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冬の雨  作者: 津那
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第4話 廃校

 不思議なほどいきなり、篤朗の目に飛び込んだのは、鉄筋コンクリートの堅牢な建築物。2階建ての小学校分校だった。張り巡らされたフェンスが閉じられ、枯れた蔦が這っている。

 周囲には、朽ち果てたビニールハウスの後、屋根が落ちそうになっている元店と、店先で鉄の塊化している自動販売機。枯れ草の生えたアスファルトの道。道の周囲に点在する廃屋が見える。

篤朗は、唯一まともそうな小学校のフェンスをよじ登った。錆びた鍵がついた門を蹴ると、鍵は崩れ落ち、ギイと音を立てて門が開いた。由紀が、そこから入って来た。

校庭に茂った雑草の跡、篤朗と由紀は校舎に近付いた。窓や引き戸を開けてみるが施錠は硬い。給食室横の窓が、強く引くとガタリと音を立てて外れた。篤朗は窓から入り、ネジ式の鍵を開いて引き戸を開けた。由紀が、寒さで震えながら入って来た。

校舎に入ると、強まった雨が更に強まり、ザアと、冬には珍しい真夏の豪雨のような勢いで降りだした。

篤朗の手を、由紀がキュッと握る。

「小学校・・・みたいだね。」

 給食室、1年生の教室、職員室・・・保健室。

 教室の窓を覗きながら、篤朗と由紀は、保健室に行った。

 机も椅子も黒板もそのままに、廃校になってしまった校舎。止まった時計、掲示された時間割表に書かれた昭和59年の文字。

 どの教室も、ドアも窓も開く。

 職員室に入ってみたが、置かれた黒電話は当然のように不通で、厚朗と由紀の持っている携帯電話も電波が立たない。

 2人は、ガタガタと奮えながら、保健室へ行った。

 ベッドもシーツも、掛け布団も、棚の中には毛布もあった。

 2つ並んだベッドは、カーテンで仕切られている。

 カーテンの奥で、篤朗も由紀も、下着まで濡れ滴った服を脱いだ。乾いた毛布を被って、布団で覆い、しばらく震えているとようやく人心地ついた。

「た、田中君。」

 由紀の声が聞こえ、篤朗は「何?」と応えた。

「そっちに、行ってもいい?」

「えっ・・・」

「ごめん・・・こ・・・怖いの。」

「・・・いいよ。」

 篤朗の声を待っていたように、由紀が、篤朗のベッドへスルリとやって来て横に並んで座った。

 由紀のベッドの横に脱いで広げた服、毛布と布団に包まった由紀を見て、厚朗はドキドキしてしまう。

 このシュチエーションは・・・ヤバイ・・・。

「よかった・・・やっと・・・寒くなくなったわ。」

「うん。」

 寒くなくなったと言いながら、由紀の声は震えていて硬い。

「昭和59年に廃校になったんだね。この学校・・・保健室があって良かった。毛布と布団があって助かった。」

 篤朗が言うと、由紀は篤朗の肩に額を寄せた。

「桧垣?」

 篤朗がドキリと由紀を覗くと、由紀は熱い額を篤朗に当てたまま、スウスウと寝息を立てた。

 篤朗は、由紀を肩で支えたまま、眠ってしまった由紀を見下ろした。

 しばらくして、由紀がコトンとベッドに落ちるように横になった。包まっていた布団が落ちる。毛布からスラリと形のいい脚が覗く。

 篤朗は、硬直したまま、由紀をじっと見下ろした。丸まった由紀の、布団を直してあげたほうがいいだろうと、思いながら、動けない。高熱で眠り込んだ由紀に対し、昂ってしまう肉欲を篤朗は恥じた。

 好きで好きで溜まらなかった由紀と、2人っきり。由紀の毛布の下を想像するだけで、厚朗は眩暈がしそうだった。

 由紀が寒さに震え、肌蹴た毛布を探ってもぞもぞと動く。篤朗は、由紀の布団を目を瞑りつつ直してやった。

 由紀の安定したスウスウという寝息を聞くうちに、篤朗はいつの間にか眠り込んでいた。

 狭いベッドで寝返りを打とうとして、篤朗は温かくて柔らかいものに触れ、薄く目を開けた。篤朗の顔の前に、由紀の可愛らしい寝顔があり、由紀は篤朗の素肌にピタリと寄り添ってぐっすりと眠っている。由紀の真っ白に透き通るような肌。篤朗に押し当てられた乳房。篤朗は、ドキリとして覚醒する。

 雨は依然と降り続き、人口のものはすべて廃れた山村の廃校は闇のように暗い。篤朗の覚醒した神経は、由紀に触れている全身で由紀を感じて昂ってしまう。

我慢できなくなって、篤朗が布団からじわりと抜け出した。

 毛布を巻きつけて、広げた下着に触れてみる。そんなに時間が経っていないのか、グショリと濡れたまま穿けそうにない。

 篤朗は、由紀に背を向けたまま、考えていた。

 地図に、廃校や過疎化してしまった町村のことは全く書かれていなかった。梅沢岳は、合宿で来ているとはいえ、強化鍛錬のメニューでこなすコース以外、何も知らないのだ。昭和59年を最後に廃校になった学校や、廃村になった村があったところで、コースには関係ないから書かれていなかったのだ。

 う・・・ん・・・

 艶かしい声が聞こえ、篤朗は咄嗟に振向く。由紀の寝顔。

 篤朗は、そっと由紀の額に手を当ててみた。

 熱は下がっているようだった。

 篤朗はほっとする。

 額に当てたままの手、外したくなくて、篤朗は、由紀の頬、髪をそっと撫でた。柔らかく甘い香りが漂い、篤朗は疼くような昂りに襲われて、由紀から手を外そうとするが、由紀のうっとりするような寝顔に、篤朗は引き寄せられてしまう。夢で見た由紀の唇。篤朗は、指でそっと由紀の唇に触れた。

 ヤバイ・・・駄目だ・・・

 篤朗は、由紀から顔を背けた。昂ってしまった呼吸を整える。


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