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「永遠の帝国」

 人が夢を見るならば、人の集まりである家族、そしてその最終的な集合機構、つまり国家もまた夢を見てもおかしくはない。国家と言う存在そのものが、結局は人の願いを映し出す鏡なのかも知れない――。


 空港のラウンジで新聞記事を宙に浮かせて、その記事は一部私が執筆した…。を読みながら、コーヒーを飲む。

 これが私の日課であり、好きな時間だ。出張の用事がないときも私はここに来てしまう。このお店の旧式な、ちょっと間の抜けた接客ロボットが可愛いからかも知れない。 

 編集長は私がサボっているのを知るとすぐに怒る。いつも息を切らしながら、もっと面白いネタを探せと急かしてくる。でも私は知っている。この隅々までインターネットと監視カメラが張り巡らされた世界で、そう簡単に面白いネタなんかない。

 

 小さい頃、私が新聞記者になりたい夢を持ったとき、この仕事は将来なくなってしまっているかも知れないと思った。動画生成AIや拡張現実が登場した頃から、みんな文章なんて読まなくなったし、変わらず新聞を読んでいる人たちなんてお爺ちゃんお婆ちゃんしかいなくなった。人の夢を自由に操れるなんてとてつもない技術が出てしまえば、もう誰も本も新聞も読まなくなると、半分諦めていた。

 

 でもとても意外だったことに、新聞記者の仕事はなくならなかった。私はとても驚きだった。入社試験のときに、その理由を編集長、ナベさんが教えてくれた。

 

「どんなに人工知能だの何とか現実だのが進歩しても、結局人間は自分たちと同じ形をした人間を必要とするんだよ。プログラムに取材されるのと、人に取材されるのなら、後者の方が気分が良いだろ?」


 入社したばかりのときは、ナベさんの言っている意味がよくわからなかった。自分で志願しておきながらこの会社大丈夫かなとも思ってしまった。みんなAIに代替されると思っていた。私は変に卑屈だった。でも今はナベさんのプライド、仕事で大切にしているものが少しわかった気がする。


 自分の体で現場に行って、そこにいる人達と話して、起きていることを見極めて、伝える。これは人にしかできないんだと思う。少なくとも私は、まだそうであって欲しいと思っている。

 

 オービタルの技術が発表されてから10年足らずで、世界中のとても沢山の場所で人々は夢を見るようになって、各国政府も世界連合も、オービタルの有用性を認めた。

 高度医療、社会福祉、犯罪抑止、また国民の思想統制。いやむしろ、各国政府はより国民の飼い慣らしに役に立つ道具を必要としていたのだと思う―。オービタルの恐ろしく高度な技術に基づく恍惚体験を得るために、ユーザーはもちろん相応の代償を支払って…。

 

 こんな世界の潮流の中で、流行に逆らう、ある1つの、オービタルの使用を認めない国があるとしたら、その国は正気と言えるだろうか。

 オービタル問題だけじゃない、世界連合にも加盟せず、非常に排他的な鎖国政策を取り続ける国があるならば、その国の指導者はどのような者だろうか。ましてやそのような国が、この世界で一番謎に包まれている大国だとするならば、私はその国への好奇心を抑えることができない…。


 編集長も上層部も会社も、私がこのテーマを扱うことを嫌がる。金にならないし、そもそも取材にも行けないから。どうせまともな場所じゃない、深入りするだけ無駄だ、時間を無駄にするなって。でも私は仕事の合間に、どうしてもこっそり調べてしまう。海の真ん中の霧に包まれた、あの神秘的な帝国について――。


 太平洋中央部、ゼルシアの大陸に位置する巨大な帝国国家、ユピトゥマは、200年程前に誕生した謎の多い国家、とされている。

 と、されていると言うのは、あの国についての資料がとても少ない。これは世界連合の数少ない資料に書かれていることだから。建国の歴史についても、帝国は多くを公開していない。元々その大陸にあった他の国々も統一戦争で滅んでしまい、非常に不明な点が多い。

 友達やオカルト板のメンバーも、みんなどうせろくな場所ではない、大した場所ではないと言う。しかし私は、記者を夢見た頃から、あそこには何か大きなものが隠されている気がしてならない。私はあの国に行って、そこで何が起きて、どんな人たちがいて、何を夢見たのかを、この目で見なければならない。とても強くそう思う。


 ゴーグルからピピッと通知が入る。どうでも良いメールの通知だった。

 ――最初にコーヒーを頼んでから気がつけば30分は経ってしまって、コーヒーがぬるくなってしまった。私は何か考え始めると、時間感覚が完全になくなってしまうのがいけない。一気に飲み干し、おかわりを頼む。またかわいいロボットが持ってきてくれる。あのロボットの名前は何と言うんだろう。


 ユピトゥマに取材に行きたいと言っても、私の個人的好奇心で、実際に取材に行ける可能性は全くない。今任されている仕事もあるし、密入国…なんて仮に考えても何千キロもある海を渡って行く方法すらない。入れても処刑されてしまうかも知れない。

 結局あれこれ考えて諦める。不毛な時間を繰り返してしまう。


 私は絶えず飛んでいる飛行機を眺めながらまたぼーっとしてるうちに、もう2時になってしまっていた。ここのサボりがばれて怒られたら、私のお気に入りのサボりスポットがなくなってしまう。もう帰ることにしよう。

 おかわりのコーヒーを慌てて飲み干し、ロボットに店を出ると伝える。お会計もゴーグルが全て自動でやってくれる。今どき現金を持ち歩く方が危ない。オービタル利用中の盗難や殺人も起きている。私もドジだから気をつけないといけない。

 あのロボットが出口まで来て見送ってくれる。サボりがバレてなければまた来るよ。


 空港を出て、会社への帰路につく。このまま帰っても良いが、手ぶらだとサボりがバレてしまうかも知れないので、どこかで何でも良いのでネタを集めて帰った方が良いだろうか?

 と言うようなことを考えながら歩いていると、ナベさんから連絡が来た。まずい、ついにサボりがバレてしまったのだろうか…?

 右手でゴーグルを軽く触れ、恐る恐るメッセージに出る。ナベさんの顔が出てくる。


「あっお疲れ様で…」

「二宮か?俺だよ!今どこにいる!?」


 通話に出た途端いつも以上に息を切らした編集長の顔が映る。これはサボりが完全にバレてしまったかも知れない。このままだとまずい。何とかごまかさないと!


「あっ今丁度取材が終わった所で、決して空港でサボっていたとかそう言う訳では…」

「お前がいつも空港でタコってるのはわかってんだよ!」


「あっ…」


 どうやら私が今まで巧妙に隠していたと思い込んでいた優雅なティータイムは編集長に完全にバレてしまっていたようだ…。ついに私もここまでなのかな…。

 でも編集長はそのことで怒っている訳ではないようで、


「今すぐ会社に戻ってこい!とんでもないことになった!」

「はぁ…。」

 

「お前がユピトゥマに行けるようになるかも知れない。」


 ――私はその言葉を聞いたときに、私の今までの問いや願いは決して無意味なものではなく、私があの国に行くことが、何かとても大きなものに定められているではないかと言う予感を抱いた。


「すぐに帰ります。」

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