出会い
第一話 出会い
うだるような暑い夏の日、僕は坂を上って家に帰ろうとしていた。
制服が肌に張り付いてきて気持ちが悪い。垂れてくる汗を手で拭い、道路にぺっと振り払った。
夏休みといえど、部活のせいで制服を着て週5で中学校に登校しなければいけない。どこが休みなんだよ、と毎日ぶつぶついいながらも真面目に部活にいっている。
家に帰ったら母さんが宿題の事を聞いてくるんだろうな。こんな暑さじゃやる気も出ず、提出まであと2週間ほどしかないのに全く進んでいない。家に帰るのも憂うつになってしまう。
勘弁してくれよ。家にいる時ぐらいゆっくりしたいんだよ。
もう少しで大会というのもあり、部活の雰囲気はぴりぴりしていた。毎日毎日走り込みと基礎練ばかりで、モチベーションも上がらない。おまけに後輩は態度が悪く、精神的にも参っていた。
ぼーっと歩いていると、いつの間にかかなり坂を上っていたようだ。やべ、家の方向じゃない。
僕の家は坂の上にたっているのだが、入り組んでいるうえに分かりにくい。引っ越してきてもう1年たつ今でも、全く土地を把握できていないのだ。
さすがに帰り方は分かるが、しばらく散策してみたいという気持ちになった。もう午後4時くらいなのに、昼間と変わらず暑かった。
家に帰ってもどうせ怒られるだけだ。汗で気持ち悪いけれど、あと1時間ぐらいはのんびり散歩でもしてみようか。
そう思い、少し坂を上ってみた時に、ふと古びた建物が目に入った。茶色く重そうな扉に、風鈴が付いている。見た感じ何かのお店っぽいが、普通の一軒家に見えなくもない。扉の前には2,3個ほど植木鉢が置かれていて、扉にぶら下がっている小さな看板らしきものに「welcome」と書かれている。
怪しいと思ったが、他の一軒家と比べてどこか涼しげな印象があり、かなり喉も乾いていたので入って中を見たくなった。
怪しい人が出てきたらすぐに逃げよう。スマホでお母さんを呼ぶことだってできる。
少しジュースとか飲めたらいいな。そのくらいの軽い気持ちで、扉を開けてみた。
ぎいっと音がして扉があく。意外にも、そこまで重くなかった。中に入った瞬間、ぶわっと冷たい風が襲ってきた。気持ちいい…!!!汗が一瞬で乾いていくのを感じる。
そして、同時に変な匂いもした。これは、もしかして本の匂い?
その時、奥の椅子に座っていた人が僕の方をゆっくりと振り返った。
透き通るような白い肌に、長いストレートの黒髪が良く似合う。赤いリップとほんのり紅潮した頬が、僕にあどけない印象を与えた。グレーっぽい瞳と長いまつげ、その端正な顔立ちから、ハーフっぽいなと思った。
僕の方を見て、最初は少し驚いたような表情を見せたが、すぐににっこりと笑いかけてくれた。
「いらっしゃい」
それが、小さな古本屋を営むお姉さん、麗歩さんとの出会いだった。




