表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/30

杏子の日記3

しばらく赤い糸は途切れて、彼女に好意を寄せる先輩が現れた。

ハンサムなプレイボーイだが、あるときデートに誘われてそれを

断ったら、それが相当相手を傷つけたらしくて、数日後部室で、


「君は広島だって、原爆は大丈夫なの?」と聞かれて、

「ひょっとして、そうかも?」と冗談のつもりで答えたら、それっ

きり近づかなくなった。この時若林君に会いたいと書いてあった。


翌春になって、連絡ないしどうしたのかなと思いつつ、新聞に名前

も出てないし、今年も若林君かわいそうと思いながら、次の赤い糸

は図書館での再会の時だった。まさか何なの?うれしいのか悲しい

のか?この時彼女はほんとに驚いたのだ。


治は何回となく杏子をキャンパスで見かけたが間違いなくあのころ

は避けていた。今の自分には会う資格がないと心底そう思っていた

のだ。その後テニスコートの日から桃山御陵の夕べへと続く。桃山

御陵の晩、杏子は日記の後半に怒りを込めてこうつづっていた。


「資格って何でしょう?人と人との触れ合いの中で資格って何なの

ですか。人を好きになったり愛したり、あるいは愛されたりするのに

資格がいるのですか?私に会う資格がないとおっしゃるのは若林さん

自身のプライドとの戦いなのでしょうね。


時にはすごく馬鹿げた些細なことでも、その人にしてみれば大きな

大きな心のとげなのでしょうね。時が来れば、あるいは状況が好転

すればとげは跡形もなくなって嘘のように消えるかもしれません。


最近、私は心の中の小さなとげに気づかされました。それは今まで

考えたくもなかった原爆の後遺症です。ここのところ父も母も元気。

だけど定期健診で間違いなく白血球値が低下してきている。兄は

生まれた時から白血球が少なく病気がちで早くに死んだ。


食事と運動で生命力と体力をつければ大丈夫と医者は言うが。小さな

とげならそのうち自然に消えていく。悪いとげなら、もしかして毒を

持った悪いとげなら必ず私を食いつぶしてしまう。


この悪いとげをもった人間には人を愛する資格も、人に愛される資格

も全く無いのでしょうか?いつか若林さんに聞いてみよう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ