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「わかっていても」

「杖と方舟に重要な進捗あり、来て。開発室より。」


 左手につけた連絡装置に通知音と文字が表示される。開発室からの連絡は最近増えており、式典に向けた準備や計画が進んでいる中で欠かせない部門だ。確認の操作をし、連絡を入れる。


「確認しました。今から行きます。」


 この機械は万能で、お風呂に入っていても使うことができる。これも開発室により設計されたものだ。管理者として日々多くの連絡が入るので、私はいつもこれを腕にはめていた。身分証明や各施設の移動にもこの機械がなければいけない。


 連絡を終え、リラ様が出してくれたお茶を飲み干す。リラ様が不安そうな表情で私の様子を伺っていた。


「ルア、もう行っちゃうの?」

「別部署に呼ばれました。リラ様、美味しいお茶をありがとうございました。」

「そう…」


 もう行かなければならないことをリラ様にお伝えすると、まだ何かを仰りたい様子だった。


「また来てね。今度はケーキももっと頑張ってみるから。」


 リラ様はご身分もあって簡単には外に出れず、出れたとしても護衛付きで限られた場所にしか出られない。リラ様を守るための扱いであったとしても、退屈なのだろうと思う。しかし今は式典も近い。辛抱の時だ。


「楽しみにしています。」

「約束だよ。」

「はい、約束です。」


 席を立ち、リラ様のお見送りを受けながら玄関へと向かう。ふと窓を見るとまだ明るいが、時間は経っていたようだった。


 列車に乗り、お部屋を後にする。列車用の扉が締まり、姿が見えなくなるまでお互いに手を振りあっていた。

 少し寂しいが、いつも通りの日々。次も何も問題なく、またここに来れると思った。




 列車用の門を進むと、操作盤から行き先を選ぶ。今回は建物中央にある開発室本部に向かう。線路が切り替わり、行き先が変わる。ここからなら15分くらいで着くと思う。到着まで少し休憩する。椅子に座り、静かに目を閉じる。


 私は今の執政室に配属される前は、ずっと開発室の出身だった。あそこは頭の良い人たちが多く、私に仕事が務まるのかと不安もあったけど、実際働いてみると皆真面目で、忠誠もある人たちだった。今の友人たちも多くは開発室時代の人たちだ。だからこうして今の仕事でも彼女たちと関わりを持てることは嬉しかった。皆元気にしているとは聞いている。


 列車に揺られていると、私はさっきリラ様と食べたお菓子のせいもあってか、眠くなってきた。そんなことを考えているうちに、気がついたら眠ってしまっていて、ふと起きるともう到着していた。電車の乗り心地が良くていつも寝てしまう。


 起き上がり、列車を降りる。開発室は国全体の様々な場所に施設があるので、この部屋はあくまで代表的な部屋の1つだ。

 私が到着すると声をかけるまでもなく自動扉が開き、私を呼んだ友人、カエスが入ってすぐの目の前で待っていた。


「わっ。」

「はいお疲れ。呼び出して悪いね。」


 カエスはここで働く一番長い付き合いの友人だ。頭は特に良く、ここの責任者を務めているけれど、性格は大分個性的だと思う。昔から生活習慣がめちゃくちゃになっているせいか、いつも気だるげで目の下にくまがあるし、いつ休んでいるのかわからない。


「久しぶり。最近会っていなかったわね。」

「式典までもう時間ないから、ずっと舟の中に籠ってる。今日は進捗を相談したい。」


 カエスは中に進み、私も後をついて行く。ここは部屋全体が組み立て式になっていて、いつも来る度にどこか間取りが変わっている。だから開発室の人が誰かいないと迷子になる。どう言う仕組みなのかは全くわからないけど、この仕組みも自分たちで作ったと言われた。


 狭い廊下は赤い光で照らされていて、壁や床にはあらゆるメモや機材が積み上げられている。私が当時いた時からあったものがそのままあるものもあり、懐かしい気持ちになった。


 しばらく進むと中央室につき、扉を開けた。

入ると部屋の正面には大きな窓があり、皇帝府建物と街が一望できた。窓際に進み、窓を少し開けた。


「間取りが変わっても、この窓の位置は昔と変わらないのね。」

「…この眺め好きなんだよ。空も綺麗だし。」


 時刻を見るともう夕方になっており、空の雲が光によって美しく装飾されていた。部署によっては勤務時間終了になり、皆帰り始めているだろう。


「いつも部屋に籠ってるカエスでもこの空の綺麗さは認めるのね。」

「私は外が嫌いなんじゃない。仕事が多すぎるから仕方なくだ。私のせいじゃない。」


 カエスは愚痴をこぼしつつ、誰よりも任された仕事には熱心だった。やはり彼女にも仕事の適正があるのだと思う。一人一人のあらゆる特性を分析して、最適な帝国への奉仕と配置を決める制度は、うまくいっている。

これは陛下が作った。


 カエスとはしばらく会っていなかったが、変わらずやっているようで安心した。他のメンバーのことも気になる。


「他の人たちはどう?ユリルとかは?」

「ああ元気だよ元気。ルアが移動になったときは超寂しがってたけどね。そのうち来るんじゃねーの?」


 この研究室には親がいない子供もいて、ユリルはその1人だった。親がいないだけならばこの国では珍しくはなかった。寂しがり屋だったけれど、彼女もとても真面目だった。会えるなら会いたい。


「それで、杖と舟の進捗って言うのは?」

「ああそうだよ。これ見て。」


 カエスは机に座り、コンピュータの電源を入れる。その瞬間に部屋の扉の鍵が自動的に締まるのに気がついた。窓も閉じられ、外の光を遮断した。カエスが弄ったことはすぐわかった。何か重要な話をするときは必ずこうなる。これも昔と変わらない。


「…式典に関係することでしょ?」

「ああ。まだ府の方には正式な報告はできてない。と言うかできない…」


 画面には例の計画のデータが次々と表示される。例の計画と言うのは、今この国と陛下が最優先で進めている計画のことだ。


「杖と舟どっちなの?」

「はっきり言うと両方だ。だがよりヤバいのは舟だろうな。」


 杖と舟―。それがこの計画の呼び名だった。この国をより大きく、永遠のものにするための計画。私たちは今それを課されている。大き過ぎる使命を。


「私は開発室責任者として、この兵器が実用に足るとはとても思えない。完成できるかどうかじゃない。完成自体はできる。私が間に合わせた。それよりも完成した後の運用の話だ。私は…。」


 カエスは言葉を詰まらせた。画面には完成に向け24時間休むことなく行われている作業現場の映像と、隣には無数の、問題箇所と思われる場所の記録があった。


「はっきり言って。」

「…良いのか?」

「言いたいんでしょ?」


 カエスは会話が外部に聴かれている可能性を気にしていたようだった。私たちの会話を聞ける力がある方と言えば、それはもう限られている。

陛下か、もしくは⋯。

 でも執政官として、それもあるけれど私とカエスの友人関係として、はっきり聞くしかない。


「今は大丈夫よ。」

「何故断言できる?」

「私がここにいるから。」 


 カエスは私の返答に首をかしげた。恐らく私が意図したことは伝わっていないと思う。それが普通なんだけれど、詳しくは話せない。カエスはしばらく考えてから、口を開いた。

 

「私はこの計画は失敗すると考えている。」

「何となくそうだとは思ったわ。」


 私の返答を聞いたカエスはまた驚いた顔をしたけど、直ぐにいつもの顔に戻った。


「意外な反応だ。」

「詳しく聞かせて。」


 陛下が十年前に発表したこの計画のために、この国と全ての親民は力を注ぎ続けてきた。

建国記念式典を目前にして、この国の繁栄を永遠のものにするための計画、「杖と舟の計画」について、私たちはもう一度思いを向けた。

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