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「一一(いちはじめ)」

 オービタルが登場してから、この世界はすごく変わったと思う。いや実際は、オービタルよりも前から、AIとかアンドロイドが映画だけじゃない、現実のものになったときから、この世界は大分変わったんだろうと思う。

 僕のことを馬鹿だ何だと言う奴も沢山いる。でも僕は気がついていた。突き詰めると、この世界に人間が存在している意味なんてのは何もないんだと思う。気がついたら生まれて、気がついたら死ぬ。楽しんで、それで終わり。それでいいじゃないか。


 この世界には、生きる意味や辛い出来事に耐えられなくて自殺しちゃう人たちもいる。みんな真面目なんだと思う。真面目過ぎると思う。僕は生まれてからしばらくして、あれこれ難しいことを考えても結局わからない、意味はないんだと気がついた。この世界に何かを期待しても無駄だよ。だから考えるのを止めた。死んだらどうなるかなんて、神様がいるかなんて、僕にとっては重要じゃない。今楽しければそれで良いじゃないか。今を楽しめない奴が何故未来も心配するんだろう。

 でももしかすると僕は恵まれているのかも知れない。


 いつも通りの変わり映えのない一日の夕方、授業終わりのチャイムが鳴る。学校の授業はいつもクソつまらなくて、くだらなくて話にならない。ロボット教師の話なんて誰も聞いてない。やっと終わった。教室を飛び出す。廊下に出るといつもの2人がいる。


「やっとクソつまらん授業終わったぜ!」

「早く帰ってエーゼロやろう。」

「そうしよう。」


 エーゼロとは正式名称「Aether Zero(エーテルゼロ) Dominionn(ドミニオン)」の略で、今とてつもなく熱いオービタルのゲームだ。果てしない空や海の上で、数百人規模のチームに分かれて戦闘機や、何百メートルもある戦闘艦で戦いまくる。でかいトーナメントに勝てば現実で使える金も手に入る。

 一度遊べばあの緊張感、リアリティが忘れられない。少し前に兄ちゃんに教えて貰った。学校の勉強なんかやってる暇ない。今すぐ参戦しなければならないのだ。

 ダーヤマとしいたけは僕の一番の友達。幼稚園の頃から仲が良かった。2人も僕がエーテルに誘ったらハマった。それだけ面白いから当然さ。


 本当ならこの後クラスルームや掃除があるけど、これもクソどうでもよくてやっていられない。女子たちが怒るかもしれないが、本当は女子だってテキトーに掃除して終わらせてる。先生の前でだけちゃんとやってるだけだ。だから僕は僕の意志を貫いて今すぐ帰る。


 今の学校はどこもかしこもアンドロイドがいる。僕が幼稚園を卒園した頃に教育用アンドロイドの全国配備が終わった。国は子供一人一人に合わせた教育とか言ってるけど、僕はわかる。もう日本は教員を雇う金もないだけなんだ。だから僕たちは人間でもないロボットに説教されなくちゃならない。こんな馬鹿げた話あるか。何故みんなこんな理不尽に何も感じないんだろう。


 3人で最速で廊下を走る。今すぐ帰ればまだトーナメント決戦に間に合う。すると廊下の真ん中に立つ警備ロボットに行く手を阻まれた。


「ピピ。廊下を走ってはいけません。教室に戻ってください。」


 ほれ見ろ、こういう粗大ゴミが学校中にいる。すぐ絡んでくる。ロボットと言ってもフルボディでもない、警備用のしょぼい奴だ。僕たちの行く手を阻むなら潰すしかない。僕たちはアイコンタクトとハンドサインで戦闘準備に入る。


「うるせえ死ね!!!」

「文科省の犬が!」


 3人でクソロボットを倒す。ダーヤマとしいたけが取り押さえて、僕がロボットの頭の関節を逆の方向に180度回転させて、最後に飛び蹴りすればすぐに静かになった。


「早くしないとトーナメント始まっちゃう!」


 僕たちはすぐに家に帰り、オービタルの起動スイッチを押す。クラブも宿題もどうでも良い。僕たちには今しかできない、もっと楽しくて重要なことがある。それを大人たちは分かってない。

 偉そうに説教する大人たちだって、僕たちと同じような歳の頃、模範的に振る舞っていたのか?そんなはずないんだ。それを彼らは忘れている。僕は騙されない。

 

 ゴーグルを被り、横になる。オービタルの起動シーケンスが始まる。


「西暦2048年、6月24日。オービタルネットワーク、日本サーバー、接続中。ユーザー識別、いちはじめ。おかえりなさい、夢の世界へ。」


 ゴーグルを被り、布団に入る。夢の世界に入るとき、一瞬体が宙に浮くような感覚になって、眠くなる。そしてすぐに新しい、向こうの現実が始まる。


「ようこそオービタルへ――」


 眩しい光に飲まれる。ジェットコースターみだいた。今はもう慣れたけれど、初めてここに入ったときは本当に感動した。ここでは誰でもなりたい自分になれる。この世界こそが僕の生きる場所なんだ。そうに決まってる。


 眩しい光の中に一瞬だけ、何故かいつも超巨大な金ピカの城が一瞬見える。オービタルにログインするときに必ず一瞬見える。とても遠いしその場所には行けない。誰も行ったこともない。でもその城のてっぺんに、誰かがいて、僕を見ていそうな気がする。


 すぐにエーテルのロビーにつく。トーナメントエントリーにはギリギリ間に合った。日本の参加者だけでも多すぎてどのフロアも埋まっている。

 ダーヤマ、しいたけのログイン通知も出てきた。2人ともすぐに合流した。


「何とか間に合って良かったぜ。」

「準備集合までまだ時間があるから、ショップを周りたいな。」


 オービタルの世界にはHyption(ヒプシオン)と呼ばれるユーザー同士のグループ、ギルド、集団が沢山ある。エーテル界隈の中で特に有名なのは、海外勢なら「DreadNought」、これがエーテルの最大ギルドで毎年エグい賞金を獲得してる。

 日本で有名なのは「カキフライ定食」とかだろうか。兄ちゃんはカキフライのメンバーだ。

 ヒプシオンはゲームに参加するだけじゃない、それぞれの世界の中で必要なアイテムや装備、拡張用サーバーとかを販売して経済圏を作ってる。オービタルで成功すれば現実で働く必要さえない。それが僕が勉強なんかどうでも良いと思う理由だ。もう外の世界はなくても良い場所なんだ。僕も将来オービタルで億万長者になるのが夢だ。

  

 僕たちはチームの集合時間まで、マーケットを見て周ることにした。高級装備は最低でも億単位はする。ああ言うのはどのチームでもリーダー同士のオークションで奪い合う。僕たちは僕たちでも買えそうな武器や装備を見て回った。


 するとフロア全体が虹色に包まれ、ナレーションが始まる。

「第1回戦闘開始まで、15分前になりました。ユーザーを各部隊フロアに転送します。」


 いよいよ戦いの時が近づいている。ダーヤマとしいたけは僕と配属が違い後衛なので、戦闘後の合流になる。僕は前衛で、戦闘が始まったら真っ先に敵艦に乗り込んで行く。ウズウズするね。


「じゃあ、また戦闘で合流しよう。」

「お前ら簡単に死ぬんじゃねぇぞ!」

「みんな頑張ろうね。」


 2人と挨拶をしたら、もうすぐ転送が始まる。準備が終われば僕は手に汗握る戦闘の最中にいる。僕はここて頂点を目指す。ここが僕の居場所だ。

 難しいことなんて考えてもわからない。今楽しんで、それでいつかみんな死ぬ。それで良いじゃないか。それで良いんだ。これが僕の夢の世界。つまらない現実から、果てしない永遠の興奮への軌道(オービタル)――。

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