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1-4 「これが…カラオケか?」

部屋は金色で、豪華な印象。

大使館の人間を誘っても、

馬鹿にされてると感じない。

本物じゃないんだろう。

金メッキで、フェイクだって分かる。

でも、騙されたって悪い気はしない。

雰囲気は十分。

換気扇が回ってて、

腐った空気が外に逃げていく。

が、少し息苦しい。

窓が無いから閉塞感があるせいだ。

居場所のない少年少女が集まる、

街のゴミ捨て場。

綺麗な奴らが集まるよりか呼吸が楽だ。

天井にはミラーボールがあって、

照明がバチバチに輝いてる。

歌ってる人間が今日だけはスターだと、

心地よい幻想を見る時間。

マイクと、曲の送信機が置いてあった。

こいつが、シンデレラタイムのスイッチを押す。

(オーフル)「さぁ、好きなだけ歌え。

メニューに書いてある料理も好きなだけ頼むといい。金は気にするな」

テーブルにメニューを広げる。

(クルークハイト)「オムライスが良いな」

(エンプティ)「何かお勧めはっと」

俺は軽くメニューを指でなぞってみる。

(オーフル)「思いつかないなら、ドリアはどうだ。ここのカラオケ店のミートドリアはうまいぞ」

(エンプティ)「へぇ、じゃあそれにしようかな」

特に俺はこれが食いたいとか、

強い渇望があるわけじゃない。

中身のない俺らしい…な。

いや、少し自虐的か。

まぁ、いいさ。

人に勧められたものを食おう。

そのうち、こういうのが出来たら頼めばいい。

(オーフル)「よし、それじゃ注文しようか。

ドリンクバーを3人と、オムライスと、ミートドリアと、ステーキを頼む。赤味多いやつな、脂っこいには苦手なんだ」

部屋にある電話で注文する。

(クルークハイト)「それじゃ、自分たちは飲み物をとってくる。オーフルは何がいい?」

(オーフル)「そうだな、コーラにしておくか」

(エンプティ)「俺もついていく」

そうして俺とクルークハイトは外に出る。

カラオケの部屋と比べて、静かになる。

防音はしっかりしてそうだ。

犯罪が起きても気づかないぐらいには。

2人が通って丁度いいくらいの、

狭い廊下を通ってドリンクバーへと向かう。

(クルークハイト)「こういう所に来ると、自分ん専用のカクテルを作りたくなるよな」

(エンプティ)「そういうものか?」

カラオケ店に初めて来たから、

そういう感覚は俺にはない。

(クルークハイト)「試しに作ってみるといいさ」

(エンプティ)「そうだな」

レモンスカッシュに、カルピス。

レモンカルピスって所かな。

まぁ、無難かもしれんが。

変な味になるよりいいだろう。

(クルークハイト)「自分は、これと、これと、これだな」

サイダーと、メロンソーダと、緑茶。

…緑茶?

それにまむしドリンク、エナジードリンク。

なんかいろいろ混ぜてる。

(エンプティ)「合わないんじゃないのか?」

(クルークハイト)「平気だって、意外とこういうのが美味くなるんだって…不味っ!」

味見とばかりにその場でごくっと飲む。

だけど顔は初めて昆虫食を口にした人の顔と同じに見えた。

(エンプティ)「変なことするから」

俺は頭を抱える。

(クルークハイト)「そういうこともあるさ」

(エンプティ)「オーフルに頼まれたものは?」

(クルークハイト)「いけね…なんだっけ?」

(エンプティ)「コーラだ」

スイッチを押すと甘い香りがふわっと鼻を通る。

ジャンキーで、体に悪いが中毒性はばっちり。

俺が覚えていてよかった。

忘れて怒るような男じゃないが、

もう一回戻るのは面倒だからな。

俺は空っぽな分、記憶力は悪くないと思う。

(クルークハイト)「そうだったな」

グラスを両手に抱えて部屋に戻るのだった。

その道中、他はどんなことをして楽しんでるのだろうと気になって部屋を覗く。

(エンプティ)「うっ」

見て驚く。

暗闇だから、うっすらしか見えない。

しかし、歌詞が映るモニターの明かりが、

僅かながら情報を鮮明にする。

(男)「…」

(女)「…♪」

男女のカップルらしき人物たちが、

何やら楽しそうに絡んでる。

(クルークハイト)「あれってよぉ…」

(エンプティ)「あぁ、間違えないな」

俺だって馬鹿じゃない。

あれが何かぐらいかは知ってる。

女性の下着が見えて、悪いことしてる。

そう、理解できた。

(クルークハイト)「昆虫みたいに交尾してるな」

後ろにいたクルークハイトも覗く。

(エンプティ)「ったく、ここはラブホテルじゃないんだがな」

俺は呆れる。

その行為は曲線のような柔らかさではなく、

直線的な硬さを感じる不快感が俺の中にあった。

(クルークハイト)「警察に通報しようぜ、パトカーに乗ったら笑えるぜ」

(エンプティ)「いいな、それ」

俺は彼の悪戯に賛同して、つい笑ってしまう。

(クルークハイト)「もしもし、警察ですか?

カラオケ店で盛ってるやつが居て…」

グラスを片手に集中させて、

器用に片手でスマホで通報した。

下らない内容なので、

もしかしたら来ないかもしれない。

だけど一応、通報しておいた。

セックスして捕まったってのは結構、

恥だなと思う。

強姦だと笑えないが、女性も喜んで受け入れてたので和姦だろう。

だからこそ、笑えるだろうと思った。

なので、パトカーに運ばれたら、

大いに笑ってやろう。

(エンプティ)「それじゃ、戻ろうか」

(クルークハイト)「あぁ」

俺たちは自分たちの部屋に戻る。

(オーフル)「ありがとう、喉が渇いてね」

そう言ってオーフルはドリンクを取る。

(クルークハイト)「そっちは自家製…」

(オーフル)「不味っ!」

思いっきりに噴き出す。

口の中に毒が入ったのだと、

本能的に感じたのかも。

(オーフル)「そういえば酒も注文しておいたぞ」

テーブルの上には酒が置かれていた。

(クルークハイト)「それじゃ、今日は大いに盛り上がりましょう」

(エンプティ)「こういう時は音頭が必要だろう」

(オーフル)「そうだな、乾杯」

からんとグラスをぶつけて音を鳴らす。

そしてみんなで酒を飲んだ。

この時、初めて知ったんだが、普段は大人しい奴らでも酒を飲むと羽目を外すってのはある。

(クルークハイト)「どんなに~ありのままで~!」

何かを歌ってるのだと思うのだが、

酔っぱらってるのか、音程がぐちゃぐちゃだ。

(オーフル)「がー…ごー…」

オーフルは酒を飲んだら寝た。

(エンプティ)「これが…カラオケか?」

俺はミートドリアをつまみながら、

時を過ごすのだった。

まぁ、でも、そんなに悪くはない気分だった。

店を出たとき。

手前にパトカーが止まっており、

カップルが手錠をかけられていた。

(オーフル)「お、おい事件があったのか?」

辺りを見渡し、そわそわしていた。

(クルークハイト)「くはははははっ」

(エンプティ)「あはははははっ」

俺とクルークハイトは悪戯に成功して、

笑ったのだった。

夜の風でも冷めぬ身体。

酒で火照った身体に笑いは染みた気がした。

こういう風に明日も考えずに笑えるのは、

研究が順調なのだと理解できた。





それは翌日の出来事だった。

春の湿度もじめっとしておらず、

温度がまだ肌寒い時。

研究所にて。

(エンプティ)「そういえば」

引き出しの中に入れていた言葉を引き出す。

(クルークハイト)「どうした?」

(エンプティ)「俺って携帯持ってないな」

人が持ってて当たり前の物を、

俺は持ってないことに気付く。

(クルークハイト)「そうなのか、てっきりもうすでに持ってると思ってた」

(エンプティ)「無いと不便だよな」

ポケットに手を突っ込む。

でも、その中がスカスカで寂しい。

(クルークハイト)「クルーエルに相談しよう」

スーツ姿のあいつがぱっと思いつく。

(エンプティ)「スマホの専門家なのか?」

(クルークハイト)「契約に強くてな」

(エンプティ)「あぁ…」

そういえば初対面で会ったときに契約についてあれこれ言ってたっけ。

面倒そうだと思ったが、仲間だと心強いのかもしれない。

(クルークハイト)「電話してみる」

彼は自分の持ってるスマホを耳に当てて通話をしてみる。

(エンプティ)「つながりそうか?」

(クルークハイト)「繋がった…もしもし?…携帯電話の契約を…あぁ…自分じゃなくて…そう…エンプティだ…そうか…助かるよ」

電話がぷつっと消える。

なんとなくだが、協力してくれそうな雰囲気がある。

(エンプティ)「上手くいったみたいだな」

(クルークハイト)「あぁ、だけどここを開けるわけにもいかない。悪いんだが1人で行ってきてくれ」

(エンプティ)「まぁ、俺の用事だしな。わかったよ」

(クルークハイト)「いいの買えたらいいな」

(エンプティ)「そうだな、格好いいのが良い」

(クルークハイト)「じゃあな」

(エンプティ)「少し出かけてくる」

そう言って俺は研究所を後にするのだった。



携帯ショップに居る。

看板は白黒赤の3色。

ドコバンクという名前の店だった。

クルーエルと合流する。

何処か別の場所で待ち合わせても良かったが、現地集合ということになったのだった。

スーツ姿だけど、色白の肌が何だか他の人よりも目立ってた気がして、

見つけることが簡単だった。

(クルーエル)「俺を頼ってくれるのは嬉しいよ」

そんな風ににこやかに挨拶をされる。

(エンプティ)「えっと、どうも」

だけど素直に安心できなかった。

彼にはどうにも怖い部分がある気がして。それでも味方になってくれてるのだから頼ってもいいのかもしれない。

(クルーエル)「それじゃ、行きましょうか」

(エンプティ)「あぁ」

店の中へと歩を進めていく。

清潔感のある店内だった。ここで子供を遊ばせても病気にならないくらいに。

中にはウォーターサーバーがあって、

水とお茶を選択して無料で飲むことが出来る。

でも、水を飲みに来たわけではないので、

携帯のコーナーへすぐに目が移る。

(クルーエル)「欲しいのは決まってるのかい?」

(エンプティ)「どうかな。あまり詳しくないから、電話のメールが出来れば十分かな」

(クルーエル)「それじゃあ、ゲームが出来るとかは気にしなくていいか…シンプルにこんなのがいいと思う」

手渡された機種を見ると、7万くらいで、値段も10万円とか、もっと言えば20万くらいのスマホもある中で、俺にはちょうどいい気がした。

(エンプティ)「これでいいよ」

俺はおススメされたのを買うことにした。

(クルーエル)「あとは買うだけだな」

(エンプティ)「契約か…」

(クルーエル)「契約…ね」

契約…という言葉を聞いて彼の目が一瞬で獰猛なサメのような目つきになる。俺は少しドキッとした。

(店員)「携帯をお決めになりましたか?それでは席の方へどうぞ」

店員が何処かで聞いていたのか、ささっとやってきては席を案内する。

(クルーエル)「行こうか」

席に案内されるがまま、向かう。

(店員)「こちら、水です」

ウォーターサーバーに入った紙コップを渡してくれる。計3つだった。

(エンプティ)「ありがとう」

俺は水をくいっと飲む。

思ったよりも喉が渇いていたみたいで一気に飲み干してしまった、。

(クルーエル)「…」

だけど彼は一切、飲み水に手をつけなかった。

(店員)「はい、それでは契約の方に参りますが、ギガはどうなさいますか?」

店員もそれは同じのようで水は飲んでない。

ささっと、タブレットを持ってくる。

そこには複数のプランがあった。

(エンプティ)「ギガ?」

(店員)「多ければ多いほど、便利ですよ。倉庫みたいなもので、大きいほどたくさん荷物が入るって考えてもらえばいいんじゃないかと思いますね」

(エンプティ)「じゃあ、大きいのにしようかな」

俺は一番サイズが大きい50ギガと書かれたものに指が行きそうになる。

だけど、クルーエルにばっと手を掴まれる。

(クルーエル)「それは必要ない」

ばっさりと言い切る。

(店員)「えっと…この方は」

店員は少し水をくぃっと飲む。

そして俺の方を見て尋ねる。

(クルーエル)「友人だよ、何か問題でも?」

少しピりつく。

おいおい、大丈夫なのかと少し不安になる。トラブルはごめんだぜ?

(店員)「契約する本人と会話する方が、意志を尊重してると思いまして」

(クルーエル)「それは、そうだが」

水を少し飲む。

(店員)「私としても、ぜひお客様には満足して帰っていただきたいですから」

にこっと微笑む。

それは100点満点の営業スマイルだった。

(クルーエル)「話を戻すが、こっちの彼は別にネットを見たりゲームをしたりするわけじゃない。だから、ギガはそんなに必要ない。少なめのプランで頼む」

(店員)「ですが、多い方が便利ですよ。生きてる時に全く動画を見ないってのも寂しい人生ではありませんか。それならば動画を見たりして豊かになりたいと生きてて思う人の方が多いと思いますがね」

(クルーエル)「俺は、要らない、そう言ってるんだ」

きっとにらむ。

その姿に少し迫力を感じる。

(店員)「はぁ…わかりましたよ」

水をくぃっと飲む。

面倒くさそうな顔をしてる。

明らかに不快そうだ。

(クルーエル)「こっちのプランと…あぁ…こっちのプランを頼む」

ささっと決めていく。

俺は何やら何がさっぱりなので、

本当にお願いする他は無い。

(店員)「サポートプランもございますが、どうなさないますか?こちらがあれば万が一、トラブルが起きた際に弊社の方で修理や相談などもできますが」

(クルーエル)「必要はない、いざって時はこちらの方でなんとかする」

(店員)「それっておそらく、弊社ではない別の場所で修理してもらうってことですよね。そうするぐらいなら…うちで見た方が安心かと思うんですが非公式より公式の方が」

(クルーエル)「技術があるのは公式だけとは限らないでしょう?」

(店員)「それは、そうですが」

顔に汗が出始める。

彼はハンカチで顔を拭いて水を飲む。

(クルーエル)「とにかく俺の言ったプランしてください。他は強引な契約として違法だと然るべき所に相談しに行きますよ?」

(店員)「はぁ…わかりましたよ」

明らかに分かるような大きな声でため息。

不快さを隠す気はなさそうだ。

そして水を飲み切った。

(クルーエル)「これで全部のはずだ」

(店員)「えぇ、そうですね」

(クルーエル)「エンプティ」

(エンプティ)「あ、あぁ…」

俺は財布を取り出して、金を支払う。

今時珍しい現金で少し恥ずかしい。

電子マネーの方が恰好がつくんだが。

まぁ、無いのだからしょうがない。

(店員)「出来る事ならば2度と来ないでくださいね~」

店員は爽やかにそんなことを言ってくる、俺は一瞬、自分の耳を疑ったがマジにそう言ってる。

(クルーエル)「問題があれば来るさ」凄いメンタルだと思った。

でもこれぐらいの方が、頼りがいみたいなのは感じるかもしれない。

請求書のプランを見比べると驚く。

(エンプティ)「すごいな」

元々予定したプランだと、

月に10万円を払う必要が。

それを月に1万円に抑えてる。

(クルーエル)「まぁ、こんなものよ」契約が上手くいって、彼は何だか誇らしげだった。

(エンプティ)「ありがとう、助かったよ」

(クルーエル)「また、何かあったら呼んでくれ。契約に関してだったら力になるさ」

そう言って俺たちは抱きしめあう。

そして別れるのだった。

俺は手を振って見送った。








スマホを買った帰りだ。

小さな紙袋を片手に夕日を眺める。

オレンジ色の淡い光が俺の影を作り出す。

街中に流れる川。

マンションが奥に見える。

それでも土手に降りると、

植物を踏んだ時に感じる青臭い感じ。

あぁ、自然だなと思う。

ここら辺の憩いの場だろう。

何処か見知った顔が居た。

子供たちに混じってはしゃぐ女性の背。

(エンプティ)「ルミナス?」

俺の目が1人の人間を捉えた。

土手を降りていき、傍に近づいてみる。

(ルミナス)「正義のヒーローの登場だ、悪い奴らめ、覚悟するといい!」

すると、目の前で起きた光景に驚きを感じる。なんと、大人の女性が子供たちに混じって遊んでるからだ。

(子供A)「へっへっへ、こいつがどうなってもいいのか」

マスクをつけて怪しい雰囲気の少年。

(子供B)「きゃー、助けて」

少女は棒読みで、必死さは無い。

(ルミナス)「今助けるぞ!光のキック!」

高い所に上って、その勢いで少年に向かってキックを入れるのだった。

(子供A)「ぐああああああっ」

少年は蹴りの威力に耐え切れずに倒れる。

(子供B)「ありがとう、ルミナス」

嬉しくなさそうなありがとうだった。

(ルミナス)「はっはっは、参ったか」

彼女はふんぞり返って、とても楽しそうだった。

(子供A)「ちくしょう、痛ってぇ」

少年は痛そうだ。

血は出てないが、大人の蹴りを食らったのだ。そりゃ、そうだろう。

(子供B)「大丈夫?」

少女は心配して駆け寄る。

(子供A)「ったく、大人のくせによぉ…ちっとは手加減しろよな…俺だって正義のヒーロー役やりたいぜ」

(ルミナス)「ダメーっ、私がやるからです」

ルミナスは手前で両手でバッテンを作って拒否する。

(子供A)「それでも大人かー?」

不平不満が漏れる。

当然だろう、いい歳した大人がやることではないと思う。

(ルミナス)「あはははは」

でも、彼女は譲る気はなさそうだ。

(エンプティ)「随分と楽しそうだな」

俺は土手を降りて彼女に近づく。

(ルミナス)「エンプティ、前にも会ったね…これも何かの縁かな?」

(エンプティ)「良縁って訳じゃなさそうだが」

(ルミナス)「失礼な、私との縁を悪いように言うのはダメだぞ」

(エンプティ)「子供相手に蹴りをぶちかます女はちょっとな」

(ルミナス)「ヒーローになりたいんだからしょうがない」

(エンプティ)「ヒーロー?」

(ルミナス)「そう、ヒーロー」

背中に隠し持っていたギターを取り出す。

エレキギターを見せてくれる。

(エンプティ)「ヒーローって、悪役を倒すああいうドラマやアニメのヒーローじゃなくて、音楽の方のギターヒーローか」

俺はそのことに気付く。

(ルミナス)「カッコいいじゃん、ギターヒーローって…憧れるんだぁ」

(エンプティ)「まぁ、分からなくもない」

本物に会ったことはないが、

モニターの向こう側に居る人たちは確かに恰好いい。皆にわーきゃーされて、

天才だって周りから認められてる。

ああいう人たちは人生の意味とか考えないんだろうなって思う。

皆に認められてるのだから、

幸福の絶頂に居る人たちだ。

地べたを生きてる人間の心は、

ステージの脇に置いてきてしまった。

(ルミナス)「私もなりたいな、ギターヒーロー」

(エンプティ)「子供を蹴るよりマシだな」

(ルミナス)「まぁ、そう言うなって。

一曲、聞いてかない?」

ルミナスはギターを構える。

すると様になる。

貧しそうな格好してる人間でも、

刀を構えれば侍に見えるように、

彼女も何だか恰好がついて見えた。

(子供A)「やめておいた方がいいと思うぜ、兄ちゃん」

(子供B)「私も…そう思う」

子供たちからの評判は悪そうだ。

(エンプティ)「でも、気になってね」

(子供A)「そういうんなら俺はとめねぇよ」

子供たちは耳を閉ざす。

(エンプティ)「一曲頼むよ」

嫌な予感はしたが、もう止めれない。

(ルミナス)「それじゃ行くよ…愛を…知ってるかーーーーーっ!」

ギターをじゃーーんと弾く。

すると何処かで爆発が起きて、

パンと紙吹雪が飛び散った気がした。

(エンプティ)「うわっ」

俺は思わず耳をふさぐ。

耳の中に鉄串を突き刺したのでは?

と錯覚するほどの強烈なサウンドだった。

(ルミナス)「世界を超え~て~私は~輝くのよ~」

ルミナスの歌は上手とは言えない。

というより酷い。

料理が不味い人間が料理人と名乗れないように、歌が下手な人間は歌手を名乗るのをやめた方がいいと思うほどの強烈なものだった。

(エンプティ)「ストップだ!」

俺は耐え切れずに叫ぶ。

近くに居た少年少女たちは、

息のできない魚のように喘いでいた。

(ルミナス)「どうしたん?」

不思議そうな顔をしていた。

(エンプティ)「あのなぁ、気づいてないかもしれないが、蜂が自分の毒で死なないように、お前の歌ではお前は死なないから気づかないかもしれないが、酷いぞ?」

(ルミナス)「えぇ?」

俺の言葉にかなりショックを受けてるようだった。

(エンプティ)「ギターヒーローは向いてないんじゃないのか?」

(ルミナス)「そ…そんな」

ルミナスは俺の言葉の鋭さに出血多量で倒れる。草むらのベットが良い感じに受け止めてくれた。

(エンプティ)「にしても…なんでギターヒーローなんか目指してるんだ?」

その言葉は闇に触れた。

顔の影の面積が増えたように錯覚する。

(ルミナス)「居場所が…欲しくてさ」

ルミナスは夕日を眺める。

その動作が何処か光を欲してるように見えるのだった。

(エンプティ)「居場所?」

(ルミナス)「私さぁ、家族仲悪いんだよね」

ルミナスはポケットを見せてくる。

それは空っぽ…本来ならば家の鍵を持ってても可笑しくない、でも無いってことは彼女の言葉が真実なのだと理解できた。

(エンプティ)「ルミナス…」

俺も親に捨てられたから、

気持ちは理解できた。

(ルミナス)「ガロウズがさ、ずっと家に居てもいいって言ってくれたんだけど毎日は…その…申し訳ないじゃん?」

ルミナスは指で遊んで、

言葉を選んでるようだった。

(エンプティ)「そうだな」

(ルミナス)「だから…自分の力で何とかしたいって思うんだよ普段はカラオケ店で働いてさ、ダメな時はこうして川で寝泊まり…女の子が危ないってのは分かってるんだけどね…でも…ほかに行く場所もないしさ」

(エンプティ)「あれも、その結果か?」

俺は後ろにいる少年たちを指さす。

(子供A)「ブーメランだ!」

少年はルミナスのブラジャーを振り回して遊んでる。

(子供B)「それ、遊んだらダメだよ!」

少女はそれが何かを理解してるので止めようとしてるが、少年には言葉が届きそうにない。

(ルミナス)「ぎゃーーーーーーっ!」

急いでブラジャーを回収しに行く。

(子供A)「ぎゃーーーーっ」

少年はルミナスに追いかけられて逃げる。

でも、少し鬼ごっこみたいで楽しそうだ。

(ルミナス)「はぁ…はぁ…」

息が荒い。

なんとか取り返したようだった。

(エンプティ)「平気か?」

俺は軽く心配する。

(ルミナス)「だいじょうぶ…はぁ…なわけない…はぁ…はぁ…」

ルミナスは顔をあげれないほど、

疲れてる雰囲気だった。

ルミナスは子供たちの前でヒーローを演じることで、少しだけ自分の居場所を感じてるのかもしれないと思った。

(エンプティ)「ご苦労さん」

俺は軽くではあるがねぎらう。

(ルミナス)「どうも…」

走りつかれたからか、少し休憩していた。

そんな時だった。

(エンプティ)「それにしても子供ってのは元気だな」

ルミナスと距離をとっても、

まだ遊び足りないのか走り回ってる。

(ルミナス)「それが子供ってものよ、大人と違って母親からのエネルギーを分けてもらったばっかりなんだから」

(エンプティ)「そうかもしれないな」

摩耗した機械はさび付いて動けなくなるだけ。

なんとも寂しい話だ。

(子供A)「おい、こっちに行こうぜ。まだ行ってないんだからよ」

(ルミナス)「そっちはダメ!」

ルミナスは何かに気付いたようで立ち上がる。

しかしすでにそれは遅かった。

(子供A)「え・・・?」

足場の砂が瓦解する。

子供程度の体重だろうと関係ない。

土が乾燥して柔らかくなってるからだ。

水しぶきが派手に飛び散る。

(エンプティ)「おい、なんかマズそうだ」

俺も危険を感じて立ち上がる。

顔に冷や汗を流す。

(子供B)「いやあああああああああ!」

少女が叫びだす。

その声に反応して川に遊びに来ていた大人が反応する。

(大人A)「おい、どうしたんだ」

(大人B)「何があったの?」

慌てた様子で駆け寄る。

(エンプティ)「子供がおぼれた」

俺は伝えなくてはいけない事実を伝える。

(大人A)「そんな、急いで救急車を…」

(大人B)「警察じゃないのか!?」

焦燥しきった顔で、スマホで急いで電話する。

(ルミナス)「くそったれ!」

ルミナスは自分にロープを巻き付けて、近くの木にくくる。そして何の躊躇もなく飛び込んだ。

服が汚れるからとか、

そういうのを一切気にせずにだ。

(子供A)「がはっ」

呼吸しようと必死になって、

水を飲み込んでしまう。

あれはとても不味い。

だがルミナスが行った。

(ルミナス)「引っ張って!」

それは悲痛な叫びだった。

その願いは叶えないわけにはいかない。

(エンプティ)「今やる」

俺はロープを引っ張る。

(子供A)「げほっ…」

子供は水を吐いたが、呼吸はしっかりしてる。

意識もあって目線が合ってる。

どうやら無事みたいだ。

(エンプティ)「ふぅ」

俺は安心して地面に座り込む。

(ルミナス)「…」

だけどルミナスは何故かとても不満そう。

何が気に食わないのだろうか?

(大人A)「すごいわ。助けに行くなんて」

(大人B)「あぁ、きっと表彰物だ」

ルミナスの堪忍袋に彼らは触れた。

(ルミナス)「どうして助けに行かない!?」

(大人A)「えっと…?」

困った顔をする。

(ルミナス)「私が行かなかったらどうするつもりだったんだ?」

髪の毛から雫がぽたぽたと垂れる。

それは川に入ったからだが、

まるで彼女の怒りが身体から滲み出てるようにも見えた。

(大人B)「だから、その救急車とか、警察を呼んで…」

まさか怒られるとは思わず、必死に弁明する。

だけどそれが余計にルミナスの怒りのディストーションが増幅するだけだった。

(ルミナス)「警察が来る前におぼれるかもしれないだろう、救急車来る前に息が止まるかもしれないだろう、だったら誰かが行くべきなんじゃないのか!?」

ルミナスは大人たち向かって叫ぶ。

それは何処か、別の誰かに向かって言ってるようにも見えた。

(大人A)「あぁ…」

何も言い返せずに黙り込んでしまう。

(ルミナス)「病気とか怪我だったらさ、医者に任せないとって思う。

でもさ、海じゃなくて川だよ。

頑張れば助けられそうじゃん、それなに周りの大人たちはさ、

救助、救助って来るか分からない人たちを頼ってる。

そんなのは可笑しい。

初めから”やらない”選択をしてるのはダサいよ」

染みわたらすように、静かに語りだす。

(子供A)「げほっ…もういいよ…ルミナス」

少年は言葉を制止する。

(ルミナス)「けど…」

まだ言い足りない雰囲気があった。

でも、これ以上は正当ではなく感情的だと心のどこかで思ったのかもしれない。

(子供A)「僕は…生きてるからさ」

ある意味、一番大人な対応をするのが彼だった。

仲裁して、場を鎮めたのだから。

突然、遠くからサイレンの音が聞こえる。

(エンプティ)「来たんじゃないのか?」

そのサイレンの元凶である、

救急車がやってくる。

(救急隊員)「おぼれた子供ってのは?」

隊員は駆け付けてくる。

(ルミナス)「彼です」

ルミナスが指さす方向に、少年が寝込んでる。

(救急隊員)「急ぐぞ!」

担架に乗せて、少年は運ばれていくのだった。

(子供B)「私…帰るね…こんな風になったし」

少女は複雑な表情を浮かべて帰るのだった。

(大人A)「それでは私たちも…」

(大人B)「そうですね…」

大人たちは怒られたせいか、意気消沈して帰っていく。

(エンプティ)「ヒーローになりたいって言ってるだけあって正義感が強いんだな」

(ルミナス)「皮肉?」

(エンプティ)「いや、そのつもりはない。

ただ…」

俺は言葉を切って、思案する。

(ルミナス)「なに?」

彼女は俺の言葉を待つ。

(エンプティ)「怒らせたら怖いなって」

(ルミナス)「ぷっ…あはははははっ」

ルミナスは高らかに笑った。







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