転生したら魔王(推し)の娘でした。〜推しを幸せにするためにスキル《回想》で原作改変しちゃいます!〜
「はぁー!!疲れたぁ!!」
時計を見れば、午後十時
会社から帰宅するなり私は
リビングへ走り、ソファの方へとダイブする。
「今日も疲れたなぁ…。」
私はどこにでもいる会社員
新島麻衣子二十六歳。
朝はぎゅうぎゅうの電車に揺られながら
会社へと向かい、夜まで働き続ける。
体力は削がれてしまうが、
一気に回復してくれるものがある。
それはーー。
「さてと、今日も今日とて
ルシファー様に会いに行くぞ。」
とその前に、手洗いうがいをきちんとしてから。
冷蔵庫に何日か前に買っておいたお酒とつまみのポテチを
用意してからテレビをつけてから大好きな
ロールプレイングゲームを起動する。
私が、何年か前から夢中になっているゲーム。
『グランディア・アンダーテイル』
壮大な世界観と美しいグラフィック
かっこいい可愛いといった個性豊かなキャラクター達
迫力満載のバトルが大人気の
王道ロールプレイングゲームだ。
そして私にはそのゲームに大好きなキャラクターがいた。
「はぁ…ルシファー様かっこいい…!」
画面には漆黒の鎧を身に纏う
美しい銀髪に真っ赤な瞳を持つ。
圧倒的な力を持ち魔界の頂点に君臨する存在。
このゲームのラスボス様だ。
「今日もビジュアル最高だわ…!」
うっとりしながら画面見つめる私。
もちろんルシファーはゲーム内では勇者達の
最大の敵である。
世界を滅ぼそうとしているThe悪役なキャラだ。
けれどーー。私は知っていた。
彼は最初から悪ではなかったことに。
彼には最愛の妻がいた。
しかし、その最愛の妻が目の前で悪い人間によって
殺されてしまったのだ。
人間に最愛の人を殺されたことにより
激しく人間を憎んで…闇の力を委ね
魔王となってしまった。
「なんて悲しい過去を持ってるんだろう…。」
「本当は家族思いの優しい人だったのに…。」
涙ぐみながらお酒をグイッと飲み干す。
ゲームではルシファー様や最愛の妻マリーさんのことは
多く描かれていない。
けれど、ルシファーを倒した後の
後日談でのイベントでの
台詞から、彼がどれだけ最愛の妻と娘を愛していたか
伝わってくる。
だからこそ私はルシファー様のことが大好きなのである。
「私だったら、ルシファー様を救って
幸せにしたいけどなぁ…。」
なんて冗談を口にした。自分で言っておいて笑ってしまう。
ゲームの世界に入れるわけがない。
そう思っていた。
「あ。」
ゲームに夢中になっていて時計を見てみれば
とっくに十二時を過ぎていた。
「明日も、仕事だし早く風呂入って寝よっと。」
明日も仕事がある。
もちろん明後日もある。
なんにも変わらない日常。けれど私には
ルシファー様がいる。
ルシファー様がいるから私は元気にやっていけるのだ。
次の日ーー。
いつものように電車に揺られながら
会社へと向かい、仕事に没頭した。
「麻衣子さん、これよろしくね。」
「はい、分かりました。」
「後、こっちもね。」
「はい。」
次々と仕事を積み上げていく先輩。
眉間がピキッとなりそうになったが
スマイルで誤魔化して仕事に戻った。
そしてようやく仕事を終えて
会社を出た頃には夜になっていた。
「疲れた…。料理めんどいから今日はコンビニ飯だな。」
そう言いながら歩いていると。
「…麻衣子?」
聞き覚えのある声が聞こえる。
振り向いてみると。
「…大地?」
数年前に浮気して別れたはずの元カレがいた。
彼はとても気まずそうにしているけど
私はただ無のような表情をしていた。
「久しぶりだな。」
「そですね。久しぶりですね。」
適当かつ敬語の口調になっていることに驚く。
さっさと帰って私はルシファー様を早く拝みたいのだ。
あなたに時間を奪われたくないのだ。
私はすぐに離れようとした。
けど。
「ちょっと待ってくれよ。」
大地が私の腕を掴んできた。
「離してくれませんか?」
「俺たちやり直さないか?」
頭の中で「は?」と浮かんでしまう。
別れる原因になったのはそっちが原因だろうがよ。
何復縁求めてんだ。
「いや、無理です。」
復縁する奴がどこにいるんだよ。
「もう終わったことなので。」
そう言って手を振り払おうとした時だった。
「なんでだよ!!」
声を荒らげながら何か懐から取り出して
次の瞬間ーー。
ドスッ!
腹部から鋭い痛みが走った。
一体何が起こったの視線を落としてみると
腹部に刃物が深く突き刺さっていた。
「…っ」
力が抜けてそのまま地面に倒れ込んだ。
何故か、身体が温かいものに包まれる。
周りからは悲鳴が聞こえていた。
大地も精神崩壊したような様子で何か言っていたが
私には何も聞こえなかった。
(嘘…)
(私…死んじゃうの?)
身体はいたくなくなり視界が段々とぼやけていく。
意識も遠のいていく。
(あぁ…)
(二十六歳で私死んじゃうんだ…。)
そう思った時だった。
ピコンッ!
麻衣子の耳元で場違いなほど明るい電子音が鳴った。
え…?
意識が遠のいているはずなのに
電子音だけははっきりと聞こえていた。
すると、頭の中で機会的な音が響く。
『スキル能力 回想を入手致しました。』
スキル能力…?
一体何を言っているのか分からなかった。
戸惑っている麻衣子を無視してアナウンスが続ける。
『対処者:新島麻衣子 年齢:二十六歳』
『生命活動を停止を確認』
『すぐ様、魂を異世界転移を開始いたします。』
異世界転移…?
ライトノベルでよく見るものだ。
『魂の移転先:『グランディア・アンダーテイル』』
「え?」
意識が遠のいているはずだった麻衣子が
一瞬意識を取り戻す。
『憑依者:ラピスラズリ』
その名前はーー。
最推しルシファーの娘ではないか。
『目的地への転移準備完了。』
『開始いたします。』
「えっちょっと待…」
最後の言葉を口にすることなく
麻衣子の意識はそこで途切れた。
────────
ーー何も感じない。
音もない、光もない
ただふわふわとした感覚だけが残っていた。
目を開けた。けど目を開けたと思った。
けれど、そこに見えたのは
真っ白な空間の中にいた。
ここは一体どこなの?
身体を動かそうとしても、全く動かない。
まるで、自分が存在していないよう。
つまり、あれか。
私は天国へと行ったのか。
想像していた天国とは全く違うな。
ーーそう思った時だった。
身体がーーいや魂そのまま大きく動き始めた。
「えぇ…!?」
まるで、波に押し流されるように
私の身体は前へと押し出される。
遠くに小さな光が見えた。
その光は私が近づく度に、大きくなっていき。
ちょっとー!
一体どこへ向かおうとしているのぉー!
と叫んだつもりだった。
そのまま私は光に飲み込まれていく。
眩しくて目を開けられない。
けれど何かに触られているのを感じる。
そしてーー。
何かふわふわとしたものを包まれる。
「…?」
一体何が起こっているのか分からないまま。
柔らかくて温かい感触が。
誰かに抱きしめられている。
胸元に顔を埋められているよう。
心臓の鼓動が耳元で伝わってくる。
不思議と安心してしまう温もりであった。
そう感じた時にーー。
ピコンッ!
死ぬ間際に聞こえたあの機械的な音がまた聞こえた。
『魂転移完了。』
『対象人物に魂憑依完了しました。』
『これからあなたは、ラピスラズリとして
生きていくこととなります。』
ーーえ?ラピスラズリ?
その言葉を聞いた瞬間
私の意識は一気に現実へと引き戻された。
恐る恐る目を開けてみると。
ぼんやりとしているが、誰かの顔が映った。
長く美しいラベンダー色の髪に青い瞳。
疲れているのか身体中は汗をかいている様子の女性。
それでも、その女性は嬉しそうな表情をしていた。
「あぁ…」
女性は私を抱きしめる腕に力が少し強くなる。
「あなたの名前はーー」
「ラピスラズリよ。」
とても優しい声で言った。
「…!」
頭の中で丸電球が灯り、何か閃いた。
私、この人を知っているかも。
ゲームの作画集、設定集で百回以上は見た。
魔王ルシファーの最愛の妻であり
そしてラピスラズリの母親であったマリアンヌだ。
「マリアンヌ…?」
そう口にしたはずだったが。
「ふぇ…」
出てきたのは小さな泣き声だけ。
「ふふ…嬉しい?」
マリアンヌらしき女性はそう言う。
けれど、私は困惑。
マリアンヌと口にしたはずなのに。
どうして生まれたばかりの赤ちゃんみたいな声が出た?
もう一度言ってみよう。
「マリアンヌ…?」
しかしーー。
「ふぇ…」
また同じような声しか出なかった。
なんで?
他にも私は身体を動かそうとした。
手を動かしたり足を動かしたり。
けれど、思うように動かすことができない。
おかしい
ーー何かがおかしい。
マリアンヌらしき女性は
私を抱っこしながらも、近くに置かれていた
鏡の方へ視線を向けた。
そして、私も鏡に映る。
「ふぇ…?」(え…?)
私は絶句した。
銀色の髪に、美しい青い瞳。
小さな顔、小さな手。
まだ百センチにもみたないくらいのサイズ
紛れもない赤ん坊である。
ーーえ?
ちょっと待って!?
ーー私赤ちゃんになってる!?
先程まで二十六歳の会社員であったはずなのに。
今はーー。
「ふぇ…」
生まれたばかりの赤ん坊である。
(いやいやいやいや!?)
(どういうこと!?)
(私、元カレに刺されて死んだよね!?)
(なんで赤ちゃんになってるの!?)
混乱している麻衣子に、
再び無機質な声が聞こえてきた。
『先程、ご説明した通りです。』
(えっ?)
『あなたは新島麻衣子としての生命活動を
終了しました。』
(……。)
『そのため、魂をこの世界に私が
移転しました。』
いやいやいや待て。
言っていることが分からなすぎる。
『質問があれば受け付けますよ。』
(聞いていいの!?)
『はい。構いません。』
ではではーー。
ここは本当にあのグランディア・アンダーテイルの
世界にやってきたの?
『はい。魂の移転先は『グランディア・アンダーテイル』の世界です。』
そして憑依したのはラピスラズリ?
『はい。』
(じゃあ…この人は。)
麻衣子は自分を抱きしめている女性を見てみる。
「あら?どうしたの?」
ラベンダー色の髪に美しい青い瞳に
どこか気品のある女性を見て。
すぐ様ピコンッ!丸電球が光って閃いた。
(マリアンヌだ!)
『正解です。』
(ということは…)
本当にグランディア・アンダーテイルの世界に
来たんだ。
うひょー。胸が高なってくる。
(じゃあ、私は本当にラピスラズリとして
生きていくんだね。)
『はい。』
(ラピスラズリとして同じ運命を辿っていくの?)
『いいえ。』
今まではいしか言ってこなかった
アナウンスが初めていいえ。と答えた。
『あなたが選択した行動によって
この世界の未来は変化していきます。』
(つまり、原作通りに行動しなくていいってこと?)
『はい。』
私はそのまま質問を重ねた。
(じゃあ、私が知っているゲーム情報使っていい?)
『構いません。』
(ゲームのストーリーも、キャラクターも、
マップも、イベントも…?)
『はい。』
(すげえ…)
ほぼチートみたいなものじゃない。
最高じゃん!と拳を握ろうとしたが……
「ふぇ…」(あぁ…。)
赤ちゃんだから上手く握れない。
しょんぼりしながらもマリアンヌを眺めた。
自分を大切にするように抱っこしてくれている。
この人がーー。死んでしまうなんて。
そしてルシファーは悲しみにくれて
闇堕ちして魔王になって勇者と戦うこととなる。
それが『グランディア・アンダーテイル』の物語。
(そんなの嫌だな。)
麻衣子は思った。
自分が大好きだった魔王。
ゲームではラスボスとして現れる。
けれど、最初から彼は魔王ではなかった。
愛する人を大切にしていたとても優しい人だった。
それを失ってしまって壊れただけ。
(だったら…)
麻衣子は再びアナウンスに質問した。
(ねぇ。)
『なんでしょう?』
(この世界に規則とかある?)
『規則とは?』
(原作改変したらダメとか。
原作通りに動くとか。)
例を言ってみると
アナウンスはすぐ様返答した。
『特にありません。』
(ないの?)
『あなたの行動を制限するような規則などは
ございません。』
その言葉に麻衣子の目は輝いた。
(じゃあさ。)
(推しを幸せにしていい?)
『はい。』
(どんな、ことでも?)
『はい。』
(原作を変えることとなったとしても?)
『問題ありません。』
(マリアンヌを助けても?)
『構いません。』
(ルシファーが魔王にならない未来にしても?)
『可能です。』
アナウンスはそれを最後に告げた。
『あなたが取得したスキル回想を活用することをオススメします。』
(…!)
『前世で得ていた知識を活かして、
これから起こることをご確認してください。』
『そして、』
『あなたの人生の選択によって
この世界の運命を変えてください。』
私は、マリアンヌの腕の中から
ルシファーを探す。
ここにはいないけれど、きっとどこかにいる。
自分の推しルシファー。
(待っててね。ルシファー)
小さな手を強く握る。
(ルシファーも守る)
(マリアンヌも守る)
私は心の中で叫んだ。
(私の大好きな推しを幸せにしてやる!)
原作通りにさせてたまるか。
私が知っている知識と特殊スキル回想を利用して
原作を全て改変してやる。
こうして、会社員・新島麻衣子二十六歳。
ラピスラズリに転生して
本来なら悲劇へと向かうはずの推しの運命を
変えていくことになった。




