第7章 螺旋からの跳躍
ある夜、一つの個体が自らを弾き出す決意をした。螺旋の流れから跳び、外側へ手を伸ばした。跳躍は痛みを伴う。流れに馴れた肉はちぎれ、内にあった影の断片が風に舞った。しかし跳躍した者は生き残った。そしてその者から、新しい世界の種が落ちた。
跳躍した者は、螺旋の囚われから少し自由になった。彼が作る世界はこれまでの循環とは異なる規則を持ち置き、争いも喜びも新たな色を呈した。跳躍は決して完全な断絶ではなかった。
残されたものたちは、その空洞に耳を傾け、失われたものの痕跡を追いかけた。
螺旋の流れは、一瞬だけ静まり、世界の呼吸が止まったように感じられた。
やがて、跳躍した者が残した欠片が、風に乗って落ちていった。
欠片は土に触れ、水に溶け、空気に混ざり、光を孕んだ。
そして、誰も知らない場所で小さな芽が生まれた。
その芽は、螺旋の外側に根を張った。
そこでは、混ざりあいも固定も、かつての意味を持たなかった。
記憶は流れず、しかし腐敗もせず、静かなまま輝いていた。
その世界では、「変わらないこと」が祝福であり、「忘れられること」が救いだった。
跳躍した者は、その新しい世界の最初の影となった。
姿も名もなかったが、その存在だけが風を揺らし、光を導いた。
螺旋の外で生まれたその風景は、どこか懐かしく、それでいて誰の記憶にもないものだった。




