人を安らかに死なせる魔法を授かった俺は、父を救った
十五歳の誕生日を迎えると、人はひとつだけ魔法を授かる。
それは天から与えられる祝福であり、呪いでもあった。
どんな魔法を得るかは誰にも分からない。
火を操る者もいれば、水を呼ぶ者もいる。
身体能力を強化する者、植物を育てる者、怪我を癒す者──
魔法はそのまま、その人の生き方を決める。
リオが十五歳になった日、胸の奥に小さな光が灯った。
それは温かく、優しく、しかしどこか冷たい感触を伴っていた。
「……なんだ、これ」
手を握ると、光は静かに脈打つ。
だが、火でも水でもない。
身体が軽くなるわけでもない。
何かが強くなる感覚もない。
ただ──
“終わり”の気配だけがあった。
その夜、リオは両親にだけ打ち明けた。
「……俺の魔法は、人を……安らかに死なせる魔法だって」
父リョカは驚き、母マールは息を呑んだ。
だが二人はすぐに、息子の肩に手を置いた。
「リオ。魔法は魔法だ。良いも悪いもない」
「そうよ。あなたが優しい子だって、私たちは知ってる」
リオは首を振った。
「でも……こんなの、使えるわけない。
誰かを……殺す魔法なんて」
マールは抱きしめ、リョカは静かに頷いた。
「使わなくていい。
お前が望まないなら、一生使わなくていいんだ」
リオは涙をこらえながら頷いた。
その日、彼は心に誓った。
“この魔法は絶対に使わない” と。
それから数年が過ぎた。
リオは村で働き、穏やかな日々を過ごしていた。
父リョカは狩人として村を支えていた。
彼の魔法は“弓を思い通りの場所に当てる”というもの。
狩りでは無敵で、村人たちから尊敬されていた。
だがある日、村の門が騒がしくなった。
「リョカさんが……! 魔物にやられた!」
リオは血の気が引いた。
駆けつけると、父は担がれて帰ってきた。
胸から腹にかけて深い傷。
呼吸は荒く、目は焦点を失っている。
「父さん……!」
治癒魔法を持つ村人が必死に魔法をかける。
だが、傷は塞がらない。
魔物の毒が回っているのだ。
「……だめだ。これ以上は……」
治癒師が首を振った。
誰の目にも、リョカが助からないことは明らかだった。
リョカは弱々しく手を伸ばした。
「……リオ……こっちへ……」
リオは震える手で父の手を握った。
「父さん……! 今、治すから……!」
「……いいんだ。分かってる……自分の体だ……」
リョカは苦しげに息を吐き、リオの目を見つめた。
「リオ……頼みがある」
その言葉だけで、リオは理解した。
胸が締め付けられ、呼吸が止まりそうになる。
「……やめてくれ。言わないでくれ……」
「お前の魔法は……人を救う魔法だ。
苦しみから……解放する魔法だ」
「違う……! そんなの……!」
リョカは震える手で、息子の頬に触れた。
「リオ……父さんは……もう痛みに耐えられない……
頼む……楽にしてくれ……」
リオは泣き叫んだ。
「嫌だ……! 俺は……父さんを殺したくない……!」
「殺すんじゃない……救うんだ……
お前の魔法は……優しい魔法だよ……」
リョカの声はかすれ、目は涙で濡れていた。
その涙は、痛みのせいか、息子への想いか、分からなかった。
リオは父の手を握りしめた。
震えが止まらない。
心臓が壊れそうだった。
「……父さん……ごめん……」
リオは魔法を発動した。
光が父の胸に触れた瞬間、リョカの表情から苦痛が消えた。
呼吸が静かになり、体の力が抜けていく。
「……ありがとう……リオ……
お前は……優しい子だ……」
それが、父の最後の言葉だった。
リョカは安らかな顔で息を引き取った。
リオは父の胸にすがりつき、声を上げて泣いた。
「俺が……殺したんだ……!
俺が……父さんを……!」
マールは泣きながら息子を抱きしめた。
「違う……違うのよリオ……
あなたは……父さんを救ったの……」
だがリオの心には、罪悪感が深く刻まれた。
父の葬儀が終わった後、リオは村の外れに立っていた。
父の墓の前で、拳を握りしめる。
「父さん……俺は……どうすればいい……?」
風が吹き、草が揺れる。
返事はない。
だが、父の最後の言葉が胸に残っていた。
──お前の魔法は、人を救う魔法だ。
リオは涙を拭き、ゆっくりと立ち上がった。
「……分かったよ、父さん。
俺は……この魔法で……誰かを救うよ。
苦しんでる人を……楽にしてやるよ。
そのたびに……俺はきっと壊れていくけど……
それでも……俺は逃げない」
リオは歩き出した。
その背中は震えていたが、確かに前を向いていた。
こうしてリオは、
“安らぎを与える者” として生きていく道を選んだ。
それは祝福でもあり、呪いでもあった。
だがリオは知っていた。
優しさは、ときに残酷だ。
それでも、人を救うために必要なものだ。
父の眠る丘に、静かな風が吹いた。




