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まあるい  作者: はまち
2/2

町と姉弟

野菜を切る音がする。あたしは、眠い目を擦りながら階下へ降りた。


鍋の沸く音に、食器の重なる音。


朝は心地好いな、と、勢いよく伸びをして、お気に入りの木のダイニングテーブルを一撫でした。野菜を切っていた弟が振り向いて、「おはよう。」と微笑んだ。


我が弟ながら、凄い奴だ、とあたしは感服する。


毎朝6時には起きて朝食と弁当をこしらえるなんて、あたしには到底できっこないからだ。


「おはよう。」


あたしは欠伸をしながら、椅子に座る。テレビの中で可愛い子ぶった女子アナが、今時流行りのお菓子を食べながらありきたりな感想を吐いていた。なんだかその様が癪に触って、あたしは電源をきる。



「ちょ、姉さん。俺、うさパン好きなんだけど…。」



「あんなぶりっ子、朝から見たくない!」



弟は未練たらしく真っ暗に輝くだけのテレビを眺め、一回大きくため息をついた。

それから、すっかり諦めたのかまたまな板に向かって、野菜を刻みはじめた。



あたしが朝刊に目を向けているうちに、お気に入りのダイニングテーブルの上には立派な朝ごはんが並んでいく。



最後に温かい湯気のたった白米を乗せて、渚は、「姉さん。」と完成を教えた。


向かいに弟が座ると同時に、

「いただきます。」とあたしが箸をとる。



あたしたちは今、小さな盆地の町に住んでいる。あたしはもう社会に出ているし、渚ももう高校生だ。


もう、あたしの心を憂いさせるあの海は近くにない。父さんがそうしようと、してくれた。


「ごちそうさま。」


大した会話もないまま、あたしは食事を終える。


「渚、今日何時くらいに帰る?」


食器をカチャカチャと積みながら、あたしは流しに立ち、袖をまくる。水道を捻ると朝一の冷たすぎる水が勢いよく流れる。


「姉さんは?」



「8時くらいかな。」



水の音で聞こえづらくなったため、声をすこし張り上げる。

すこし傷んできたスポンジを使いながら、そろそろ変えなくちゃいけないなと、考える。



「じゃあそれまでに帰るよ。」


渚は自分の食器をあたしに任せ、弁当を詰めはじめる。



うげ、ピーマン入ってる。



渚は心を読んだみたいに、「ピーマンも食べろよ。」と父さんみたいな顔をした。



近頃、渚はびっくりするくらい父さんに似てきた。あたしには通っていないその血を、はっきりと示す綺麗な顔立ちに、実は時々見惚れたりする。



「なに?」



うっかり目があい、慌てて反らしてから、「ピーマン。」とむくれてみせた。


「ちゃんと食べなよ、子供じゃないんだからさ。」


いつのまにか風呂敷に包んだ弁当箱を置いて、渚は両親と話していた。



「姉さん、まだピーマン食べれないんだよ。いつになったら大人になるやら……じゃ、行ってくるね。父さん。母さん。」



写真の中の父さんは黒く焼けた肌をきらめかせながら、笑ったまま動かない。その隣に控えめに笑う白い肌の母の写真がある。

母が死んで16年。



父さんが死んでから、もう8年が経っていた。



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