鼻毛は語る
注:この作品にはお下品な表現が含まれています。
お食事中の方はご注意ください。
男子便所の一番奥の個室には、奇妙な常連がいる。
僕がそのことに気付いたのは、とある客先で常駐作業をするようになってから三か月ほど経った頃だった。
個室に入る。くるりと方向転換して扉の方を向く。扉を閉じて鍵をかける。男が鍵をかけ忘れても、起こり得るのは悲劇のみ。そして便座の上に、腰かける。
左側の壁にはトイレットペーパー。そこからちょっと視線を前方にずらすと、その常連が残した嫌過ぎる痕跡が視界に入ってくる。
鼻毛、である。
何を言っているかわからないと思うのでもう一度書く。
鼻毛、である。
鼻毛。はなげ。間に"か"を挟むと"儚げ"。ちょっと乙女チック。でも鼻毛は鼻毛。
トイレットペーパーのそばの壁上、丁度一タイル分の領域にびっしりと鼻毛がすりつけてあるのだ。
それは日が経つにつれて次第に密度を増していき、時々リセットされる。
恐らく掃除の方が、気づいた時に綺麗にしてくれているのだろう。
しかし、またすぐに増殖していく。
用をたしている最中、ちょっと手持ち無沙汰になって何となく鼻毛を抜いてみる。
しかし、抜いてはみたものの、その抜いた鼻毛をどうするか処理に困る。
なので、とりあえず手近な壁になすりつけてみる。妙なコレクション魂が湧き起こってドンドン追加していく。いつしかそれは、日課になる。
名探偵の素質なんて欠片もない僕でも想像できるのはそんな光景。
ホームズだったら、コロンボだったら、古畑任三郎だったら、金田一耕介だったら、杉下右京だったら、御手洗潔だったら、ヴィクトリカだったら、しずるさんだったら、栞子さんだったら、折木奉太郎だったら、どんな推理をこの状況から組み立ててくれるだろう?
きっと様々な推理劇が繰り広げられることだろうと思うけど、一つ、確実に言えることがある。
気 色 悪 い !!
以来僕は、一番奥の個室を使うことを止めた。
ご覧いただき、ありがとうございます。
今書いている連載ものが煮詰まってきたので息抜きに書いてみました。
8割くらいノンフィクション。
どなたか犯人を捕まえてやって下さい。