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1-2「どうせ大した男じゃない…忘れてもらってもいいぜ」

数年が経って、俺は大人って存在になったと思う。

身長も大きくなり、180cmくらいはあるだろう。

そして、ようやく白衣を通すことが出来た。

今までは子供扱いだったが、これで大人の仲間入り。

そう思うと何だか嬉しい気分だった。

(エンプティ)「ふふ…」

鏡の前で俺は少し舞い上がっていた。

小さな部屋で、昼間の光を感じながら。

(オーフル)「似合ってるじゃないか」

後ろから古びた白衣を身に着けた高齢の男性がやってくる。

(エンプティ)「見てたのかよ」

俺は何だかいけないものを見られた気分だぜ…。

顔を隠して背を向ける。

(オーフル)「晴れ姿だと思ってね」

オーフルは嬉しそうな顔をする。

彼の皺が少し増えたような感じだった。

(エンプティ)「あんたに俺の空っぽ、埋めてもらったからな」

彼が居なければ、俺はここまで大きくならなかった。

心の底からそう思えたんだぜ…オーフル?。

(オーフル)「ほら、これ」

彼はポケットから、飴を取り出す。

カラフルな包み紙で覆われてる可愛いデザインのやつ。

おじさんって呼ばれる年齢の男がそれを持ち歩いてるのは、

すこし可愛いって思える。

(エンプティ)「いらないよ、俺はもう大人なんだ」

俺は少し意地を張る訳じゃないが、

強がってそんなことを言う。

(オーフル)「ふふ…そうか」

オーフルは少し寂しそうにポケットに飴を戻す。

(エンプティ)「そういえば、あんたいつも持ち歩いてるよな…ひょっとしてだが自分のためじゃなくて…俺のために?」

まさかな…でも…とも思う。

(オーフル)「いや、考えすぎだ。

元々、私は甘いもの好きでね…でも…あの時、飴を渡したら喜んでくれただろう…だから儀式…とでも言えばいいのかな…君との会話に困ったときに取り出してたよ」

(エンプティ)「オーフル…」

そうか、そういうつもりで飴を持ち歩いてたんだな。

ったく、優しいんだよ、あんたは。

(オーフル)「これから君は私たちの仲間だ」

(エンプティ)「私…たち?」

すこし引っかかる表現だな。

俺は気になった。

(オーフル)「そうだ、

研究というのは1人では出来ない。

だから、協力しあう人間が必要だ。

入ってきたまえ」

オーフルは手を叩く。

すると、憂いがある顔をする男と出会う。

そう思ったのは目の下にクマがあり、

ポケットに手を突っ込んでいたから。

サンダル姿で気だるそうだ。

(クルークハイト)「…どうも」

(エンプティ)「どうも」

何だか辛気臭そうだ。

俺との会話に興味がないんじゃないか?

仲良くなれるのか微妙だな。

失礼だが、そんなことを思う。

(オーフル)「研究もいいが、まず最初に仲良くなることが大事だ。喧嘩しながら研究なんてやりづらいだろう?」

(エンプティ)「まぁ…な」

オーフルもこう言ってるし、仲良くするか。

俺はため息を吐いた。

(クルークハイト)「クルークハイト・テネブラス…どうせ大した男じゃない…早く忘れてもらってもいいぜ」

まるで手に重りがついてるみたいに下から握手用の手を差し出す。

(エンプティ)「どうも」

握手を受け取る。

暗いなぁ…やっていけるか?

俺も不安になってきたぜ…。

(オーフル)「さっそく2人で行くといい」

オーフルはがさごそとポケットから何かを取り出そうとしてる。

(エンプティ)「行くってどこに」

そんな話は聞いてなかったので驚く。

出かけることに別に抵抗がある訳じゃないけどさ。

あんまり遠いのは面倒だぜ。

(オーフル)「じゃーん、ここだ」

オーフルが出した地図は平和山と書かれた山だった。

スマホにはそう記されていた。

(エンプティ)「それじゃ場所も決まったことだし…行きますかね」

俺は腕を伸ばして緊張をほぐす。

さて、仲良くなれるといいが。

(クルークハイト)「自分との思い出…忘れるだろうが…行こうか」

(エンプティ)「…」

仲良くなれるか不安だ。

俺は心の中でため息を漏らす。





平和山へと俺たちはやってくる。

今日は交流を目的とした会だ。

まだ互いに知らないのだから知っていこうという話。

春の季節とはいえ、まだ肌寒い気がする。

湿度はまぁまぁって感じ。

それほど不快ではない。

風は穏やかで、日の光が寒い身体を少し温めてくれる。

屋外の駅のホームでクルークハイトを待ってる。

だが、遅い。

トイレに行くと言っていたのだが、何をしてるのだろう。

トイレに1時間もかかるものだろうか?

足をこつこつと鳴らして苛立つ。

俺はスマホを開いて電話する。

(エンプティ)「クルークハイト、今どうしてるんだ?」

怒鳴るのは得意ではないので声のトーンは落としてる。

ぴっという音が電話がつながった感じがして安心する。

それは良かったが、一体今何をしてるのだろうか?

気になって尋ねる。

(クルークハイト)「悪い…売店を見てて約束を忘れてた」

あいつ…忘れっぽいな。

声がぼそぼそっと聞こえてくる。

その声はあんまり焦ってるように思えない。

俺は何だかずっこけそうな気分になってきた。

(エンプティ)「いいから戻ってこい」

待たされる身になってほしいぜ…。

俺はため息をする。

怒鳴れれば楽なんだろうけど、そういうタイプじゃない。

(クルークハイト)「今…戻る」

電話がぷつっと切れる。

そのままじっとスマホを眺める。

特に謝罪がある訳じゃないんだよな。

強く要求しても何だか衝突しそうだし…。

何だか仲良くなれるか不安だ。

俺は晴天の空を見上げるが、心の中は曇りに思えた。



遠くで歩いてくる、クルークハイトが見える。

(エンプティ)「ったく、早くいくぞ」

俺は彼を見つけたので電車へ向かう。

(クルークハイト)「あぁ」

クルークハイトは俺の背にくっつくようにやってくる。

少しだけ弟のようにも見える。

別に兄弟が居た訳じゃないからイメージにすぎないが。

(エンプティ)「最近はああいうのが多いな」

電車の中ではスマホにのってゲームしてるらしき人が多い。

これも時代の流れなんだと思うが、

俺には少し理解できなかった。

(クルークハイト)「ああいうのって?」

クルークハイトは俺の発言の意味が理解できないようで、

尋ねてくる。

(エンプティ)「だから、ああいう風にゲームしてる人たちのことを言ってるんだ、お前はどうなんだ?」

クルークハイトはゲームが好きかもしれない。

それならばそれをきっかけに仲良くなるかもな。

というのも1つの作戦だろう。

(クルークハイト)「ゲームは苦手なんだ」

その言葉に俺は意外性を感じた。

若者=ゲームって感じなのに、年寄りが嫌いってのはよく聞く。でも若者で珍しいな。

(エンプティ)「そりゃ、なんでまた?」

(クルークハイト)「ログインボーナスってのがあるんだ、自分は忘れる癖があるから、何だか損した気がして…」

(エンプティ)「なるほど、お前らしい」

ログインボーナスってのは確か、毎日やらないと道具が貰えないんだよな。忘れる日が多ければ多いほど、道具が増えないから、ゲームを続けることに嫌気を感じるのか。

そういう人間もいるんだな。これは発見だ。

(クルークハイト)「あっ…見て」

クルークハイトが指さすもんだから、俺もつられて見る。

すると広大な緑の自然が広がる山が見えた。

あれが…平和山か。

もうすぐ到着かと思うと、電車の旅も名残惜しく感じる。

そんな風に思うのだった。




平和山に出向く。

整備された道ではなく、

木漏れ日の下のような自然に満ちた道を行く。

風が穏やかに吹いて、葉っぱを撫でる。

撫でられた葉っぱが何処か嬉しそうに揺れてる気がした。

(エンプティ)「マイナスイオンが気持ちいいな」

実際にはマイナスイオンってのは何処にでも存在するらしく、自然に囲まれた山に行って気持ちいいのは気のせいだって意見があるのは分かる。

でも、人間の吐く汚れた空気より、葉っぱの出す呼吸の方が身体に良いのだから、気持ちいいのは気持ちいのだ。

(クルークハイト)「自然ってのは好きだ、なにかも忘れられる気がするから」

クルークハイトは目を閉じて両手を広げる。

面積を広げて出来るだけ多くの自然を感じたいという思いを感じる。

(エンプティ)「あぁ…そうだな」

動物、食事、お笑いのように誰もが好きだ。

そう思えるようなものの1つに自然ってのがある気がする。もちろん、虫とか花粉は嫌だ。

でも山の空気は透き通ってて気分がいいって思える。のは俺の思い込みだろうか?

(クルークハイト)「…」

彼は持ってきた袋の中から何かを取り出そうとしてる。

(エンプティ)「何してるんだ?」

俺は袋の中を覗き込む。

だけど少しだけ後悔するのだった。

(クルークハイト)「虫…」

彼の手には網が握られていた。

(エンプティ)「おいおい、まさか…」

俺はぞっとする。

(クルークハイト)「採ろう、虫」

彼の目が透き通った水のように輝く。

その純粋な眼差しに対して、俺はやりたくない。

そんなことは言えなかった。

(エンプティ)「あぁ…やろうか…虫取り」

俺の表情は誰かに盗まれたみたいに、

無表情だったに違いない。

(クルークハイト)「うん!」

それとは逆に、クルークハイトは長屋の隣に住んでる顔は見えないが幸せそうな家族の一員である誰かの笑い声が聞こえてくるような顔をしていた。

(エンプティ)「あんまり、はしゃぐなよ」

(クルークハイト)「分かってるって」

そうは言うが…木の上に行くのは心配だ。

不思議なものだ。

子供のころは木の上に行くと世界を見渡せる気がした。今ではネットの地図を見ればそう感じるが。

あの頃と比べて感受性が減ったような寂しさが俺の中にある。だけどクルークハイトは、自然を楽しんでいて、見た目こそ大人だが子供のような感受性を持ってる人間だと俺の中で思えた。

それはきっと、俺にはないもので、それはとても美しいものだ。

(エンプティ)「気をつけろよ」

(クルークハイト)「分かってる…おわっ」

木の上で両手を振って挨拶を向ける。

でも転びそうになる。

(エンプティ)「大丈夫なのか?」

落ちたら受け止められる?

高いから怪我は…覚悟するしかないか。

(クルークハイト)「あっ」

彼は何かを見つけたようだ。

そして、木をすっと降りてくる。

その動きは慣れたもので不安を感じるよりも早く、

地面に降り立った。

(エンプティ)「何か見つけたのか?」

(クルークハイト)「カッコいいだろ?」

彼の手に握られていたのは、

カブトムシだった。

ボディの部分は珍しくもなんともないが、

角の部分が変わっていた。

通常はYの形をしてるが、これはXの形だった。

(エンプティ)「カッコいいと思う」

実際はそこまで別にって感じだ。

虫はそこまで好きじゃない。

部屋に居たら放置することが多いし、

あまりにも作業の邪魔になるようだったら、

殺虫剤を使うし。

でも、彼の目の輝きを奪わせるのは、

あまりにも忍びないな。

そう思っての言葉だ。

(クルークハイト)「そう思う?」

彼は楽しそうだった。

顔を少し赤くして照れながらも、

自分の身内が褒められたみたいに微笑む。

頭を傾けて、ぽりぽりと頭をかく。

それが、なんだか幸せそうだ。

(エンプティ)「俺は休んでるから、探してきたらどうだ?」

虫取りに興味ない俺は、

すぐにサボることを考える。

近くにある丸太を枕代わりに少し横になる。

服に泥がつくが、気にしないことに決めた。

(クルークハイト)「分かった、それじゃあね」

彼の足取りは空に浮いてる時間の方が長いのではと錯覚するほど浮足立っていた。

そうして森の中へと消えて行った。

(エンプティ)「…んっ」

俺はいつの間にか寝ていたようだった。

空はもう太陽が赤くなってる。

夕方だろうと思う。

スマホを見なくてもカラスの鳴き声が教える。

辺りを見渡すと、クルークハイトは居ない。

(エンプティ)「あいつ…まだ」

俺はスマホに手を伸ばし通話をかける。

(クルークハイト)「あ、エンプティ?」

彼はすぐに出てくれた。

(エンプティ)「もう、遅くなってきたから帰ろう」寝ていただけなので、疲れたとかではないが、

このまま山の中で夜を過ごすのは危険だ。

(クルークハイト)「まだ1時間しかたってないよ」まだ遊び足りないといった雰囲気だ。

(エンプティ)「なに、そんな馬鹿な」

スマホを確認すると10時間は経っていた。

俺はクルークハイトの勘違いに呆れる。

(クルークハイト)「ね、そうでしょ?」

自分は一切間違ってないって感じだ。

(エンプティ)「よく見ろ、10時間だ。

0が1つ足りないぞ」

俺はため息をつきながら話す。

(クルークハイト)「あ…忘れてた…つい夢中で」

スマホ越しからでも分かる。

申し訳なさそうな感じだった。

(エンプティ)「別に怒ってない、早く帰ろう」

(クルークハイト)「うん、わかった」

俺は彼の帰りを待ち、そして再会してから家に帰るのだった。




翌日のことだった。

俺は研究に参加することになり、

オーフルの手伝いをすることにした。

研究所にて。

時間帯は朝だ、窓も締め切って、

風もない密閉空間。

真っ白な研究室で、

俺はあるものに触れることになる。

(オーフル)「見えるか、エンプティ」

オーフルの手には緑色の怪しく輝く宝石のようなものがあった。

(エンプティ)「これが…ノヴァ」

以前は見るだけで触れることが許されなかった。

でも、大人になってようやく俺は触れることが出来る。そのことが自分が成長したかのように思えて、嬉しい気分だった。

(オーフル)「分かるか、エンプティ。これはな危険なものなんだ。まだ未知のもので何がどう起こるかが分からない」

オーフルは手袋をはめて、ゆっくりと机に置く。

その扱いはまるで歴史的絵画だ。

(エンプティ)「分かってるさ、オーフル」

実際の所、俺は分かっちゃいない。

それよりも早く研究をさせてくれという思いが先に出て好奇心が抑えられなかった。

(オーフル)「繰り返し言うようだが…これは危険かもしれないんだ…丁重に扱えよ」

口調こそ穏やかだが、目は俺のことを睨んでる。

俺のことを信用してないじゃないのか?

だから、念押しするんだ。

(エンプティ)「分かってるよ、心配するな」

俺は相手の不安を払うように自身たっぷりに。

(オーフル)「私は別の用事がある、だから任せたぞ」

(エンプティ)「あぁ」

オーフルが消えて、俺は自由にできると思った。

(クルークハイト)「だけど、大丈夫なのか。自分たちだけで…」

クルークハイトは心配そうだった。

(エンプティ)「大丈夫さ、オーフルもびっくりするようなことしてやろうぜ」

俺はクルークハイトに向かってにこっと笑う。

(クルークハイト)「うん…」

完全に安心したとは言い難い返事だった。

それでも俺は実験推し進める。

結果が、とにかく今すぐにでも結果が欲しかった。

俺は認めてほしかったのだ。

オーフルに、俺はもう一人前なのだと。

そのことが心の片隅にずっとあって、それで、実験を早く行いたい思いが強くあった。

(エンプティ)「それじゃ、実験始める。光線解析」

俺は机の上にあるノヴァ鉱石に機械を使って光を当てる。

(クルークハイト)「はい」

クルークハイトは近くでノートにメモする。

これが何の実験なのか、そして光を当てることでどんな結果がもたらされるのかを記録するために。

(エンプティ)「光の量は変わらない…いや吸収してるのか?」

光を当ててるのだから、強くなるか、それとも小さくなるのが普通のはずだ。にもかかわらず変わらないってのはもしかして吸収してる?

(クルークハイト)「そう…かも」

自信なさそうに返事する。

(エンプティ)「もっとだ、もっと光を…もしかしたら何か分かるかも」

喉を鳴らす。

それは何かが変わるかもしれない。

そういう変化を期待することを体が隠しきれてないって感覚だった。

(クルークハイト)「でも、光を強くしたら、なんか怖い」

顔がうつむきがちで、何かにおびえてる雰囲気。

(エンプティ)「何か怖い?なんか怖いってなんだよ」俺は若干の苛立ちをふくませて答える。

(クルークハイト)「分からない、でも、このまま光を当てるのは良くないことが起きるような」

クルークハイトはハッキリしたことを言わない。

(エンプティ)「大丈夫だ、俺に任せておけば…すべて…うまくいく」

俺は何の根拠もないのに、自信だけで答える。

本質的にはクルークハイトの意見と変わらない。

でも、成功したら…そんな希望が俺を突き動かす。

(クルークハイト)「危ない!」

彼は何かに気付いたようだった。

それは俺の後ろにいたから、全体を見ていたから。

でも、俺はノヴァの輝きに見惚れていて気付くのが遅れた。

(エンプティ)「はっ?」

爆発音。

閃光と共に激しい高温が襲い掛かる。

それは真っ白な研究室が、

一瞬で灰色に変わるほどに。

(クルークハイト)「エンプティ!」

(エンプティ)「ぐあああっ」

俺はちょうど、クルークハイトの盾になるような形で爆発事故に巻き込まれた。

別に狙った訳じゃないが、でも、そっちの方が気が楽だった。俺のミスで爆発したのに、クルークハイトを怪我させなくて本当に良かった。

(クルークハイト)「顔が…顔が!」

爆発で吹き飛んだ影響で、背中が痛い。

いや、それ以上に顔があるのか?

手で触って確認する。

以前あったものなのに今は無いような、

そんな空虚を感じさせる嫌な感覚。

(エンプティ)「俺は…一体」

この熱さをどうにかしたい。

そんな思いで、俺はトイレに向かう。

洗面所に行けば…顔を水で洗って冷やしたい。

(クルークハイト)「動いたらダメだ」

必死に聞こえる切ない声。

そんな声に耳を傾ける余裕は俺にはなく、

今すぐにでもこの熱さをどうにかしたかった。

そして洗面所で顔を洗おうと鏡を見た時だった。

(エンプティ)「うわあああああっ」

真っ赤に染まった俺の顔。

肉はただれ、歯はむき出し。

かろうじて、爆発の時にまぶたをとじたからか。

目は奇跡的にダメージが少ない。

でも、顔のダメージが本当にひどかった。

これでは恋人を作るのなんて無理だ。

人体模型の顔と誰が付き合いたいだなんて思うだろうか?

(クルークハイト)「い、医者を」

クルークハイトは至極当然のことをしようとする。

だが、俺はそれを肩を掴んで止める。

(エンプティ)「い、く、な」

喉が焼けて痛いけれど、頑張って声を出す。

(クルークハイト)「だけど」

彼の目は必死で、俺のことを助けたい。

そんな純粋さを感じたから少し心苦しいが、

伝えなくてはいけない。

(エンプティ)「めい…わく…かけたく…ない」

俺は拾われた人間だ。

それはつまり、保証がないってことだ。

そういう人間が医者に厄介になると、

金が高額になる…それは…困る。

オーフルに…迷惑なガキだって思われたくない。

(クルークハイト)「迷惑?迷惑ってなんだよ!」

(エンプティ)「…」

俺はそのまま意識を失った。

言いたいことは言ったって満足感と、

火傷による痛みが俺の意識を奪ったのだ。

ったく…馬鹿だよな俺ってばさ。

結果を焦るから…こうなるんだ。




時計を見ると日付が変わっていた。

目覚めると、俺は何日も寝ていた。

そのことに気付かされる。

(エンプティ)「はぁあああっ」

俺はベットから飛び起きる。

(クルークハイト)「エンプティ…」

傍には彼が居た。

心配そうに見つめるまなざしは優しげだった。

(エンプティ)「俺は…一体」

顔に触れると、何かが巻かれてることに気付く。

(クルークハイト)「病院に…本当は行くべきだろう…でも君は拒絶したから…出来る限りの治療は施させてもらった」

(エンプティ)「ここは…」

俺はベットだと思っていたが、

そこはカプセルの中だった。

窓のない狭い部屋だった。

青い透明なケースの中で、その中ではAiが稼働してる。医者不足のこの世界において、代行としてAIが仕事の何割かを担ってる。医者に診てもらった方が確実なんだろうが、俺が金がないという話をしたから治療ポットの中に入れて治療してくれたのだろう。にしても、ここまで運ぶのは大変だったろうに…クルークハイトには頭が下がる思いだ。

(クルークハイト)「オーフルがとても心配してたよ、何度も顔を見に来てくれた、でも、君はその度に顔をあげずに…寝たままだった…だけど目を覚ましたからきっと顔を見たらとても喜ぶはずだ」

顔が少し腫れていて、涙を流したのだと分かった。

そのことが俺には嬉しい思いがある。

心配してくれたんだと分かったから。

(エンプティ)「クルークハイト…お前はずっと…俺の傍に」

胸の中に溢れる暖かいものが止まらない。

俺はきっと…愛されてる。

抱きしめて、俺は無事だ、そう伝えたかった。

だからカプセルから出ようとする。

(クルークハイト)「まだ出たらだめだ」

(エンプティ)「平気だ、3日も寝ていたんだ。遅れを取り戻さなければ…体は結構…いい感じだしな」

むしろ前よりも体は軽い気がした。

草原の中で走り回りたい、そんな爽快感が俺の中にはあった。だけど…。

(クルークハイト)「なんて言ったらいいのか」

彼は喉が締め付けられたかのような顔をする。

それは何故かとても、辛そうに。

俺が目覚めたのが間違いだったのか?

そんなことを思ってしまう。

(エンプティ)「何が言いたい?」

知らなければ、俺はそれを聞かなければ前に進めない。だから知る必要がある。だから尋ねたんだ。

でも、それは俺にとってはとてもショックな出来事だった。

(クルークハイト)「君の顔は…その…人間のそれとは違うものになった」

その言葉はとても気分のいいものじゃない。

(エンプティ)「なに?」

一瞬、何が起きたのか分からない。

時間が静止したかのような感覚。

(クルークハイト)「これを」

彼が鏡を持ってくる。

カプセル越しではあるが、俺の顔が分かる。

(エンプティ)「はは…なるほどな」

渇いた笑みが出てくる。

それもそのはずだ。

ホラー映画のキャラならば100点だろう。

だけど人間ならば20点の顔。

包帯がぐるぐる巻きで本当にひどい。

俺じゃないみたいだ。

でも、それは真実で、疑いようのない事実。

だからこそ、俺の心を深くえぐる。

(クルークハイト)「火傷が…酷くて…医者にいけばもしかしたら変わったかもしれないが…でも…君は拒否して…ああ…でもこれは言い訳にしか聞こえないや…すまない」

彼はとても申し訳なさそうにしていた。

でも、これは俺が選んだ真実。

やってしまって取り戻すことのできない後悔の刻印。怪我してすぐに病院に行けば元の顔に戻してくれたかもしれない。でも、時間が経過し、傷が自動で治癒される…つまりは人間の持つ自然回復能力を使用した場合は、そのものの傷を治すという感じではなく、表面の傷を治す、もっと言えば傷さえ治せば人間の肉体はそれが正しいと思い行動する。なぜならば、生きることに比べれば見た目など些細なことなのだ。

だけどそれは細胞での話。

人間社会においては異形の顔は恐れられるか、迫害を受けるかのどっちかだろう。

俺は選びたくなかったが…その選択をしてしまった…ということなんだろう。

(エンプティ)「俺の顔は…そんなに酷いのか?」

俺は出来る限り、暗い声ではなく明るい声で言ったつもりだ。でも相手がそう受け取るかは分からないけどな。

(クルークハイト)「あぁ…えっと…」

彼はとても言葉に迷ってる様子だった。

その仕草だけでも、真実が分かったよ。

(エンプティ)「俺は…怪物か」

人並みの生活は難しいかもしれないな。

でも、いいさ。

頭が悪いからなのか、

不思議と未来への悲観は無かった。

顔は醜悪そのものだが、

研究は続けられるからな。

運が良いと言っていいのか、

手足は動くからな、夢を諦めるフェーズではない。

そう…信じたい。

ノヴァの研究は夢だから。

爆発事故で少し恐怖があるが、

諦める気は無かった。

(クルークハイト)「エンプティ…話は変わるんだが聞いてほしいことがある」

彼は真面目そうに尋ねてくる。

(エンプティ)「どうした?」

何だか聞いてほしそうだったので、

俺は耳を傾ける。

(クルークハイト)「仮面には…興味ないか?」

彼が突然、変なことを言い始める。

(エンプティ)「仮面って、俺は踊りは興味ないぞ。ワイングラスを持って舞踏会に参加するほど高尚な人間でもないからな」

(クルークハイト)「そうじゃない、顔を隠すためだ」

彼が一番伝えたかったことをようやく聞けた。

そうか、それを伝えたかったんだな。

(エンプティ)「いいね、興味ある」

新しい顔か、俺は昔の俺とは違うってことか。

これもある意味で、大人になるってことかな。

(クルークハイト)「君がそう言ってくれて嬉しいよ。それじゃあ友達のガロウズに会いに行こう。きっと素晴らしい仮面を作ってくれる」

(エンプティ)「分かった楽しみにしてる」

(クルークハイト)「それじゃ行ってくるよ」

彼が部屋から出ようとする。

(エンプティ)「おいおい、何処に行くんだ」

俺はそれを声で静止する。

(クルークハイト)「でも、君は動けないんじゃ」

彼は恐る恐る尋ねる。

(エンプティ)「顔が使い物にならないだけだ、体は問題ないさ」

俺はカプセルのスイッチを押して脱出する。

顔がひしゃげてるからなんだっていうのか。

身体は問題ないのだ、俺の仮面だ。

俺が何か言わないとダメだろう。

(クルークハイト)「本当にいいのか?」

最後のダメ出しとばかりに尋ねてくる。

(エンプティ)「あぁ」

それに対して俺は自信をもって答える。

(クルークハイト)「エンプティがそこまで言うなら…」

彼は俺の押しに負けて連れてってくれるそうだ。

俺の新しい顔、果たしてどんなものだろうか。

少しワクワクするのだった。



クルークハイトに連れてこられて驚く。

(エンプティ)「これは…すごいな」

それは一言で伝えるならば、城。

そう思えた。

天高く空に伸びていくビル。

その前を通りかかれば、

誰もが一生仕事しても住むのは無理だ。

そんな愚痴を漏らすほど、

これは高級な住宅だと思えた。

タワーマンション。

それが、ガロウズの住んでる場所だった。

(クルークハイト)「その…行く前に伝えることが」

クルークハイトはもじもじする。

口に手を当てて言葉を出すのを躊躇する。

(エンプティ)「どうしたんだ?」

俺は気になって尋ねる。

(クルークハイト)「彼女は良い人だ、それは間違えないんだけど…」

(エンプティ)「だけど?」

(クルークハイト)「強烈な人だから、驚かないでほしい」

(エンプティ)「…」

俺はごくりと唾を飲む。

クルークハイトに強烈だと思わせる人物。

一体どんな存在なのか。

(クルークハイト)「まずは受付に行こう」

(エンプティ)「分かった」

俺たちはそうしてタワーマンションの中に入る。

3つ星ホテルを彷彿とさせるエントランス。

大理石をふんだんに使い、金をかけてもいいから、

豪華にしてくれと大盤振る舞いしたような雰囲気だった。

(受付の男性)「いらっしゃいませ、ご用件は?」

さすがはタワーマンションの受付。

礼儀がなってると思う。

頭を下げて出迎えるなんて、普通じゃありえない。

俺の顔が包帯で巻かれてることに嫌な顔をせずに、

普通の人と変わらないように接する。

(クルークハイト)「友人に会い来たんだ、503号室のガロウズという女性に」

(受付の男性)「ガロウズ様に…?」

男性は少し怯えたような雰囲気だ。

おいおい…なにしたんだ。

ガロウズって女は?

(クルークハイト)「繋いでほしいんだが」

柔らかく、丁寧に接する。

(受付の男性)「かしこまりました」

すると、備え付けてある固定電話で電話する。

スマホじゃなくて、おそらくタワーマンション専用の回線なんだろうなって思った。

スマホでもダメじゃないが盗聴の可能性もあるからな。専用の回線なら難しいだろうし。

(クルークハイト)「…」

テーブルを指でこつこつと叩く。

別にあいつは苛立ってる訳じゃなく、

退屈だからそうしてるのだろう。

(受付の男性)「ガロウズ様がお待ちになってるようです」

(クルークハイト)「ありがとう」

そう言って、中へと通してくれた。

エレベーターを昇って5階へと移動する。

(エンプティ)「手土産とかないが、平気か?」

今更になって俺は不安に思う。

(クルークハイト)「大丈夫だよ、そういうので怒る人じゃない」

ぱっと噴水が湧き出たように笑う。

その顔が友人に会うそれだ。

悪い奴じゃないんだな。

(エンプティ)「そうか、ならいい」

強烈な人物で、受付の男性を怯えさせた女。

果たしてどんなやつなのか。

(クルークハイト)「エレベーター止まったみたい」

(エンプティ)「分かった」

俺たちは5階へと降り立つ。

なので、

ガロウズが住んでるであろう扉の前に移動する。

そして、

チャイムを鳴らす。

(クルークハイト)「ガロウズ、自分だ。

クルークハイトだ」

チャイムに口を近づけて音を漏らさないように喋る。

(ガロウズ)「入れば?」

短く、冷たく、端的に伝える。

少し恐怖を感じる。

そこに、がちゃっと扉の鍵が開いた音がする。

(エンプティ)「邪魔するぜ」

俺はクルークハイトと共に部屋へと入っていく。

すると光がついてる部屋があるので、

おそらくここに居るのだろうと思って開ける。

(ガロウズ)「ようこそ、私がスプレンディド・ガロウズよ」

部屋の奥には巨大なドクロのペナント。

髪はピンクベージュ。

服はハイブランドのドレスだと思えた。

右目には眼帯をしており、女船長と思わせる。

プロジェクションマッピングなのか、

部屋の中は海に見えた。

いや、船の上といった方が正確だろうか。

そして、彼女の下にはぐるぐる巻きにされた男性が居るのだった。

ガロウズはその男を踏み台に立ってる。

強烈ってのはマジだなと思った。

(踏み台にされてる男)「あぁ~♡」

何だか楽しそうに悶えてる。

(ガロウズ)「客が来たんだ、帰りな」

それは明らかに上位者の言葉だった。

(踏み台にされてる男)「はい~♡」

男はぐるぐる巻きにされてるので、

転がりながら部屋の外に出ていくのだった。

(ガロウズ)「友人がこうして訪ねてくるのは、

とても幸せなことだ。歓迎するよ、クルークハイト」

そう言ってガロウズはクルークハイトを抱きしめる。

(クルークハイト)「自分もだ、会えてうれしい」

2人は抱きしめあう。

(ガロウズ)「君は私との約束をつい、忘れることがあるからね。何度もお願いしないと来ないのが難点だ」

呆れた声を出すガロウズ。

(クルークハイト)「痛いところをつくなぁ」

はははと笑う、それは友人同士の軽口に思えた。

(エンプティ)「なるほど、これがガロウズ」

もしも、今が中世のヨーロッパならば、

彼女は女船長をやってただろうなって思う。

そんな人物だった。

(ガロウズ)「君が…エンプティだね」

俺の顔を見る、それは何処か品定めするような感じだ。居心地が悪いが、初対面なのだから、

仕方ないのかもしれない。

(エンプティ)「見てわかると思うが顔が包帯で巻かれてる。あんたが仮面を作ってくれるって話を聞いたんだが」

俺は当初の目的を伝える。

(ガロウズ)「確かにひどい顔だ」

ずばっと本質を告げる。

(クルークハイト)「が、ガロウズ!?」

まさか、そんなにはっきり言うとは思えず驚いてる。

(エンプティ)「あんたの言うとおりだ。俺の顔は酷い…だから仮面を被ると上手く人生を生きれると思うんだが」

変に顔に触れられないよりも、

こうしてズバっと言われた方が俺は嬉しい。

(ガロウズ)「君は…前向きなんだな。

それは尊敬に値する部分だよ…エンプティ」

ガロウズはにこっと微笑む。

その顔は横でバラが咲いたように見えた。

(エンプティ)「そう言ってくれると嬉しいよ」

俺も負けじとにこっと返す。

包帯の上からだから、不気味かもしれないが、

思いは伝わるだろう。

(ガロウズ)「部屋にきたまえ、仕事部屋がある」

そう言ってガロウズは自室へと案内してくれた。

パチッと部屋のスイッチを入れる。

すると、部屋の全体像が見える。

(エンプティ)「これは…」

その部屋は、俺の顔よりもホラーに思えた。

というのも、無数に爪が並べられてたからだ。

どれも色違いで、同じものはなく、

形も、デザインも違った。

(ガロウズ)「人を殺して集めてるんだよ、爪をね」

冷え切った眼差しで、残酷に告げる。

それは殺し屋の目をしていた。

(エンプティ)「本当…なのか?」

それならばこの無数の爪もうなづける。

全て、被害者の…爪なのか?

(クルークハイト)「たちの悪い冗談はやめてくれ」

近くに居たクルークハイトはため息を漏らす。

(ガロウズ)「あっはっは、驚いたかい?」

我慢できずに腹を抱えて笑いだすガロウズ。

(エンプティ)「なに?」

俺はついていけずにいた。

何が何だかさっぱりだ。

(クルークハイト)「彼女はネイリストなんだ、それはいわゆる彼女の作品ってこと」

やれやれって感じで説明する。

(エンプティ)「ったく、性質の悪い冗談だ」

俺は胸をなでおろし、安心した。

一瞬だけマジに殺し屋かと思ったからだ。

(ガロウズ)「くくく…君のマジの顔面白かったぞ」

ガロウズは無邪気な子供のように笑う。

(エンプティ)「こういう人物ね」

なんとなくだが人の上に立とうとする人間だってのは伝わってきた気がした。




(ガロウズ)「君が来た目的はこれだろう?」仮面を片手に持ってる。

それはイタリアの、

ヴェネチアンマスクのような見た目だった。

目を覆うだけではなく顔全体を隠す感じの。

(エンプティ)「あぁ、それだ」

ガロウズがネイリストだから、仮面と関係ないのではと不安だったが杞憂だったな。

(ガロウズ)「ネイルも仮面も本質的には変わりはしない、結局のところはデザインで、センスが問われるからな、そして、私にはそのセンスがある」

自信たっぷりだ。

だが、その自信は決して紛い物ではない。

後ろにある大量の爪が、教えてくれる。

(エンプティ)「君なら出来ると信じれる」

俺は心の底からそう思えた。

才能があるのは嘘ではないのだから。

(ガロウズ)「さて、希望はあるか?派手に宝石を沢山つけるのか、女にモテる格好いい感じがいいのか、それとも奇抜でオリジナリティに溢れてるのがいいのか」

(エンプティ)「地味でいい、オリジナリティよりも…なんていうか世界に溶け込めるデザインが良い」

(ガロウズ)「分かった、君の意見を尊重しようエンプティ、出来上がるまで家で休んでるといいさ。冷蔵庫のオレンジジュースやら、ケーキを勝手に食べてもらっても構わない」両手を広げて大盤振る舞いって感じだ。

(エンプティ)「そうか、ありがとう」

俺は頭を下げる思いでいっぱいだった。

仮面を作ってもらうだけではなく、

そうして歓迎してくれるんだからな。

(ガロウズ)「賞味期限が切れてるかもしれないが、まぁ、味は問題ないだろう」

彼女はけらけらと笑う。

(エンプティ)「腹は下したくないな」

俺は苦笑するのだった。




俺とクルークハイトはソファーで休んでいた。そして、数時間が経った頃だった。

ガロウズが部屋に入ってくる。

(クルークハイト)「あれ、何で来たんだっけ?」

ぼけっとした顔をしてる。

(エンプティ)「俺の仮面をデザインしに来たんだろう、ったく、忘れっぽいんだから」

俺は呆れる。

(クルークハイト)「そういえばそうだったな、ソファーで休んでたら自分がただ遊びに来ただけだと勘違いしてたよ」

(エンプティ)「そんなわけないだろう、ったく」

俺は頭をかくのだった。

(ガロウズ)「さぁ、これが待ちに待った君の新しい顔だ」

それは奇抜過ぎず、世界に溶け込めるようなデザインだと俺は思えた。

仮面は特出して何かが飛び出るという訳ではなく、本当に普通の仮面だ。

でも、何処かオリジナリティがあって、

この顔は俺であり、世界の誰とも被らない。

そんな風に思えた。

(エンプティ)「被っても?」

俺はドキドキしながら訪ねる。

恋人にキスを要求してるかのように。

(ガロウズ)「構わないよ」

手をさっと差し出す。

俺はそれを受け取り、仮面を自分の顔にはめる。1人暮らしをした時に、初めて自分だけのカギを受け取った時のように、それはぴったりハマるのだった。

(エンプティ)「どうだろうか、似合ってるだろうか?」

不安も勿論ある、だけどそれ以上に新しい顔が嬉しさを上回ってて不安が見えなくなるほどだった。この時に気付く、自分では些細だと思っていたが、やはり心の奥では火傷で顔が傷だらけになったのが辛かったのだと気づいたのだった。

(クルークハイト)「似合ってるよ、昔の君の顔が思い出せないぐらいね」

彼は饒舌に、ホットに喋る。

(ガロウズ)「そうだろうとも、私がデザインしたんだ。似合わない、は、ありえない…だ!」

ガロウズは自分の両肩を指先で触れる。

(エンプティ)「鏡は…鏡は何処だ!?」

俺はきょろきょろと見渡す。

(ガロウズ)「あわてるな、ほら」

鏡をさっと出してくれる。

(エンプティ)「これが…俺」

新しく生まれ変わった自分が素敵な紳士に見える。もしもオペラを歌ったのならば、何も恥ずかしくない思いで劇場に立てるって思えるほど仮面は素晴らしいものだった。

(ガロウズ)「分かるよ、気に入ってくれたんだね」

肩をぽんと叩かれる。

その瞬間、心の回線がつながって心地よい電流が流れた気がした。

(エンプティ)「あぁ、とてもね」

俺は感謝の思いでいっぱいだった。

それは整形に成功して、

医者に感謝するよな?

そんな感じだ。

ここに連れてきてくれたクルークハイト。

そして、デザインしてくれたガロウズ。

本当にありがとうと思うのだった。

話は変わって、ふと外を見る。

すると、夜空になってることに気付いた。

(ガロウズ)「もう、夜だけどどうする?

私としては泊まってもらっても構わないが」

手を差し出してくれる。

(エンプティ)「いや、遠慮しておくよ」

俺はせっかくの誘いだが断る。

まだ会って間もないし、悪いなと思ったのだ。

(ガロウズ)「そうか、残念だ。一晩語り明かしても良いのだが」

肩をすくめて、苦笑する。

(エンプティ)「機会があれば、いずれ」

悪い女性ではない、泊まって語り明かすのも、

楽しいかもしれないな。

(クルークハイト)「じゃあな、今度は土産を持ってくるさ」

手を振る。

(ガロウズ)「君はそう言って多分、忘れるよ」

苦笑していた。

(クルークハイト)「そんなことない…いや何回かあるな」

短い抵抗だった。

(エンプティ)「あははははは」

俺は笑って今日という1日を終えたのだった。





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