第6話 トイレの怪異
篤朗が、保健室のドアを開けた。
「生娘だっ。」
「生娘。」
「生娘だ。」
無数の漆黒の影がゾロと、にじりよって来た。
きゃああああ
由紀が、悲鳴を上げる。
影から逃れて、篤朗と由紀は手を繋いだまま走った。
びょぉぉぉ・・・ 風が唸るような音を立てて、漆黒の影が2人に迫る。職員室を通り越し、1年生の教室に飛び込んだ。
ドアを閉めると、影は入れないらしく、教室の前の廊下を右往左往している。
由紀は恐怖で目を開いたまま、肩で息をしている。
「な、何なの。あれ。」
「わからない。」
「あたしのこと、生娘って言ってなかった?」
「聞こえたよ。」
「あ、あたし、食べられるのっ?」
フンフンフンと、廊下から犬のように鼻を鳴らしている。
「久し振りの馳走の匂いがする。」
「生娘か?」
「生娘だ。」
フンフンフン・・・
「怯えておるぞ。くくく・・・」
「た、田中君。」
由紀が、篤朗にしがみつく。篤朗は、由紀を抱き締めた。
「怯えちゃ駄目だよ。君の怯えに反応してる。」
「だ、だって・・・。」
「トイレ、大丈夫?」
「う・・・で、でも・・・。」
「ヤツラ・・・ただの影だ。影に怯えては、何でも怖く見えるさ。桧垣、トイレに行けよ。僕がドアの前にいてあげる。」
「や、やだ。」
「行くんだ。」
篤朗は、ドアを開けた。由紀を行かせて篤朗が影に向かった。
影が、ゾゾゾと、由紀の方へ向かう。
「駄目だ。行かせない。」
篤朗が、影に寄る。影が篤朗を怯えて避ける。
篤朗の鼻に、獣臭が漂う。
篤朗は、由紀の隣のトイレに駆け込んだ。
「出る時、声を掛けろ。」
フッフッフっと、獣が臭いを嗅ぐ音が聞こえる。
篤朗は、ドアを開けた。トイレの中に影が忍び寄っている。篤朗は、影の中に手を突っ込んだ。
ギュギュギュギュッ
影に手応えを感じて、影を引っ張り上げた。
異形化した獣が、篤朗に牙を剥いて威嚇した。
「桧垣、桧垣。まだか?」
「た、田中君・・・駄目・・・。」
由紀の、か細い声に篤朗はトイレのドアを思いっきり蹴破った。ペタリと座り込んでいる由紀に、異形化した獣がベタベタととり憑いている。
「桧垣。畏れるな。」
篤朗は、由紀の手足や腹にくっついた影を掴んで、投げ飛ばす。
由紀は、篤朗に倣って影を掴み取った。
フーッフッフフウ 影は威嚇しながら、篤朗に怯えたように、後退去りする。




