のベテルギスク十三世を脅かすな。私以外の誰に脅かされてもならぬ、ベテルギスク十三世を追い詰め、泣かせ、困らせ、嘆かせ、怯えさせ、屈させるのはこの私にだけ許された唯一無二の権限であり美徳だ!」
ブレイヴィリアはなぜか勝ち誇っていた。散々弄ばれた白馬は床に沈んでいて、身を挺して守り通したDSを胸に抱え込んでいた。
「さて」
次の犠牲者を求めてブレイヴィリアが向いたので、礼司はびくりとした。
「えっ、あっ、はい」
「阿部礼司、貴様は私に何か用事があるのだろう? そうでなければ、休日を潰して寮に赴くはずがなかろう」
「え? 阿部君、余と遊ぶために来てくれたんじゃないの……?」
「何、そうなのか? ならば許せん、その首刎ねてくれよう」
「阿部君……ひどい……。余じゃなくて先輩とだなんて……」
顔を覆ってしくしく泣き出したベテルギスクに、謀反者に対する軽蔑しきった目付きのブレイヴィリアに、礼司は心底面倒臭くなった。なんだこの三角関係。
「えー、と」
とりあえず話を整理しよう。だが、その前に場所を移した方がいい。
「ジュース奢りますよ」
男子寮の談話室から総合棟の校内売店に移動し、礼司は前言を撤回出来るはずもなかったので二人にジュースを奢る羽目になった。土日は売店も休みなので、動いているのは自動販売機だけだ。ブレイヴィリアはスポーツドリンクのペットボトルを、ベテルギスクはフルーツ牛乳を選び、礼司は一番安い紙パックの牛乳を買った。売店前に設置されている丸テーブルを三人で囲み、それぞれで喉を潤しながら話を再開した。
「なるほど」
思い出作りと聞き、ブレイヴィリアは関心を示した。
「確かにそれは興味深いな。私はベテルギスク十三世よりも螺倉に来るのが遅かったからな、地理にも疎い。斥候を出している余裕もなければ、そのような人員を招くことも出来なかった。螺倉周辺の地形を確認しておけば、今後の戦略に有意となるのは間違いない。よし解った、同行してやってもいいぞ」
「いや、だから、思い出作りですよ?」
飲み終わった牛乳パックを握り潰した礼司は認識を改めさせようとするが、ブレイヴィリアの常識には歯が立たなかった。
「阿部礼司を丸め込んで私を填めようとしてもそうはいかんぞ、ベテルギスク十三世。貴様の打ち立てる戦略は私が全て覆してくれるわ」
「もうなんでもいいです」
この人には何を言っても無駄だ。礼司がぼやくと、彼女から出来る限り離れた位置でフルーツ牛乳をちまちまと啜っていたベテルギスクが意見した。
「でも、余と阿部君と先輩だけだと、ちょっと……」
「阿部礼司以外の手勢を増やす気か? ならばこちらにも考えがある」
ブレイヴィリアはポケットからシルバーで二つ折りの携帯電話を出し、ぎこちなく操作してメールを打った。それから数分後に現れたのは、継美だった。
「何か御用ですか、小林先輩」
「あっ、えっ?」
嬉しいが、嬉しすぎて思考停止した。礼司が固まっていると、ブレイヴィリアは携帯電話を閉じてポケットにねじ込んでから継美を出迎えた。
「おお、本当に届いたか! 私のメールが貴様の携帯電話に!」
ブレイヴィリアは継美の手中からピンクの携帯電話を奪い取り、メール受信ボックスを確認して感嘆した。女子高生というよりも、IT機器に不慣れな中高年のリアクションである。継美はブレイヴィリアの手から自分の携帯電話を取り戻すと、手早く操作した。
「保存、保存……」
その横顔は妙に緩んでいて、礼司は無性に切なくなった。たかが用件を伝えるメールでそんなに喜ぶなんて、継美はどれだけ他人との触れ合いに飢えているのだ。そんなので喜ぶのならいくらだってメールを送ってやるのに、と礼司は言いたくなったが、本題から逸れてしまうので我慢した。
「で、その」
礼司が本題に入ろうと口を開いた途端、売店の影から何者かが飛び出した。
「チェエエエエストォオオオオオオオッ!」
気合い充分の掛け声が接近するや否や、礼司の背中に強烈な打撃が襲い掛かった。避けることも受け流せることもなく、我ながら情けなくなるほど綺麗に吹っ飛ばされた礼司は廊下を二転三転した。強かに打ち付けた肩を押さえながら起き上がると、テーブルの上にはあの小学生にしか見えないラミアが載っていて、平べったい胸を恥ずかしげもなく張っていた。
「さあさあこれで安心でござりまするよ姫様! ご覧の通り、姫様を脅かす不届きな害虫は駆除いたしましたで候!」
「えっと、確かあんたはマキナって」
よろけつつも起き上がった礼司が漏らすと、幼いラミアはテーブルから飛び降りて尻尾の尖端で床を叩き伏せた。
「無礼者めが! この長尾・ラミュロス・マキナ、おぬしのような平民如きに返す言葉を持ってはおらぬわ! 恥と知れ!」
だが、見た目がちんちくりんなので、どれほど威張られても威厳はない。
「分を弁えぬか、他国の姫と王の御前であるぞ」
すぐさま邪竜族の姫君モードに切り替えたのか、継美の声色が重たくなった。マキナは振り返ると同時にひれ伏し、冷たい床に額を擦り付ける。
「申し訳ござりませぬ。この不肖な家臣をどうぞお許し下さりませ」
「罰しはせぬが、しばし口を閉じておれ。面を上げてよし」
「ははぁー」
時代劇のようなやり取りの後、マキナは素直に引き下がった。継美はマキナの目を気にしつつ、改めて礼司と向き直った。吊り上がった赤い瞳に捉えられた瞬間、礼司は本能的に体が竦みかけた。縦長の瞳孔には暖かみはなく、薄い唇の合間から零れる牙には愛嬌はない。継美自身がいくら邪竜族の姫君であることを否定しようとも、やはり彼女は紛れもなくリンドヴルムなのだ。
「して、阿部礼司」
フルネームで呼ぶのが少し恥ずかしかったのか、継美の語尾が僅かに上擦った。礼司はテーブルに戻りたかったが、またマキナに突っ込まれては困るので床に直接座った。そのために目線が低くなり、図らずも継美の生足を目の当たりにしてしまった。継美の部屋着は淡いイエローに小花柄のゆったりとしたワンピースで、襟元にはフリルがあしらわれているのでシンプルながら可愛らしい。威厳を醸し出そうとしたのだろう、足を組んだために裾が上がり、引き締まった脹ら脛と膝が露わになり、程良い肉付きの太股が少しばかり覗いている。足を組み直したりすれば、確実にその中身が。
見えるのか、見えたりしちゃったりするのかもしかして。だが、そういうのは倉田・クラーケン・健人の役割であって礼司のキャラではない。だから、見える位置にいたとしても決して見るわけがなく、見えたとしても見るわけがなく。いや、見えたとしたらしっかり見るけど。男として。
「そなたは地べたを這いずる身の上でありながらも、ベテルギスク十三世陛下とブレイヴィリア姫様を外界へ連れ出す誘いを掛けたそうではないか」
「ええ、まあ」
気弱な本性とは正反対の継美の態度に、礼司は背筋がぞわりとした。嫌悪感や恐怖からではない、同情でも浅い恋慕でもない、純粋かつ強烈な感覚からだ。そして、ここまで来たなら継美の秘密の花園を目にしてやる、脳裏に焼き付けてやる、という訳の解らない使命感が礼司を正座させていた。
「平民にあるまじき蛮行であるが、行動力は正当に評価してやろう。しかしだ」
継美はテーブルに肘を付いて頬杖を付き、礼司を見下ろしてくる。
「この私に目もくれぬとは、良い度胸だ。ここが地球でさえなければ、そなたの目玉を引き抜いて我が牙で潰してくれたものを」
「ああ、その……すんません」
「言いたいことは、それだけか?」
継美の尻尾が軽く持ち上がり、鋭利な棘が礼司の首に据えられる。礼司は棘が触れるか触れないかという微妙な距離感にどぎまぎしながら目線を彷徨わせると、尻尾の根本へと視線が動いた。尻尾によってワンピースの裾が持ち上がっており、薄暗い影の奥には健康的な肌色の素足があり、更にそのまた奥には。
「さっ、差し出がましいことを申し上げるようではござりまするが、よろしければリンドヴルムの姫様もご同行願えませんでしょうかぁっ!」
興奮と諸々の衝動に駆られて這い蹲った礼司が喚き立てると、継美の尻尾がびくっと波打ってから下がった。継美は裾を直してから、顎に手を添える。
「確かに、そなたのような生まれでは王族を相手には出来まい。よかろう、私もそなたの立案した外遊に同行してしんぜよう。して、日取りは」
「それはこれから話し合いで決めるところでして」
「そうか。ならば、早急に決めよ」
継美は言葉遣いこそ威圧的だったが、語気は弾んでいた。声色も平常時と同じかそれ以上に高くなっていて、飼い主に褒められたイヌのように尻尾がしなっている。礼司は一気に頭に血が上ったが、それを誤魔化すために勢い良く突っ伏した。当然廊下に額が激突し、間抜けな音が響いた。
「日取りを決めた暁には私に伝えよ。良いな」
継美は威厳を保とうと頑張っていたが、表情も声色も明らかに浮かれてきたので、足早に立ち去っていった。それをマキナが追い掛けていったらしく、お待ち下さい姫様、との声もまた遠ざかっていった。額に鈍い痛みを感じながら礼司が顔を上げると、ベテルギスクがおどおどしながら話し掛けてきた。
「えっと、その、阿部君って横嶋さんの配下だったの?」
「いや……その、なんていうか、物の勢いで」
好きな女の子のスカートの中が見たい一心だったからだ、などと口が裂けても言えまい。だが、見られたかどうかは解らない。目を凝らしている余裕はなかったし、見えたのはせいぜい太股だ。礼司は少し痺れた足を伸ばしながら立ち上がり、再びテーブルに付いて額を押さえた。すると、ブレイヴィリアが汚物を見るような目を向けてきた。
「貴様という男は、なんという恥知らずなのだ」
「え」
気付かれていたのか。礼司が身を縮めると、ブレイヴィリアは頬を歪める。
「まだ日取りも決めていないにもかかわらず、私とベテルギスク十三世のみならず、継美にも声を掛けていたのか? 浅はかとしか言いようがないぞ」
「あー、すんません」
そっちの方だったか。礼司は愛想笑いし、なんとかやり過ごした。ベテルギスクはウロコの間からファンシーなスケジュール帳を出し、嬉々として広げる。
「で、いつ? 何時に待ち合わせ? どこに行くの?」
「どこって……どこがいいんだろう。提案しに来ただけだからなぁ」
「ならば決めろ、即刻にだ。決めなければ貴様の主砲を毟り取ってくれる」
「それだけはマジ勘弁して下さいよ!」
礼司は反射的に椅子ごと後退ってブレイヴィリアと距離を開けてから、携帯電話を引き摺り出した。とりあえず人数の頭数を揃えた上で意見を募り、それを総合してどこで何をするか決めなければ。言い出しっぺが幹事になる羽目になるのは世の常である。
それから礼司は、健人とジュリエッタに電話して予定の空きを確認し、意見を求めた。女子寮の宿直に許可をもらってから女子寮に入り、自室で赤面してうずくまっていた継美からも意見を求め、もちろんベテルギスクとブレイヴィリアに意見を求めた。それらをまとめると、こうなる。
ベテルギスク:海が見たい、砂浜で貝殻やガラスの欠片を集めたい
ブレイヴィリア:地球の軍事施設を見学したい
健人:ナンパしたい
ジュリエッタ:ぷにゅるんぴーでにゅるりんぺー
継美:皆と一緒に遊んでみたい
そして、礼司は皆の意見を総合し、手持ちの小遣いと移動距離とその他諸々をまとめて考えた末、導き出した結論がこれだった。