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迷宮下っ端育成生活  作者: ゴロフォン
8/9

勝て

 始まりがあるなら終わりがある。

 1年も経とうとしていた、このどこか殺伐としながらもそれでも平穏で、少し楽しいと思えるようになったこの生活もたぶん終わりなんだろうな、と思った。

 侵入者が来たからだ。

 とびきりの、おそらく小説などで出てくるS級だなんだというクラスの最上位冒険者達が。



「まずいの」

 いつもと変わらぬ顔で、上司であるゲラーさんはまずい、とそう言った。

「……何か慌ただしいですね。冒険者が来たって事だけはさっき駆けていった狼の人に聞きましたけど」

「とびっきりの、がそこにつくの。人間でいう最上位の実力を持つ冒険者らしいの。人間の街の近隣にあり、ここより数段脅威度が高かったゲルムヴァラの迷宮が36年持ちこたえたがついに一掃された、という話は数日前に幹部会で聞いたわけじゃが。ついでにここも、ということのなのじゃろう。あそこを攻略した連中がここにもきたのじゃろう。まあここの連中はゲルムヴァラと違って籠もるやつが多くて害は少なめであそこと比べて放置気味じゃったが来るべき時が来た、ということか。まだ生まれて一年じゃくのお前には酷なことじゃ。おそらく、スライは戦闘に駆り出される。お前の傍を離れたがらないから必然的にお前も、ということになるの。まあ儂もいくから研究室の面々は総出じゃの。まあお前と儂とスライ以外言葉を交わす意思を持っておらん魔道人形じゃから儂の認識ではお前とスライだけが研究室の人員、といった感じじゃがの。ま、研究室の長の儂の戦闘での出番が来たのじゃろうて」

 生命偽造のゲラー。魔道人形を作りだす老齢のゴブリン。無機物からでも命を吹き込み兵とするその能力からついた通り名だ。俺もその作品の一つということになる。寝ぼけたゲラーさんが術式を間違えたせいで異界の俺の魂は宿ってちょっと例外っぽくなったが。つまりゲラーさんの持ち味は数多の魔道人形の使役による乱戦だ。

 俺もたぶんそこに混じって闘うのだろうが役立たずそうなので……うん、スライに頑張ってもらうしかないな。スライ、任せた! としか言えないのが悲しい。弓でも持っていこうかと思ったが後衛で頑張るしかないと悟った数か月前に既に試した……試した結果まるでものにならなかったことを思い出し、やめておこうと諦める。何だかんだで気休め程度には成長した水魔術で嫌がらせをするしか無いだろう。

「お主は最後の壁で良い」

「え?」

「知らんかったか? スライはとっくにこの迷宮で最強になっておるよ」

 だから最終防衛線じゃ、とゲラーさんは軽い調子で言ったのだ。

 儂ら魔道人形隊が先陣を切る、とも軽い調子で言った。



 いやいや、先陣とか死亡フラグですってやめときましょうよ。と言ったのだ。

「分かっておるよ。儂らの役目は始めから殺すことではない。数多の魔道人形による消耗戦で忌々しい侵入者の人間達を消耗させることじゃ、ゲルムヴァラの主を倒すような奴らに勝つ可能性など殆ど無いわ。大人数の魔道人形との戦闘で消耗した処を幹部全員で行く、という予定じゃ。ま、おそらく儂はここには帰っては来ん。もしこの戦いで勝利したらここの主は次からはお前じゃな。まあ強力な育成能力があるのじゃ。儂としては他者を使役するという似た性質を持つお前にここをついでもらいたいものじゃの。勝てば、じゃが」

 いやいや、やめてくださいよ。わざわざ死亡フラグ建てないで下さいよ。負けそうになったら逃げる、で良いじゃないですか?

「逃げられるような状況なら戦わずに逃げる幹部達もいたろうさ。大規模儀式魔術によっておそらく地上への入口は結界で閉鎖されておる、ついでに苦労して結界を破って出てきたところを待機しておるじゃろう魔術師達の大規模魔術でどかん、じゃろうさ。ここで迎撃するしか道は無い。最上位らしき冒険者が出てくるということはそういう支援も万全ということじゃ。そこらの冒険者と違って、の」

 じゃあ、俺らも一緒に戦えば良いじゃないですか? わざわざ戦力を分断する意味、あるんですか?

「スライの能力を考えてみろ。敵味方が入り乱れて戦う戦場で敵だけ器用に喰らえるのかの。スライは非常に強力な溶解能力と生命力を持っておるが、あれは敵味方を狙い分けられるものでは無い。だからお前と、スライの二人だけで最終防衛線をするのじゃよ」

 それに、可愛い弟子を段階を踏まずにいきなり過酷な戦場に送り込むのもなんじゃしな、と軽い口調で言ったのだ。

 じゃあの、と手を振るゲラーさんは最後までいつもの飄々とした顔で。最後まで、悲痛な表情は見せなかった。


 帰っても来なかった。




 負けたという事なのだろう。指定された最終防衛線。暫定上ボス、ということになっている迷宮核。それに集った10人のボスは死んだのか逃げたのかは分からないが負けたのだろう。

「これが最後かね」

「だと願いたいものだな」

「これは……スライム? いや透明? まさか、生きた水?」

「何だよ、生きた水って」

「こんな敵地で悠長に説明させないでよ。説明は後。まずは」

「その生きた水とやらと後ろに……なんだろうな。不細工な男がいるが」

「ここに立ってる時点で人間だろうと人間型の魔物だろうと、敵でしょ」

「違いない」

 冒険者がここまで来ているのだから。

 数は4。

 調子の軽そうな金髪の男、鎧なども身に着けていない身軽そうな奴だ。右手にナイフを持っている

 口元に大きな傷。おそらく剣か何かの傷をつけた鈍く光る金属らしき光沢の鎧を身に着けた黒髪の男。重量のありそうな巨大な斧を背負っている。

 美女と言える赤い髪をした魔術師の女。黒いローブはおそらく魔道具だろう装飾品が所々に縫い付けられている。おそらく物理的な攻撃にも強そうだ。物理攻撃に強い魔術師とか反則じゃねえか?

 最後はこちらも黒いローブから見て魔術師だろう。だがまあお約束で言えば手に持つメイスでヒーラーの役割も持っているのだろうなと前世からの刷り込みで思わなくもない。金髪の胸の豊かそうな美少女だ。顔立ちは美女というにはまだ幼い雰囲気をだしているからそう思うだけだが、まあ細かいことはどうでもいい。

「正直荷が重いとは思ってるが、俺が、いやスライがこの迷宮の最終防衛線ということになるな。始めまして、になるのか冒険者」

 自分はきちんと話せているのか。きちんとゲラーさんに笑われない程度には敵を、やれるのか。

「挨拶いらねえよな? どうせ殺して終わりのただの魔物だし」

「生きた水は正直研究材料としての価値が高いから生け捕りにしたいところだけど無理そうね」

「可能ならやってみよう」

「全力で潰すべきよ。敵は、ね」

 こちらの事など気にもとめていない。いや、スライの方だけをみていた。まあ俺は弱いからな。おまけなのは間違いない。

 だが、迷宮住人にとってはおまけにすぎなくても冒険者たちにとっておまけで終わってやる気は、無い。

 水魔術でスライに攻撃のチャンスを作って、やる。



 気づくべきだった。奴らに、傷らしい傷も、衣服の損傷も無かったことに。つまりゲラーさん達はなす術なく圧倒的な実力差でやられたのだということに。つまりは

「スライっ!」

 あっという間だった。俺を囲むように展開していたスライの体がまず男によって切り裂かれそこを女二人の火炎魔術で焼き尽くされたのだ。それだけでまずスライの身体のおそらく五分の一が消し飛んだ。

「おい、斧が溶けたぞ!?」

「本当かよ! それ天銀製の斧だろ!? 溶かせるのかよ」

「大丈夫! あんた達は下がってなさい! 溶解能力は恐ろしくても触れなきゃ問題ないわ!」

「そりゃそうだ! 任せたぜ、姐御達!」

 次に五分の一が消し飛んだ能力を見ると、生命力も大体五分の二減った。たった二回の攻撃で4割が消し飛んだのだ。

「スライム処理したら中にいる男は任せたわよ! 大したこと無さそうだけど!」

「任せろ。たぶん問題ない」

 また五分の一、減った。もうスライは残り少ない。


 何であいつここにいんだ? スライム一匹だけの方がよっぽど厄介だったのにな


 金髪の男がぽつりとそう呟いた。耳が良くて、そんな小さな呟きが聞こえた。




 どうしてこんなに追い詰められてる? こんなはずじゃなかった? 違う。


 スライは強いのだ。ゲラーさんが言ったように本当に強いのだ。なのにどうしてこうなのか。


 俺だよ。俺を守るように囲んで思うように動けないから、こんな馬鹿なことになってるのだ。どうして、俺はスライと離れなかったのか。どうして離れて行動しよう、と言えなかったのか。どうしてスライの力を最大限に発揮出来ないようにしてしまったのか。

 一人じゃひ弱で怖かったからだ。スライが俺から離れられないんじゃなく、俺が弱いからスライから離れられなかったのだ。スライは俺を守ろうと離れられなかったのだ。

 俺が、スライの枷になっているのだ。


 おい、冒険者共。スライが弱いなんて思ってないだろうな。



 俺がいなくなったらお前らなんか敵じゃねえよ



「スライ、俺を、喰え」

 スライが、震えた。嫌だというように激しく震えだす。

「は?」

「何言ってんの?」

「命令だ。喰え。絶対に喰え」

「っ! 畳みかけるわよ! 違和感はあったけどさっきからおかしい! いつもの私達の力が出せてない!」

「お前らな、自惚れんなよ。スライは守る対象の俺がいなかったら普通に強いんだよ。お前らなんて敵じゃねえよ……スライ。喰え。そして」



「勝て」

 スライは俺の意思をちゃんと汲み取った。スライに自分が混ざる感覚がし始める。おいおい、いつものようにスキルも能力値も全部経験値だけに変換なんてしてくれるなよ。俺の力を、俺が与えられた能力を、俺の意思をそのままうけついでくれよ。そして次の進化で使おうと思って結局しなくて使わなかったスキルを使おう。


 勝て。



 ゴクシから継承されるスキルがあります、引き継ぎますか

 ……是

 能力閲覧を引き継ぎました

 成長能力値選択可能を受け継ぎました

 スライム召喚60レベル変質、水魔召喚を受け継ぎました

 寄生主変質、吸収効率強化に変化後受け継ぎました。

 水魔術16レベル変質、水流操作に変化後受け継ぎました

 筋力成長微増変質、剛腕に変化後受け継ぎました

 使役生物召喚術10レベル変質、異界の王に変化後受け継ぎました

 召喚生物進化誘導変質、邪神加護付与に変化後受け継ぎました

 召喚生物取得能力ポイント増加(2ポイント取得)変質、眷属成長強化に変化後受け継ぎました

 召喚生物行動範囲拡大変質、眷属偏在に変化後受け継ぎました

 取得スキルポイント増加変質、スキル模倣に変化後受け継ぎました

 特性強化(生きた水)対象者の種族変質により変質、魔王種へ変質されため強化が打ち消されました

 世界契約により位階上昇 魔王種へと進化しました

 魂特性を所持者の許可があるため引き継げます。引き継ぎますか?

 是

 魂特性名 天級人類敵性存在が変質、世界級人類敵性存在に変化後受け継ぎました

 敵性存在(人間族) 常時5キロ以内のスライと敵対状態にあるもので人間族に属するすべての生物の能力を9割減少する。神級存在以外の存在は抵抗不可。

 特定世界級結界(人間族) 人間族の手によって発生するすべての現象を無効化する。スライの能力によって無効化する範囲は変動する。

 感情悪化・極(人間族) いかなる人間族もスライに対して好感度が上がることは無い。


 固有スキルが発生しました。引き継ぎますか?

 是

 自由意思 を取得しました。

 世界における全ての存在からの精神干渉を無効化する


 勝て を習得しました

 敵性存在に対していかなる状況においても戦意を喪失しない。……目の前の敵に勝て。


「おい、寒気がしてきたんだが」

「何だ、これは」

「魔術が発動しない!? というより力が出ない!?」

「何、これ」


 この世界において、人類を滅ぼしうる敵が。魔王がその日生まれたと後の歴史書には記されている。




最初は主人公無双しようと思っていたのですが、何も考えずに書いていたらスライだけが成長して、ゴクシは成長強化の触媒みたいになったので、ゴクシ無双は何かおかしいな、と思うようになりました。

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