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馬だって、カップ麺が食べたヒヒィィィン♪

作者: 明石竜

 夜の厩舎に、湯気が立ちのぼっていた。


 月明かりの下、一頭の馬が静かに前脚でカップを抱えている。

 食欲をそそるカラフルなデザインの容器からは、醤油やニンニクなど香りがぷんぷん漂い、

夜の空気と混ざり合っていた。

 馬の名はハヤテ。昼間は競走馬として颯爽と走るが、秘密の夜の楽しみがあった。

 それが、カップ麺を食べることだった。

「ハヤテ、今日はどれがいいかな?」

 提供してくれるのは、この厩舎に何人かいる厩務員の中の一人のお姉さん。

 このことは、この人とハヤテだけの秘密なのだ。

 ハヤテが選んだカップ麺のフタを器用にめくると、お姉さんがポットから熱湯を注いでくれる。

 美味しく出来上がるのを待つこと三分間――その時間は、レース前のゲートに立つ瞬間よりも長く感じられた。

 湯気が少しずつ落ち着き、麺がふっくらとなった頃、ハヤテの胸は期待でいっぱいになる。


 前脚で器用にカップを持ち、一口すすると、塩気や辛味、旨味なんかが舌に広がる。干し草とはまるで違う、刺激的で不思議な味。汗と土の一日を終えた体に、その温もりが静かに染み込んでいく。ハヤテは思う。速く走るためには、強い脚だけでは足りない。こうした小さなご褒美が心を軽くしてくれるのだと。


 ヒッヒヒィィィン♪

 食べ終えたカップを見つめながら、ハヤテは遠くの街の灯りを想像する。忙しい人々が、同じようにカップ麺で一息ついている姿を。

 明日もまた走る。ジャパンカップ優勝への道のりは、この馬にはまだ果てしなく遠いが、夜にはカップ麺の楽しみが待っている。

  ハヤテは空になったカップが厩務員のお姉さんに片づけられるのを見届けると、静かに目を閉じた。

厩舎にはもう湯気はない。ただ、満ち足りた温もりだけが、夜の中に残っていた。

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