『四話 宣戦布告』
「ひーかーりー!!起きろっ!」
朝から森は寝ている光の上に跨がり、揺らしている。
「んん……森かぁ……」
寝ていられる状況でもなく、私は起きる。
「やっと起きたぁ!」
と森は眩しいくらいに純粋な笑顔を向ける。私は思わずドキッとした、小さな顔、可愛らしい大きな目、いかんいかん抑えなければ。つい襲いたくなる衝動に駈られたがそれを抑え、ベッドから出る、身支度を済ますと部屋を出る。
「朝御飯食べよ!」
森は私を外に連れ出すと定食屋に連れていく。
ごく普通の定食屋で私たちは席に着くとそれぞれ料理を注文した。
「ところでさ」
森は焼き鮭を摘まみながら言う。
「ん?なに?」
「昨日はあれからどうなったの?私は寝てたみたいだし」
「ああ、あのあとはね……」
私は河童のディックのことを話した、森は驚いた様子で聞いている。
「へぇ……そんな妖怪もいるんだねぇ」
と沢庵を一かじり。
「案外驚かないのね、タカマガハラと妖怪が繋がってるって」
「んー、なんと言うかそんな気はしてたんだよね」
「へぇ、そうだったの」
「タカマガハラって結構いい加減なんだよ?悪い事してる奴等なんかそこら辺にウジャウジャ……」
「それ、大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないよー、このままじゃタカマガハラは犯罪者組織に……はぁ、支部長たちが帰ってきたらなぁ」
支部長………前に話したアマテラス、ツクヨミ、スサノオの神力を持った人たちだろう、一体何をしているのか、上の人間がこれで組織は成り立つのか、光は不安になった。
「ふぅ、ごちそうさまっ!ささ、タカマガハラに戻って妖怪退治だよ!」
朝食を食べ終わった二人はタカマガハラに戻り、妖怪の出現状況をカウンターにいる様実に聞いた。
「妖怪……ですか……最近報告が無いんですよね、突然いなくなるのも不気味なんですが……」
「そうだったの、でも妖怪がいないってことは平和じゃん、ね?光?」
「え、あ、うん……」
光は何か嫌な予感がしていた、まだ三度しか妖怪を見ていないとはいえあの男……何かあるはず。
その時だった、突然、タカマガハラのホームにいくつも設置された巨大なディスプレイにあの男が映りだしたのだ。
『――でさ、言ってやったわけよ!私は蓬団子よりみたらし派だって!そしたらさ――』
『頭領!映ってますニャ!』
『え、あっ。ゴホン!』
と男は咳払い、タカマガハラにいる皆はディスプレイにくぎ付けになっていた。
「何があった!」
そこに私が始めここに来たときに神力の検査をした夜須が現れた。
「ダメです!回線がハッキングされてます!」
様実はパソコンのキーボードを叩きながら言った、そんな状況を知ったことがないあの男は話を始める。
『えーと、タカマガハラ諸君!!私はこの世界を妖怪一色に染めようとする者だ!簡単に言えば君たちの敵だ!』
「敵……?」
「まさかな……」
「こんなふざけたやつが……」
等と周りから声が聞こえるが私のようにあの男の被害に遭った者たちは震えていた。
「大丈夫だよ光、私も怖いけど、絶対倒す!」
森は震える私の手に震えている手を添えた。
『てなわけで、これから私プロデュースの妖怪たちを送り込みます!君達はその妖怪たちに立ち向かえるかな?度胸試しだよ!数百年前にも或男に試したが彼は見事耐えた!現代の人間はどうなのか?楽しみだね!では!』
そう言うと通信は切れ、ディスプレイにはいつも通り日本の天気予報が流れていた。
「一体なんだったんだ?」
「つまりこれは宣戦布告……?」
と周りはざわめいている。
「落ち着け!これは明らかに挑戦状だが、いつも通りに退治すればいいだろう!」
夜須がそう一声掛ける。
「そうだな、何も変わらんな」
「ああ、いつも通りだな」
と納得したのかそれぞれ散らばっていく。
ホームにいる人が数えられるほどになったころ、夜須は様実に聞いた。
「あの妖怪のデータは?」
「それが遭遇例が無く……あるとすれば先日の……」
「ちっ……かなりの知性、それに妖力もあると見た、まさに妖怪の頭領だな……」
「我々で勝てるのでしょうか……」
「分からん、ただ、やらなきゃいけねぇや」
そう言うと夜須は別の部屋に消えた。
「っ!?妖怪反応!多数!戦闘準備が整っている戦闘員は直ちに向かってください!」
「妖怪反応!?どこ!?」
森は真っ先に聞いた。
「少し離れた山です!ですがこれは今までに無い数です!気を付けて……!」
「光!行くよ!」
私は頷き、森のあとを追い掛けた。
人気の無い山、そこな幾つもの光があった。それは火のように妖しく動く光、狐火が山を覆っていた。
「なにこれ……!このままじゃ山が!神力解放!モリヤ!」
森は鉄の輪で狐火を斬っていく。
「ええと神力解放!ホノイカヅチ!」
光は雷で狐火を消し飛ばす、その様子を陰から見守る者がいた
その影は二人の姿を暫く眺めたあと、闇に消えていった。
―――――
「はぁはぁ………収まったね……」
静かになったのを確認して呟く。
「!?まだだよ!強いのが一体いる!」
森はその方向を指差しながら言った、私たちはその方向に急いだ。
「あなたは……」
そこには月明かりに金色の髪と尻尾を輝かせた狐のお面を付けた者が一人岩の上に立っていた。お面のせいでどんな顔か分からないが体つきで女性であることが分かった。
「……貴様がタカマガハラの……なんとか弱い」
「あんたは何なのさ!」
森は言い返す。
「貴様に名乗る名はない……」
と太刀を何処からか抜き取る。
「来るよ!」
「死ねぇい!」
キィン!
一瞬だった、辛うじて森は太刀を鉄の輪で防いだが押されつつある。
「森!」
私は電撃を狐の女性に放った。
「甘いわ!」
すると尻尾が電撃を塞ぎ、次はこちらに向かってきた。
ドッ!
腹に走る衝撃、狐の女性は光を蹴り挙げると自ら跳び光の上に現れた。
まずい……!
しかしどうすることも出来ず狐の女性は太刀を光に振り下ろした。
ズドン!
斬れるより先に光は地面に叩き付けられた。
「光!ひかりぃ!」
森は光に駆け寄る、光の体に外傷は無かった。ただ打ち付けられたようである。
「よかったな小娘……これが真の太刀なれば死んでいた」
「くそっ!くそっ!!」
森は自棄になりながら鉄の輪を投げる、しかし狐の女性はそれを軽く避け、太刀を森の首に当てた。
「実に弱い、どんな実力か試しに来てみたがこれだけとは……」
と太刀を仕舞う。
「また会おうぞ、その時にまで強くなることだ」
そう言うと一瞬にして消えた。
「くっ……光……!こちら諏訪部!重傷者が出ました!救援求む!」
森はそう連絡し、光の元に行く。
「光、大丈夫だからね?助かるからね?」
そう言うと森も気を失った。
その二人に近づく影が現れた。その影は二人を見下ろすと何処からか包帯やら医療品を出し二人の治療をし始めた。
「あんの化け狐め、ワシがいないから好き放題しよって……」
治療を終えると影は消えていった。