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「愛について」

「神は、その独り子をお与えになったほどに、世を愛された。独り子を信じる者が一人も滅びないで、永遠の命を得るためである。 」

(ヨハネ3:16)



 

 西暦2049年、6月28日月曜日。私は気がつくと日の出の薄っすらだが、確実な光に照らされていた。全身が雨の水、空腹や疲労、虚しさに晒されていたが、それよりも私は自分が今も生きている、生きてしまっていると言う現実を受け入れられてはいなかった。私は昨日の夜に死ぬはずだったのに、また空腹や寒さを感じてしまっていた。私はまた死ぬことに失敗したのだ。と、この現実、この感覚を受け入れるしかなかった。


 時計もスマホもゴーグルも持ってきてはおらず、今が何時なのか何もわからない。わからないのでようやく見つけたコンビニに入り、時計を見ると6時になりそうな時間だった。

 腹は減っているものの金も全くなく、何も買えずに店を出た。1つ幸いなことがあったとしたら、雨が止んだことだろうか。雨が止んだことを良いことだと思ってしまう自分の状態に、また失望を感じた。

 歩いて山から降り始めてから大分時間が経ったことはわかったが、それでもまだ家は遠い。ここからどんなに急いでも2時間はかかる。

 

 私はとにかく眠かった。眠らずに一晩中歩き続けているのだから眠いに決まっているが、とにかく寝たかった。ホテルは所々にあったが、金も身分証もないので入れない。他に用もないコンビニの駐車場で突っ立っていると空腹と眠気で耐えられなかった。私はそれらをまた誤魔化すために、また帰路を進み始めた。唯一持ってきたイヤホンと音楽再生用のプレイヤーをもう一度取り出し、何十回、何百回も聞いてきた音楽をもう一度再生した。


 ひたすら道を歩いていると、仕事に向かうと思われるような社会人や、登校中の学生、子供を時々見た。さっと通り過ぎて行く彼らを見ながら、私は他の人間たちは何を希望に生きているのかと考えながら歩いていた。私はこのクソ以下の世界に何の希望もないが、何故か全く気にしないように生きている連中もいる。これは何故か。彼らは何故生きることに何の疑問も怒りも抱かないのか?何が彼らを生かしているのか?私は知りたかった。

 10代の内に若くして自殺していく連中の判断の早さを見ていると、この世界で苦しみを感じているのは私だけではないはずなのに、何故が生きようとし続ける連中が一定数いる。私にはそれらが理解できなかった。彼らの人生の苦しみが大したことがないのか、無神経なのか、もしくは他の何かか。私はずっと考えていた。


 家を出るときには私はこの世界にはいない予定だったので、今日が月曜日であること、クソみたいな学校がある日であることについて何も考えていなかった。歩き続けて帰宅しても登校時間に間に合わないし、今の限界の体力ではまともに授業など受けられるはずもなかった。

 ほんの数秒考えて、私は学校も全部無視して休もうと決めた。そう決めた瞬間、足取りが少し楽しくなった。どうせ行った所でクソ以下の授業を受けさせられるだけだし、クラスにもゴミみたいな連中しかいない。真面目に行った所で不毛な一日にしかならないのなら、私は自由が欲しかった。なのでもう行かないことにした。

 

 無断欠席をすると教員から親に連絡が行ったり、明日以降面倒なことになるかも知れないとも思ったが、私はそれらももう全てどうでも良かった。

 私は今まで、私の意思に反してやりなくないことに耐えて我慢し続けても、私は幸せにはなれなかったし、誰も私を愛そうとしなかった。ならもう私は誰にも従う必要はなかった。これは明らかなことだった。

 私は私に課せられた社会性を捨てたかった。人々は(少なくとも私は)社会性を背負う代わりに生きることを保証されている。でもそれで生を手に入れられたとしても幸せになれないのであれば、私は社会性なんてもういらない。私は自由になりたかった。

 家に帰ったとき、もしクソ親に外出していたことがバレたらそこでもまた面倒事になるとも思い、少し心配したが、これについても決定は同じだった。もし帰宅して親が騒ぎ出したら、親を殺して黙らせるか、まぁ金を盗んでどこかホテルにでも泊まって眠ることにした。私は親にも従いたくなかった。


 同じ音楽をもう数えられないくらい聞き続けながら歩いていると、空がさらに明るくなってきていた。人通りや車の量も増えてきて、一日が動き出していると改めて感じた。


 私は今回の、2回目の自殺失敗を通して、私にとって不都合な現実を受け入れざるを得ない状況に追い込まれていた。それは2つあって、1つは私は結局の所自殺ができないのだと言うことと、もう1つは私は愛を求めていると言うことだった。私は端的に、これらを受け入れたくなかった。


 私はクソ親の元に生まれてきたせいで、凄まじい迷惑をかけられたし、学校の教員や同級生のクソ共は誰も私を愛そうとしなかった。だから全員殺したかったし、それをしなければいけないと思っていた。でも仮に私がそれを実行したとしても、私は満たされないのだと言うことも、受け入れなければならなくなっていた。

 何故なら、私が求めていたものは別にあったからだ。私は元からそれに気づいていたのかも知れない。でも受け入れたくなかった。それは愛についてのことだからだ。私は考えてくなかった。


 空が明るくなり始めてから何時間か歩き続けて、私はようやく家についた。クソ親にバレるかどうか気にしながらゆっくり玄関を開けると、幸い誰もおらず、私は無事に部屋に入れた。

 私は風呂に入り、適当に空腹を満たしてからベッドに入った。私は精神を病んでからも、空腹を満たすことと風呂に入ること、そして眠ることには飽きを感じなかった。

 オービタルに入って寝ても良かったが、私が生きて返って来てしまったことについてゴチャゴチャ聞かれたくなかった。今はウィズと話したくなかった。だから何十日ぶりかに、ゴーグル無しで眠ることにした。


 オービタルの中程ではなかったが、現実の私の部屋にも窓があり、そこからわずかにカーテンを開けて空が見えるようにした。私は望んで生きていたいとは思ってはいないが、それでも現実の空はいつ見ても美しいと思った。

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