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人を安らかに死なせる魔法を授かった俺は、父を救った

作者: アポロ
掲載日:2026/04/16

十五歳の誕生日を迎えると、人はひとつだけ魔法を授かる。

それは天から与えられる祝福であり、呪いでもあった。

どんな魔法を得るかは誰にも分からない。

火を操る者もいれば、水を呼ぶ者もいる。

身体能力を強化する者、植物を育てる者、怪我を癒す者──

魔法はそのまま、その人の生き方を決める。


リオが十五歳になった日、胸の奥に小さな光が灯った。

それは温かく、優しく、しかしどこか冷たい感触を伴っていた。


「……なんだ、これ」


手を握ると、光は静かに脈打つ。

だが、火でも水でもない。

身体が軽くなるわけでもない。

何かが強くなる感覚もない。


ただ──

“終わり”の気配だけがあった。


その夜、リオは両親にだけ打ち明けた。


「……俺の魔法は、人を……安らかに死なせる魔法だって」


父リョカは驚き、母マールは息を呑んだ。

だが二人はすぐに、息子の肩に手を置いた。


「リオ。魔法は魔法だ。良いも悪いもない」

「そうよ。あなたが優しい子だって、私たちは知ってる」


リオは首を振った。


「でも……こんなの、使えるわけない。

 誰かを……殺す魔法なんて」


マールは抱きしめ、リョカは静かに頷いた。


「使わなくていい。

 お前が望まないなら、一生使わなくていいんだ」


リオは涙をこらえながら頷いた。

その日、彼は心に誓った。


“この魔法は絶対に使わない” と。


それから数年が過ぎた。

リオは村で働き、穏やかな日々を過ごしていた。

父リョカは狩人として村を支えていた。

彼の魔法は“弓を思い通りの場所に当てる”というもの。

狩りでは無敵で、村人たちから尊敬されていた。


だがある日、村の門が騒がしくなった。


「リョカさんが……! 魔物にやられた!」


リオは血の気が引いた。

駆けつけると、父は担がれて帰ってきた。

胸から腹にかけて深い傷。

呼吸は荒く、目は焦点を失っている。


「父さん……!」


治癒魔法を持つ村人が必死に魔法をかける。

だが、傷は塞がらない。

魔物の毒が回っているのだ。


「……だめだ。これ以上は……」


治癒師が首を振った。

誰の目にも、リョカが助からないことは明らかだった。


リョカは弱々しく手を伸ばした。


「……リオ……こっちへ……」


リオは震える手で父の手を握った。


「父さん……! 今、治すから……!」


「……いいんだ。分かってる……自分の体だ……」


リョカは苦しげに息を吐き、リオの目を見つめた。


「リオ……頼みがある」


その言葉だけで、リオは理解した。

胸が締め付けられ、呼吸が止まりそうになる。


「……やめてくれ。言わないでくれ……」


「お前の魔法は……人を救う魔法だ。

 苦しみから……解放する魔法だ」


「違う……! そんなの……!」


リョカは震える手で、息子の頬に触れた。


「リオ……父さんは……もう痛みに耐えられない……

 頼む……楽にしてくれ……」


リオは泣き叫んだ。


「嫌だ……! 俺は……父さんを殺したくない……!」


「殺すんじゃない……救うんだ……

 お前の魔法は……優しい魔法だよ……」


リョカの声はかすれ、目は涙で濡れていた。

その涙は、痛みのせいか、息子への想いか、分からなかった。


リオは父の手を握りしめた。

震えが止まらない。

心臓が壊れそうだった。


「……父さん……ごめん……」


リオは魔法を発動した。

光が父の胸に触れた瞬間、リョカの表情から苦痛が消えた。

呼吸が静かになり、体の力が抜けていく。


「……ありがとう……リオ……

 お前は……優しい子だ……」


それが、父の最後の言葉だった。


リョカは安らかな顔で息を引き取った。


リオは父の胸にすがりつき、声を上げて泣いた。


「俺が……殺したんだ……!

 俺が……父さんを……!」


マールは泣きながら息子を抱きしめた。


「違う……違うのよリオ……

 あなたは……父さんを救ったの……」


だがリオの心には、罪悪感が深く刻まれた。


父の葬儀が終わった後、リオは村の外れに立っていた。

父の墓の前で、拳を握りしめる。


「父さん……俺は……どうすればいい……?」


風が吹き、草が揺れる。

返事はない。


だが、父の最後の言葉が胸に残っていた。


──お前の魔法は、人を救う魔法だ。


リオは涙を拭き、ゆっくりと立ち上がった。


「……分かったよ、父さん。

 俺は……この魔法で……誰かを救うよ。

 苦しんでる人を……楽にしてやるよ。

 そのたびに……俺はきっと壊れていくけど……

 それでも……俺は逃げない」


リオは歩き出した。

その背中は震えていたが、確かに前を向いていた。


こうしてリオは、

“安らぎを与える者” として生きていく道を選んだ。


それは祝福でもあり、呪いでもあった。

だがリオは知っていた。


優しさは、ときに残酷だ。

 それでも、人を救うために必要なものだ。


父の眠る丘に、静かな風が吹いた。

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