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第2章 影を食べる者たち
この世界の多くは影を食べることを知っている。影はただの影ではない。声の残骸、触れられた想い、忘却の余白――影とは、過ぎ去ったものの匂いを濃縮したようなものだ。食べるという行為は奪うことではなく、継承することだった。口にした者は消えたものの断片を胸に刻み、新しい影を纏って歩く。
人々は影を食べることで記憶を取り込み、夜に明かりを失わない。影を食べるという習俗は、やがて芸術となり、宗教となり、日常の礼儀となった。影を食べては新しい影を吐き出し、その影はまた誰かに食べられる。螺旋は小さな輪を重ねながら続いていった。
だが、すべてがやさしいわけではない。影を食べる者は、取り込んだ影の重さに押し潰されることもある。吸収は変化であり、変化は消失を伴う。だから、影を食べることを躊躇う者、影を拒んで歩く者もいた。




