変態就職活動する
リクエストをいただいたのでUSBを探してみました。
リクエストしていただいてありがとうございます。
「家にやってきたのは番犬…いや変態でした」の続きです。
「どったの?どったの?もしかしてこれ?俺の素晴らしい顔にやられちゃったの?惚れた惚れた?いいよいいよ!結婚しよう」
外で汚れを落とし美容室に連れて行った変態はまぁ10人がいたら10人が美形というような整った顔をしていたのであった。
「やられた」
この顔ならいくらになるかしらと考えてしまった律であったが誰が非といえようか?
「キャーーーーうれしいよぅ!そこのビルで飛び降りできるくらいうれしいよぅ」
「じゃあ行きますか」
「えっ!デートに?」
「いえいえ。そこのビルの最上階に」
「えっ?えっ?ちょっと、と、りっつん!無理だからね。例えだから」
ゆずきは腕をつかまれビルの最上階へと引きずられていった。
夜8時 ゆずきはまだ帰宅いや帰庭を果たしていなかった。嬉しいことだが、心配性の律は変態が警察に捕まり自分に火の粉が降りかかってこないかと心配していた。
ビルの最上階で泣いて謝る変態を解放し職探しに行かせてもう半日
「ただいまーー変態っぽい西村ゆずき只今帰りました」
もちろん庭から声が聞こえた。
「ねぇねぇ心配してくれた」
「ええ。変態が警察で捕まっていないか胸がどきどきするほど心配してましたよ」
「………」
「まぁ、どうだったの?職の方は?」
固まっていたゆずきはその言葉でグッと親指を立てて
「もちろん!ハンサムなゆずき君はがんばりましたよ。りっつんの春休み終わり次第、俺も働きます」
「どんな仕事なの?」
「フフフ、まだ秘密だよ。もうちょっとしたらわかるから」
ゆずきはウインクをかました。
「キモイ」とつぶやいてからちょっとシュンと項垂れている変態をちらりと律は見ると「あんたにしてはよく頑張ったわ」というとうなだれていた顔を上げてきらきらと目が光っている。
「…うげへへへ うれっしいな!りっつんに褒められちゃったよ。りっつん!りっつん!!」
感激し今にでも飛び掛ってきそうなゆずきに危険を感じた律は早々窓の鍵を閉めカーテンを閉めた。
今日から新学期という朝
「ウゲヘヘヘ」と不気味な笑いが庭から聞こえてきた。
律は食パンを咥えたまま窓にへばりついている変態─ゆずきを見た。
「一応聞いとく。どうしたの?そんなに変質者になって」
「うん。りっつんの制服姿に興奮中でありますなのだ」
律は当然ながら冷たい目でゆずきを一瞥するが、変態のゆずきはそれには気付かない。むしろ、律からの熱い視線だと内心身悶えしているのだ。
「けど…いかん!!いかんぞ、りっつん!そのスカートは短すぎる。いや、しかしそれは俺にとっては目の保養。天使の投げキッスなのだが…世の男にその素敵生足を見せてはいかんぞ!断じて」
力説する変態を横目に律はむしゃむしゃと食パンを食す。そして空いた手で拳を作りゆずきの鼻にパンチを喰らわした。ゆずきは鼻血を出しながら倒れた。手で鼻を押さえるゆずきを見て「少しは様になったじゃない」と律はいった。
情けなく鼻血を出しているが、今の変態はダークグレーのスーツに身を包み最近行った美容室で髪を切りついでに茶色に染めもしたのだ。その上変態は無駄に顔が端整に整っているのが際立っている。
「職場ではちゃんとするのよ」
「はい!」
律に褒められて喜びのあまり庭でくるくる回りながらゆずきは大きく返事しました。
律は鞄を持ち上げ玄関に向かい扉を開けると庭から先回りしたゆずきが立っていた。
そこいらの女の子たちがくらりとくるような極上のスマイルを噛ましながら「一緒に行こう」と誘ってきやがったのでちょっと気絶させて律は意気揚々と学校に向かった。
桜が舞い散る学校の体育館では新しく始まる生活に新入生は少し緊張気味そして在校生は新学期に気持ちは浮かれ気味。
そんな中1人の在校生は周りが引くくらい座っている椅子をガタガタと音を立てさせていた。
今は体育館では律の新しい担任が紹介されていた。
その担任は新任であり登場の時点で何人かの女子生徒のハートを鷲摑みにしたことは間違いない。
冷たい視線にこりとも笑わずただ淡々と挨拶を終え、その美麗な顔に冷笑を浮かべているその男は律の知る限り性格は180度変わっているようだが間違いなく変態─西村ゆずきである。
「このクラスの担任になった西村だ。では、プリントを渡す」
律が別人ではないかと疑うほどゆずきはクールに接している。
しかし…みんなが配られたプリントを見ているときそっとゆずきを見ていた律と目が合うとゆずきはクールに保っていたその顔をにへらと崩し律にピースサインを送ってきたのだった。
…眩暈がした
帰り道。律はさっさと歩き、家の近くの公園に立ち寄った。ゆっくりとブランコをこきだすと学校からストーカー行為を行っている担任ゆずきが小走りに公園に入ってきた。
「りっつん!待ってよー。ねぇ、びっくりした?えへへ。先生になちゃいました」
「………」
「へへへ」
「………」
「ちょっと!!りっつん、どしたのよ!いつもならここでアッパーカットくらい繰り出して、怒るじゃんか!」
「………」
「ちょっと、りっつん!かまってよーーーーー」
律は何も言わず大きくブランコを漕ぐとパッと手を放しブランコの前ら辺に立っていたゆずきに向かって飛び蹴りを繰り出した。
ブランコの力も加わった律の蹴りの勢いは尋常ではなくゆずきは軽々飛ばされ砂場に沈んだ。律はその姿を見ることなく公園を去った。律の怒りはヒートアップしていたのである。
ゆずきは振り向くことも無く去っていく律を砂場に倒れ付しながら呆然と見送っていた。
そして、ぽつり「かまってよ…」と呟いた。そう呟くゆずきの背は異様に寂しげだった。
ふと、ゆずきは隣を見ると2匹の鳩が仲睦ましい寄り添っていた。それを何気なく見ていたゆずきの胸にふつふつと怒りがこみ上げてきたのだ。
(俺はりっつんに構ってもらえないのにこいつら!)
「仲良くするな!!」鳩に向かって理不尽な怒りを叫んだ。
そして、一瞬の内に方向転換すると律を追いかけるべく公園の出口に向かった。
ここで一句
我かもう つゆ人あらず 今日のなほ 鳩のみ来たり 闘志ぞもゆる
その後家に帰宅したゆずきに待っていたのは…「この変態が!」と律のドッロプキックによる脳震盪が待っていた。
しかし、その顔には満ち足りた顔だったことだけは申しておこう。