『三話 動き出す者』
あれから、駆け付けた救助隊により光たちは救助された。そしてタカマガハラの病室にいる。
「つまり貴女たちを襲った妖怪は世界を妖怪のものにしようと、ねぇ……」
意識を失う前に聞いた事を想兼に話した。
「……ねぇ貴女」
「なんですか?」
「貴女は妖怪と人間は共存出来ると思う?」
「そ……それは……」
考えたこともなかった、しかし妖怪と人間だ、余りにも違いすぎる。
「ん、いいの無理に答えなくて、それにタカマガハラで妖怪と共存だなんてご法度だからね?」
そう言うと想兼は立ち上がりドアを開けようとした。
「でもね、私は可能だと思ってる」
そう言うとドアを開け、病室を後にした。
「妖怪と共存…か…」
病室に一人、光は呟いた。
「そうだ、森たちは……」
私は妖力レーダーを探す、それは近くの棚に置いてあり、画面を見るが真っ暗なままだった。
「壊れたのかな?」
電源を入れようと試みるが何とも言わない。
「おう、入るぞ」
そこに健が入ってくる。
「あ、無事だったんだね」
「ああ、なんとかな。その様子だとお前も妖力レーダーを使えないようだな?」
「うん、どうしてかな」
「それがだな、昨日あの妖怪に会っただろ?あの妖怪の妖力が強すぎて妖力レーダーがパンクしたみたいなんだ」
「そうだったの、そんなに強いなんて……」
あの事は想兼にしか話していない。そんなに強い妖怪なら本当に……
「まぁよくあることだ、それでさ、修理なんだが想兼の奴にここに行けって」
と健の出した紙にはどこかの地図が描かれている。
「何でも想兼の知り合いだそうだ行ってみるか」
「うん、行こう」
外に出るとすっかり夜になっていた、私たちは早く用事を済ませて帰るために地図に書かれた目的地を急いだ。
「そういえば森は?」
「あー、あいつは置いていった、まだ寝てたみたいだしな、安心しろあいつの分の妖力レーダーも持ってきてる」
と二つの妖力レーダーを見せる。
「さて、ここだが」
そこは人通りが無く薄暗くて、川の近くに建っている小さな家だった。
コンコンと健がノックすると中から一人の男が現れた。
「なんだ?何の用だ?」
「その、思兼にここに来るように言われて」
「ああ、タカマガハラのやつらか、入れ入れ」
そう言うと男は家の奥へ進んでいく、私たちもその後を着いていく。家のなかは殺風景で、冷蔵庫はおろかテレビも無い。
「まぁ座りな、何の用だ?」
男は茶の入った湯のみをちゃぶ台に乗せる、私たちは床に座り、茶を一口飲んだ。
「これを直してもらいたくて……」
と健は妖力レーダーを二つ差し出す、私も慌てて出す。
「ふむ……またパンクしたのか、何回改良させるつもりだ」
男は鼻眼鏡を掛けると妖力レーダーを三つ持って後ろにある作業台へ向かった。そしてカチャカチャと機械を弄り始めた。
その間、私たちは暇なので部屋を見渡してみた、すると部屋の隅に開いた段ボールを発見した、私は好奇心に任せ段ボールのなかを覗いてみるとそこにはたくさんの缶詰めが入っていた。
グゥー
缶詰めを見たからか、私の腹の虫が鳴いた。そう言えば何も食べていない。
「何か作るか?」
いつの間にか後ろにいた男は幾つか缶詰めを取り出すと台所へ向かった、そして数分後、男は皿にサンドイッチを盛って戻ってきた。
「久しぶりの客だ、遠慮しないでいいぞ」
「あ、ありがとうございます、頂きます」
と言い、私と健はサンドイッチを一つ手に取る、レタスと肉が挟まれていた、まず一口。
「美味しい……」
「ああ、美味いな」
私たちはひたすらサンドイッチを食べ続け、皿に何も無くなるのは早かった。
「ごちそうさまでした」
二人はそう言うと茶を飲んだ、しかし何の肉だったのか?牛でも豚でも鳥でも無い、羊なら独特な匂いで分かるだろう。私と健は段ボールのなかの缶詰めを一つ取り出してみた。缶詰めには可愛らしい『河童』のイラストと共に美味しい河童肉とテキストされたラベルが貼られていた。
「え……」
私は言葉を失った、今さっき食べた肉は……
手が震える、吐き気さえする。
「――何を恐怖する?」
後ろには男が手に妖力レーダーを持って立っていた。
「人間たちも牛や豚の肉を食っている、それには恐怖も吐き気も感じない、では何故河童の肉に恐怖を感じる?」
「それは……」
「日常的に食わないからだ、人間も日常的に河童を食えば慣れるだろう、まぁ尤も、これは人間向きではないがな」
男は妖力レーダーを手渡しながら言った。
「貴方は一体……?」
「私は『ディック』、河童だ」
「河童!?」
「ああ、雌に追い掛けられるのが嫌で逃げてきた河童だがな」
「河童がどうして……」
妖怪である河童とそれを退治するタカマガハラの人間に繋がりがあることに疑問を持つ。
「我々河童にとって人間は観察対象だ、まぁ人間に捉えられ、ミイラになり見世物にされた河童もいるがな……」
とディックは悲しい顔をする。
「あえて言おう、我々河童は人間と共存したい」
高らかに手で空を仰いで言った。
「共存……ですか」
「ああ、妖怪だって馬鹿ではない、色々な考えを持つ妖怪もいる、私のようにね」
ゴーンゴーンと部屋にある古時計が鳴る、時刻は零時を指していた。
「少し話しすぎたようだね、すまなかった」
「では私たちはこれで……」
「ああ、また来てくれ」
私はディックの家を後にした、吐き気も治まり健が言った。
「共存を考える妖怪ねぇ」
「妖怪は絶対悪……ってわけでもないのね」
「しかし嫌なもん食っちまった」
「あら?そう?美味しかったじゃない」
「……肝据わってんなお前……」
「そりゃどうも」
私たちは冷たい夜風を受けながらタカマガハラへ戻った。
「ふぅ……妖怪ももっと柔軟に生きることが出来んのかね」
光たちが去ったあと、ディックは呟いた。
「ひょひょひょ……一度決めたことは貫き通す、妖怪に出来て人間に出来んことよ……」
ディックがちゃぶ台のほうを見るとそこには一人の老人が茶を飲んでいた。
「また勝手に上がり込んで何の用だ?」
「ひょひょひょ……なぁに少し人間を試そうかなと…」
「人間を全滅させないでくれよ?彼らは無限ではないのだから」
「分かっておる分かっておる、ひょひょひょ……」
と老人は言うと煙の様に消えた。
「私は観察するさ、人間をね」
老人が残した湯のみを片付けて呟いた。
久しぶりの更新です。非常に遅いですが話しは思い付きます。