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優しい王子様との相愛数  作者: 蓮冶
■THREE LOVE■
14/20

□優しい王子様との付き合い方。□




 気だるい中にもあたたかな体温が俺を満たしていく……。

 この感覚は、なぜだかとても落ち着いた。

 まるで春の木漏れ日の中にいるようだ。

 とても居心地がいい。


 時刻は午後七時を回ったところ。

 いつの間にか眠っていたらしい俺は 目をあけて薄暗い部屋へと目を凝らす。

 ふと、誰かの気配を感じ、顔を横へと向ければ、そこには月夜ツキヤがいた。

 いつも見つめれば返してくれる澄んだ茶色い瞳は閉じ、両目の間にあるすっと通った鼻はその下にある薄い唇へと続いている。

 眠っていても綺麗だから困る。

 俺は思わず弧を描く唇へと指を滑らせた。


 すると……。


「!!」

 伸ばした手首はいきなり掴まれてしまう。

「そんなに誘惑しないで。また、君を奪ってしまうから……」

 閉じていた瞳は突然開き、俺を見つめてきた。


 ドッキン。


 俺の心臓が大きく弾ける。

「つきや!! 起き……っ!?」

 起きてたのか?

 

 その続きが言えなくなったのは、月夜が俺の指先を舐めたからだ。

 俺の身体中に静電気がはしり、心臓の鼓動は高鳴る。

 慌てて伸ばした腕を引っ込めると、月夜から背中を向けた。

 だが、バクバクと音を立てている心臓は鎮まらない。


 こっちは心臓を鎮めようと必死になっているのに、俺の気持ちを知ってか知らずか、月夜は簡単に追い詰めてくる。


 ふわり。


 今度は背後からやってくる腕に捕まってしまった。

「逃げないでほしい。あんな行為の後だ。そうではないと思っていても、やはり嫌われたと勘違いしてしまうから……」


「……っ!!」


 月夜はなんでこうも躊躇いもなくポンポンと恥ずかしい言葉を口に出すことができるんだろう。

 俺はムリ。

 恥ずかしい。

 だけど、月夜を不安にさせたくはない。

 だから、俺は口にする。

「逃げてない。ただ……」

「ただ?」

「恥ずかしいだけだ……」

「さっきまであんなに抱かれたのに?」

「っつ!! 何言って!!」

「俺の腕の中であんなに泣いていたのに? もっともっとと強請ネダる君はとてもかわいかったな~」


「……っ!!」

 ちょっと待てっ!!

 なんでそんなこと言うんだよ!!


 ガバッ。


 恥ずかしい気持ちがピークに達した俺は名残惜しく思いながらも月夜の腕を振りほどく。


 ズキン。

 その途端、急に身体を動かした所為セイで腰が鈍い痛みを訴えてきた。

 思わず顔をしかめてしまった。

 この痛みの理由は知ってる。


……月夜に抱かれたからだ。


亜瑠兎アルト?」

 俺の動きがおかしかったようだ。月夜に気づかれた。

 心配そうな声が俺の耳に届いた。

「なんでもない。腹へったの!! 出前頼む!!」

 俺は当たり障りがない言い訳を作ってそう言うと、いまだに消えない痛みを無視してベッドから抜け出す。

 瞬間、身体は冷たい空気に当たった。

 思わず自分の身体を見下ろせば、いまさらながら何も着ていないということに気づかされた。

 とっさに月夜との情事を思い出し、身体全体が発火するかのような熱を感じはじめる。

 もう本当に恥ずかしすぎるっ!!


「亜瑠兎?」

 クスクスと笑いながら俺の名前を呼ぶ月夜は、まるで俺が何に対して戸惑っているのかを知っているみたいだ。

 俺は振り向かず、近くにあったカッターシャツに手を伸ばした。

 袖を通せば、丈は太股まであった。

 どうやらこのカッターシャツは月夜のものらしい。

 不恰好だと思いながら、それでもかまわずボタンを閉めていくと、また後ろから微笑む気配がした。


……恥ずかしい。

 なんだろう。

 胸がソワソワする……。


 月夜のカッターシャツを着ただけなのに、まるで月夜に包まれているような感じがする。

 スカートはどこにいっただろうか……。

 そう思って手を伸ばすが、俺の正体が月夜に知られた後だ。

 女の格好をする気にはなれず、身につけるのをやめた。


――かといって、クローゼットの中から女性用ではあるが、ズボンを取り出すのも嫌になっていた。

 女性用は男性用と比べてかなり身体にフィットする。

 体中が痛みを訴えている今は、何にも締め付けられたくないんだ。

 まあ、月夜のカッター大きいし、別にいいか。


 微笑む月夜を尻目に、逃げるようにして寝室から抜け出ると、玄関先までギシギシと痛む身体を引きずるようにして歩き、電話が置いてある棚から出前のチラシを手に取る。


「あ……」

 俺が声を出したのは、手にしていたチラシが俺の手からスルリと抜けたからだ。

 逃げるチラシを目で追うと、その先には月夜の微笑む顔があった。


「俺が頼もう。きつねうどんが食べたいの?」

 俺が指で押さえていた箇所を見ていたのだろう。

 タズねてくる月夜の言葉に、コクンとうなずいた。

 声が出せなかったのは、背後から包まれるような体勢だったからだ。


 そんな時に蘇ってくるのは、『月夜に抱かれた』ということばかり。

 俺……何ひとりで意識してるんだろう。

 月夜はいつもと変わらないのに……。


――ってか、月夜は俺を抱いたっていうのに、なんでこんなに平然としていられるわけ?

 俺ばかりがドキドキ、ソワソワしているなんて気に入らない。

 胸の辺りがモヤモヤしてくる――。

「亜瑠兎、ベッドの上に俺の服を用意しておいたから着替えておいで。サイズは大きいだろうが、今は女性服よりも俺の服の方が辛さはマシだろう」

 目を細めてクスリと笑う月夜。


「……っつ!!」

『女性服よりも俺の服の方が辛さはマシだろう』

 そう言われて、月夜との行為をまた思い出し、顔が赤面してしまう。

 結局、俺ばかりが月夜を意識してるだけなんだ……。


 軽くショックを受ける俺に、月夜はかまわず言葉を紡いでいく。

「それにね、その格好で俺の前を動かれるとまた君が欲しくなるから……」


「!!」

 っんなっ!!

 俺ばかりが月夜を意識していると思っていた。

 だけど月夜も俺のことちゃんと意識してくれてるの?

 そう思って月夜の綺麗な顔をちらりと覗えば……。


 クイッ。


 右手を奪われた。

 手は月夜の胸元へと誘われる。


 トクン。

 トクン。


 心臓の早い鼓動が俺の右手を通って感じられた。

「――ね?」

 首を傾けて微笑む月夜と見上げた俺との顔の距離がわずか数センチと距離が短くなる。

「っつ!! っしるか!!」

 今の俺は火を噴いてしまうほど真っ赤だろう。腰が痛いとか、そんなことにはかまっていられない。

 恥ずかしくていたたまれなくなり、月夜を突き飛ばして大股で寝室に戻った。


 バンッ!!


 恥ずかしまぎれに勢いよく扉を閉めた俺は、ベッドへと目を向けた。

 そこには、月夜の言ったとおり、きちんと畳まれて置いてある服が目に入った。

 月夜の優しさが俺の胸を締めつける。


 涙が……あふれてくる。


 どうしよう。

 月夜に抱かれたら何かが変わると思った。

 月夜は俺のことをやはり女ではないことを再確認して、俺ではダメだと言うと思った。


 なのに……。


 月夜に抱かれて……愛を告げられて……。


 俺はこんなに幸せ。

 だが、いずれは諦めなければいけない時はやって来ることは知っている。

……その時、俺はあなたから離れることができるだろうか。

 その答えは出せないまま、問題は数時間後にやって来る。

 月夜との恋は一気に終止符へと向かうんだ。

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