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ベナレスからの手紙1

皆と別れて家に着いてから重い包みを開けてみた。キャンパスノート

が20冊手紙が6通。その一つは海外からの航空便で70年の12月

にインドから杏子宛てに出したものだ。思わず手にして広げてみた。


古くて水にぬれて乾かしたようにごわごわになっている。インドで買

った質の悪いボールペンの字が読みにくいが何とか読める。


「杏子さんお元気ですか?僕は今インドのベナレス(こちらではヴァラナシ

と言いますが)と言うガンジス河の中流にあるヒンズー教の聖地にいます。

ヒンズーの人々は毎日朝早くからガートと呼ばれる河に入り込む階段の所で

深くとうとうと流れるガンガ(母なるガンジス河)に沐浴をし祈りを捧げて

います。12月でも30度を超え蒸し暑い毎日です。


昨日この河を上る観光ボートに乗って見ました。深い深緑色を帯びた流れは

非常にゆっくりでどこまでも奥深く見えました。ボートから見える岸辺は

ガートの階段がどこまでも岸沿いに続いていて、典型的なインド風の建物

が峻厳なベナレスの街並みを形作っています。ところどころガートが途切れた

ところがあり、そこは白い砂地でそのまま水辺になっています。


何か所も木組みの上に死者を白い布に包んで荼毘に付していて、中にはとても

小さいものもあります。淡い煙が曇天の空に何本も上がっていました。一度近

くで見ていたことがありますが必ず一度聖なるガンガにじっくりと浸してから

火を付けるので白い灰になるまで相当時間がかかります。その間荼毘の周りで

家族は祈り続けるのです。


白い砂地に見えたのは2000年以上に及ぶ死者の灰の集積だったようです。

家族は灰を沖に出てガンガに流します。ボートから流れに手を入れてすくっ

てみました。白い粉が確かに手のひらに残ります。きっとこの深いとうとう

と流れるガンガの底は、無数の骨と白い灰とで幾層も重なっていることでし

ょう。


ベナレスの町は全国から死者が担ぎ込まれてきます。白い布に包まれて、

色とりどりの花に飾られて家族総出で担いできます。実はベナレスには

死を待つ人々の館があちこちにあります。死を悟った老人や不治の病の人

たちが家族の者何人かと数年一緒に暮らすのです。


ある晩裏通りに迷い込んだことがあります。バザールでシタールとシルク

のお店を見た後迷い込んだのです。何かの祭りの夜でした。

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