5話
まさかとは思った。やっぱり嘘だと思っていた。
だから、あの時興味半分で“はい”を押したんだ。
体が軽くなるイメージをする。そしてパスワードを口に出す。
「か、KAIRI!」
<Mode/Fighter...Tipe/PhysicalUP.avoid.Lv1.....OK...Start>
頭の中で聞こえる機械音声。
そして、途端に体が軽くなる。
「まじかよ・・・本当に体がかるく---」
「ファイアボール!」
能力の発動を確認する間もなく、真正面から火の玉が発射された。
「なっ!?・・・うわっ!」
能力で上がった身体能力でかろうじて避ける。まさか本当にこんなことになるとは。
今から5分ほど前。MMPで“はい”を押した後しばらくして、またメールが受信された。
――――戦闘が承諾されました。以下の地図に従い、目的地に行ってください。
と、メールにはかかれていた。
「まさか俺が最初に“はい”を押したとは・・・まぁ、いいか。確かめるだけだし、本当に超能力とかあるわけないしな。」
そして、学ランの上を羽織り外へと出て目的地へと向かった。
そしたら・・・これだ。
「ッハ!甘いね!それでも戦士!?そんなギリギリで避けてて勝てるとでも思ってんの?もういっちょ・・・・・・・ファイアボール!」
分かってはいるんだけど、こちらは初めて使ったばかりだというのに、向こうはいたって慣れた様子。勝てるとは元より思ってもいない。
元々勝つことよりも確かめることの方が目的だから。
「試すだけ、試させてもらおうかな・・・・」
今度は風の壁をイメージし、
「KAIRI。」
<Mode/Wizard...Tipe/Defend.windwall.Lv1.....OK...Start>
そして、両手を向かってくる火の玉に突き出す。
まるで火の玉を両手で受け止めるかのような仕草に相手の女の子は笑い出す。
「ハハハッ。いくら戦士でも魔法を受け止めるのは無理にきまっ---」
「ウィンドウォール」
女の子が言い終わらないうちに能力を発動させる。
すると、目の前に風が巻き起こり、飛んできた火の玉をかき消した。
「なっ!?・・・・あんた、魔法騎士!?」
そんな女の子の声を完全に無視して手に見入っていた。
「まさか・・・・本当に・・・・魔法?」
「でも、すでに2個スキルを持ってるってことは、それで全部か・・・なら攻撃系はないってことね。・・・なら、ちょっと!あんた!」
女の子は攻撃する手をやめて、こちらに歩いてきた。
「聞きたいことがある。今は攻撃しないから話をしない?・・・あんたが、カイリなんでしょ?」
「!?・・・なんでそう思う?」
知っているはずがないのに、何故か自分のハンドルネームが知られていたことに驚きながらたずねる。
「質問してるのはこっちなんだけどねー。ついさっき“NoName”だったものが“KAIRI”に変わった。そして、魔法戦士は今のところこのカイリって奴だけだ。そんで今、目の前で身体強化と魔法が使われた・・・なら、必然とあんたがカイリになる。どうよ?違う?」
なるほど、と思う。KnightMagicianは今のとこ自分だけということだ。
「あぁ、そうだよ。俺がカイリだ。・・・それで、なんで攻撃をやめたんだ?」
「ふん。やっぱりね。・・・あんたはさっきこのルールを知ったとこだろう?なら、これがはじめての戦闘だ。ということはもちろんLv1。つまり使える曲は始めの2曲のみ。そして、あんたはさっき2つ使った。筋力ではなく回避力、そして防御系魔法。ということは、攻撃系がない。つまり、あたしを倒すことは無理だ、ということ。だから、交渉しにきた。」
つまりは、Lv1である間は使える能力はたたの2つ。そして自分は今2つ能力を使った。よってこちらには攻撃手段がないと思い、話しかけてきた、と。
「まぁ。魔法戦士は今のとこあんただけだし、かなり珍しいから戦力にもなるだろうと思うからさ。あんた、あたしと手を組まない?」
「俺とパーティーを組めと?」
「そう、話が早いね。いい話だとは思わない?あたしはあんたより戦い慣れてる。だからあんたのMMPをこの距離で壊すこともできる。つまりあんたは今、あたしとパーティー組めば、植物人間にならずにすむ、というわけよ。どう?」
「なるほど。話は分かった。・・・だけどさ、一つ間違ってるよ。俺は・・・・」
「ん?」
そう言いながら、頭のなかで風の刃を思い浮かべる。
「KAIRI。」
下を向きながら、ボソッっと言う。
<Mode/Wizard...Tipe/Attack.windcutter.Lv1.....OK...Start>
そして、?マークを頭に浮かべてる女の子に向かってニコリと笑いながら言った。
「ウィンドカッター」