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第5章 固まる瞬間、ほどける瞬間
ある瞬間、ひとりの存在が自らを固めた。彼あるいは彼女は、自分の輪郭を抑え、他の波に飲まれないよう留まろうとした。固定された自分は異様なほどに鮮やかで、人々の目を惹いた。固定は強さを与えるが、同時に狙われやすくする。混ざり合いの世界において、独立は羨望であり驚異でもあった。
固定された存在は、短い間だけど深く他を覚えていた。だがそれは永遠ではない。やがてまた波が来て、境界は崩れ、固められた自分はほどけていく。ほどけることは喪失であり解放でもある。めぐりめぐる螺旋の中では、固定と混ざりの往復が世界の呼吸となっている。




