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「縁(えにし)」

「じゃあ当分ゴーグルは没収だから。返して欲しいならバイトでもして金返せ。」

 

「はじめ、お前馬鹿すぎるだろ。オヤジもババアもキレてうるせーし。俺のゴーグルも没収されたらどうすんの?賞金は俺が貰うから。」

 

 昨日の僕たちの最速帰宅作戦は完璧のはずだった。学校のクソどうでもいい授業を終え、敵を始末し、そして果てしない空と海、エーゼロの世界へ。最後には僕がトーナメントで一番になる。完璧な作戦のはずだった。

 それなのにとんでもないことになってしまった。こんな面倒事になってしまうなんて。僕は何も悪くないはずなのに何故こんなことに…。戻せるなら時間を戻したい。


 昨日僕たちがエーゼロを楽しんでいる中、試合中に親からコールがかかりまくってきた。やっと敵主力艦の最深部に入れたときだったのに、Personal Personality Assistant(フェアリー)がうるさく僕を呼びまくる。


「イッチ、大変だよ!ご両親がすごく怒ってるよ!今すぐ覚醒して!」


 フェアリーが僕の視界を飛び回る。敵の射線予想が見えなくなる。突入まであと10カウント。

  

「えぇ何!?今それどころじゃないの!」


 母親はいつもしょうもない理由で僕を起こそうとする。風呂を洗えとか買い物行けとか。どうせ今回もしょうもない理由だろう。そんなことでこの熱い試合を台無しにはさせない。

 

「今すぐ起きて!」

「だからさぁ!!!」


 僕がフェアリーの通知機能を切ろうとメニューを出した瞬間、父親の怒鳴り声と共に、強制覚醒アラートが出る。


「はじめ!!!とっとと起きろお前!」

 

 僕は覚醒もできずに、無理やりゴーグルを外され、夢から覚めた。何が起こっているのか全く理解できない。


「ええあ!!!何何!?」

 

 すると部屋に親が入ってきてる。父さんも母さんもすごく怒ってる。


「何!?何!?」

「何じゃないわよ!さっき学校から電話があって、あんた学校のロボット壊したんだって?」

 

「あっ…」


 ロボット、壊れたと言う単語を聞いた瞬間、僕はやらかしたと思った。いや、やらかしたと言うよりもとてつもない面倒事になったと思った。あのクソゴミロボットを始末した件について、教員が怒って親にチクったらしい。これは非常にだるいことになった。僕は何とか罰を軽くしようと弁明を試みる。


「あー…、もしかすると壊れちゃったのかも知れない…。」

「ふざけんな!お前と友達でやってるのを女の子が見てたって証言があるって言われたんだよ。弁償どうすんのこれ?」

「…」


 目撃者のせいで僕は言い逃れが完全にできない状況を悟ると、すぐさま、もう余計な発言は何もしない方が良いだろうと判断し、ずっと黙っていく作戦に切り替えた。

 僕にとっての最悪はオービタルを没収されることだ。ゴミクソロボットの弁償は僕のお小遣いを使ってしまうのは仕方ないとして、オービタル使用禁止だけは何としても防がないといけない。僕の知性と真価が試されている。


「ごめんなさい。」

「アンタの小遣い全部使っても弁償金額足りないから、修理はこっちが立て替えて、弁償分はお前に働いてもらって払わせるから。学校にも後で謝りに行くから。」

「…」


 僅かな貯金の没収はかなり痛い。でも思ってたよりうまい方向に話が進みそうな予感がする。どうせあんなロボット大した金額じゃないし、何とかなるだろう。

 それにやったのは僕だけじゃなくてダーヤマとしいたけもいるから、3人で罰金は分割されるはずだ。そうであってくれ。早くエーゼロに戻らせてくれ…。試合が終わってしまう。

 最悪今日の試合は諦めて、後で2人に連絡をしよう。


「じゃあ、アンタの貯金とオービタルのゴーグルも没収するから。出して。」

「ちょ、待って待って待って!」


 安堵もつかの間、僕は最大の危機を迎える。お小遣いの没収は耐えられても、オービタルの没収は耐えられない。絶対にまずい。クソみたいな現実から逃れられる唯一の道なのに、それを奪われたら僕は何を楽しみにして生きれば良いのか。絶対に阻止しなければならない。


「え、待って。何でゴーグルまで持っていくの?これは関係ないから持ってかないで!」

「いい加減にしろ!お前、オービタル使うようになってからずっと寝てばかりだろ。将来どうするつもりなんだ?お前のゴーグルは売って弁償に充てる。だから早く出せ。」


 何て暴論なんだ。僕が夢の世界を選ぶのはこの世界がクソだからいけないんであって、僕は悪くないはずだ。僕だけこんな不当な扱いを受けるのは絶対におかしい。もうなりふり構って居られない。親の服を掴んで叫ぶ。


「ストップ、ストップ、待ってください。待って、助けて。待ってください!お願いします!!!アアアアアアアアア!!!」


 僕の必死の静止も全く意味をなさず、両親はゴーグルのケーブルを無理やりブチ抜いた。電源が落ち、PCの情けない終了音がする。


「終わった…」


 強制終了でチームに大きな迷惑をかけてじった。それだけでなくエーゼロは試合放棄ユーザーへの罰が特に大きい。最悪もう大規模試合に出られなくなる。僕は全身から力が抜けた。


 親は僕の絶望を全く意に介さず、ふたりでそそくさと機械を回収し、部屋から出て行った。バタンと扉が閉まる。


「あああ!!!」


 最悪だ。あんなゴミロボットのためにこんなことになってしまった。ダーヤマとしいたけはどうなっただろうか?

 ゴーグルはもう使えないので、昔兄貴から貰った古いスマホを取り出す。まさかこんなローテクを必要とする場面が来るとは。まだ使えるだろうか?2人の古いアカウントに連絡してみると、ダーヤマから返信があった。


「こっちも親にゴーグル奪われた。最悪!」


 ダーヤマの方にも悲劇が起きたようだ。しいたけとは連絡がつかない。明日学校で聞いてみよう。


 僕がやらかした話は兄貴にめちゃくちゃ笑われて馬鹿にされた。ゴーグルを貸してと頼んだが冷たくあしらわれた。なんて薄情な兄なんだ。

 次の日は親と一緒に登校し、3人で謝ることになった。罰として毎日の追加の掃除も課されてしまった…。


「最悪だな。しゃなーい切り替えていけ。」


 しいたけだけはまだ親の温情があったのか、ゴーグルの没収は免れたが、彼一人だけではトーナメントにはもう勝てないので、僕たちの賞金獲得への道は実質ここで閉ざされてしまった…。


 もうひとつの問題も生まれてしまい、それは僕たち3人は破滅的に暇になってしまったと言うことだ。今まではゴーグルさえあればいくらでも時間は潰せた。むしろ足りないくらいだった。しかし今は学校終わりにやることが何もない。

 クソ親には進路がはっきりするまで勉強に集中しろと言われ、バイトはまだできない。できたとしても面倒なのは嫌だ。勉強なんかやる訳ない。平面のスマホゲームはできないこともないがオービタルと比べると味気なくてもう満たされない。

 僕たちは新しい遊びをどうするか、放課後にまた作戦会議をする。場所は僕たちだけが知っている廃工場の屋上だ。


「そう言えばさぁ、ヒルコ橋の所で飛び降りたやつがいるらしい。肝試し行かね?」

 

「えっ。」


 ヒルコ橋は山奥にある古い鉄道橋で、昔周辺にヤバい施設があったと言う人気スポットだ。みんな入る情報が同じなのか、定期的に話題になる。何故ヤバいのかは詳しくはわからない。ダーヤマはこう言う変なネタを仕入れるのが早い。

 僕は霊とかそう言うのにはビビらないようにしているが、最近の事故現場と言うのは少し怖い。


「いやー、どうなんだろうなぁ。他にも不良連中が集まってるかも知れないし、万一警察沙汰になるともうまずい。」

「何だイッチ、お前ビビってんのか?」

「いや、ビ、ビビってなんかないさ。言うまでもないね。」


 ビビってるかと聞かれたらビビってないと言うしかない。本心では行きたくはなかったが、オービタルも没収されたのでやることが本当にない。ただでさえ毎日つまらない学校生活に耐えているのだから、面白いことがなければ死んでしまう。


「じゃあ、次の日曜。ヒルコ橋探索な。」


 僕たちは次の日曜の夜中、ヒルコ橋に探索に行くことになった。そして僕はその場所で、あの変な女に出会うことになった。 

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