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優しい王子様との相愛数  作者: 蓮冶
□FOUR LOVE□
19/20

■あなたと俺の相愛数■

「あ……あの!! 早苗さん?」

 戸惑いの声をあげる俺に、早苗サナエさんはせっせと手を動かしている。

「いいからいいから……」

 何がいいから?

 でもって、なんで俺は着物を着せられてるわけ?

 しかも、女性もの。


――ここは十畳もある畳の部屋。

 目の前には白無垢……。

 でもって俺は今、下着を着せられているわけで……。

 頭が真っ白になっている間にも、早苗さんの手は止まらない。


 なんで白無垢?

 結婚式でもないし、なんで男の俺が着せられてるの?

――というか、そもそも俺は嘉門カモンさんに会いに来たんだけど……。

 こうしている今頃も俺のことで月夜は嘉門さんに怒鳴りつけられているかもしれない。

 そんなの嫌だ。

 堪えられない!!


「あの!! 早苗さ……」

「はい、できた……」

 俺が早苗さんに早く嘉門さんと月夜がいるところに案内してほしいと言おうとした直後、早苗さんは俺から離れた。

 目を細めて微笑んでいる。

「綺麗……やっぱり亜瑠兎アルトちゃんの黒真珠のような髪には白が映えるわ~」

「え? あ、ありがとうございます」

 たぶん、褒めてくれている……だろう早苗さんの言葉に頭を下げてお礼を言う。

 じゃなくって!!

「早苗さん!!」

「はい。ではこちらへまいりましょう」

 早苗さんは長い着物の裾を少し持ち、そう言って先を急がせた。

……急いでいるのに――。

 いつもなら、こんなに大人しく着物なんて着せられたりしないのに、早苗さんだと調子が狂う……。


「ここからは、何も言わないでね」

 早苗さんはそう言って、綺麗な人差し指を口元へと当てた。

 俺は口をあけて返事をしようとしたが、さっき言われた早苗さんの言葉を思い出してあわてて両手を口に当ててうなずくだけにした。

 早苗さんは障子をあけると座布団を真ん前にあるテーブルの下ではなく、フスマの方へとふたつ、並べた。

 手を差し伸べられて、座布団の上に座る俺。

 すると、隣の部屋から話し声が聞こえてきた。


「何があっても亜瑠兎だけは譲らない!!」

 月夜の声だ。

 その声は、いつも俺に話しかけてくるような穏やかさはまったく感じない。

「お前は何を言っているのかわかっているのか!?」

 そんな月夜に反論しているのは……嘉門さんだ。

 言い方からして、とてつもなく怒っていることがウカガえる。


 月夜!!

 俺は居ても立ってもいられなくなって、正座している膝を立てた。

 するとすぐに、早苗さんのしなやかな手が目線の前に現れた。


 なんで?

 どうして止めるんだよ!!

 月夜と俺とのことは認めてくれてるんだろ?

 俺は早苗さんを怪訝ケゲンな目で見つめた。

 すると、早苗さんは大丈夫だと言うように、微笑み返してきた。


 俺と早苗さん。

 月夜と嘉門さん。

 それぞれの空間に静かな沈黙が流れる……。

 早苗さんを見つめている俺は、立てた膝を座布団の上に直した。

 また、大人しく正座する。

 すると、俺の行動を見計らったかのように、声が聞こえてきた。

 その声は月夜のものだった。

 穏やかで揺るぎない。

 凛とした強い声だ。

「俺は今まで、父さんの意見に従って歩いてきた。父さんの意見は当たり前でいつだって正しいことだ。……だが、これだけは譲らない。俺は……いつだって、どこだって、亜瑠兎を想ってこの道を歩いてきたんだ。亜瑠兎は俺のすべてだ。誰にも俺から亜瑠兎を奪うことはさせない!!」


 月夜……。

 ああ、どうしよう。涙で前が見えない。

 早苗さんが隣にいるのに……泣くなんてカッコ悪いのに……。

 そう思っても、涙は結局止まらない。それどころか、溢れてくるばかりだ。

 ぎゅっと唇を引き結んでいなければ、声を出して泣いているだろう。

 白無垢の生地を握っていた手の甲に、俺の涙がポタリと落ちる。

 だけどこの涙はけっして悲しいものではない。

 とても……優しい涙だ。


 すると突然、俺の両肩にあたたかい手が添えられた。

 早苗さんだ。

 涙を流す俺の肩を優しく包んでくれる。

「許さんぞ!! ここから出ていくこともだ!!」


――ああ、やっぱりダメなんだ。

 落胆してしまう俺の肩に、早苗さんの手に力が入った。

 俺が早苗さんを見たその時だった。

「……彼を秘書につけろ!! 資格を取らせろ!!」


――え?

 嘉門さんの言っていることの意味が分からず、俺は早苗さんから月夜と嘉門さんがいる部屋を挟んだ目の前の襖へと視線を向けた。

「当然、許嫁の件は白紙に戻す!! 花音として峰空ホウクウ高校に来た彼を一度家に帰し、再度編入させろ!! もちろん、男としてだ!! 葉桜の家のことは、次期当主であるお前だ!! この責任はお前がとれ!!」


 嘉門さん?

 何度も瞬きを繰り返す俺の隣では、早苗さんが微笑んでいた。

「もう、ふたりとも頑固なんだから。変なところが似てしまったわ。亜瑠兎ちゃん、何かあれば言ってね」

 にっこりと微笑んだ早苗さんは、月夜と嘉門さんの部屋を遮っている襖を開けた。

 目の前に見えるのは……驚いた表情を見せている月夜と、眉間に皺を寄せている嘉門さんだ。

「許可を得たよ、亜瑠兎」

 彼はそう言って、俺へと向かってくる。


 俺は……ダメ。

 嬉しすぎて膝に力が入らない。

 近づいてくる月夜を、ただ見つめていた。

 また、視界が歪んでくる。

 たぶん、今の俺はすごく情けない顔をしていることだろう。

 そう思って月夜から顔をらし、畳へと顔を下ろした。


「だめだよ亜瑠兎。せっかく綺麗な姿をしているんだ。視線を外すなんて許さない」

 彼はそう言うと、動けない俺の身体を掬い上げた。


 ふわり。

 宙に舞う感覚になって、慌てて月夜の両肩にしがみつく俺。

 月夜はそんな俺に向かってひとつ微笑むと、そのまま嘉門さんと早苗さんに背を向けて歩き出した。

 もちろん、俺は月夜に横抱きされたまま……。

「月夜!! 話しはまだ終わっていない!!」

 背後から嘉門さんの怒鳴る声が聞こえたかと思ったら、「客室が空いてるわよ」と早苗さんの声がした。


――え? 早苗さん?

 ちょっと待って、月夜どこ行くの?


 え?

 ええ?

 えええええええっ?

 客室って……何が?????


 俺の頭の中には『?』マークしか飛んでいない。

 おかげで何を月夜に尋ねればいいのかわからなくなった。

 気がつけば、俺は月夜に抱えられたまま少し離れた一室にいた。

 月夜が器用に足で障子を開ける。


 トサリ。

 柔らかい布団が俺の背中に当たった。

 真上には綺麗な顔の月夜が微笑んでいる。

 それだけで、俺の胸が締めつけられてしまう。

 胸がいっぱいってこういうことを言うのだろうか。

「かわいい俺の亜瑠兎」

 ぼそりと耳元で月夜は囁く。

「んっ」

 くすぐったくて思わず肩をすぼめると、するりと月夜の腕が俺の胸の合わせ目から手が忍び込んでくる。

「月夜? なにを!?」

 慌てて月夜の手を捕える俺。

「何って……白無垢なんて着て俺の前に現れたんだ。しかも、父さんから亜瑠兎とのことを承諾してもらったんだし……これは間違いなく結婚初夜というものだと思うけど?」


――いやいやいやいや、嘉門さんは月夜と俺との仲を認めたわけじゃない。

 ただ単に俺の存在を認めてくれたってだけだ。

 嘉門さんに応えられるよう秘書になる勉強しなくちゃならないし……。

 そもそも、今は太陽が真上を照らしている昼間だ。夜じゃない!!

 それにこの服だって早苗さんに着せられただけで、特に大きな意味はないんだ。

 俺は違うとブンブン頭を振った。


「つき……っんん………!!」

 反論しようと口をあければ、すぐに塞がれてしまった。

「ん!! んんんん!!」

 掴んだ俺の手にかまわず、月夜はそのまま着物の合わせ目へと指を忍ばせてくる……。


「観念してね。母さんもここで抱くことを承諾してくれているし……」

「月夜!! なにっ……!!」

 声が途切れたのは、月夜の手が俺の素肌に触れたから。

「白無垢を着せたってことはね、つまりそういうことなんだよ、俺のかわいい亜瑠兎。もっとかわいい声を聞かせて……今日は寝かさないから…………」


 月夜?

「ちょ……つき…………待っ!! 寝かせないって、明日がっこ!!」

 明日は学校だから無理だと話す虚しい反論の声は、次第にすすり泣きになることは目に見えている。

 月夜になら抱かれていいと思ってしまう俺が不思議だ。

「これからは、藤堂トウドウさんには何も言わせない。もし、亜瑠兎が不安になるのなら、何度だって愛を示そう。亜瑠兎……愛しているよ。だからもっと足をひらいて」

「つきや!!」

「そう、いい子だね……」

「……っ……」

 月夜……。

「月夜、俺いい秘書になれるようにがんばるから……。だから……あなたの隣にいさせて……」

 月夜に包まれながら、途切れ途切れに告げた言葉――。

 たぶん、俺と月夜の相愛数は、きっと俺の方がずっと上だ。

「亜瑠兎…………君って人は…………」

「!! 月夜?」

「こうなったのはぜんぶ君の所為セイだよ? 覚悟してね」

 彼はそう言って満面の笑みを浮かべた。

 月夜の両手はもちろん俺の腰をしっかり掴んでいる。


――え?

――え?

 ええええええええっ!?




 ゜☆。:END:。★ ゜

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