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プロローグ

第二次世界大戦直後の某北方大国をベースにした架空の国を舞台に作ったスパイ物語です。

かの国が大粛清したのに大国として維持できた理由とは何かを考えた末に思いついたお話です。

登場国は架空ですが世界観的には第二次大戦終戦直後をイメージしてもらえればとっつきやすいと思います。



「被告人を資本主義思想傾倒罪並びにサボタージュ、国家反逆罪による死刑に処する」


 裁判官から非情な判決が下される。被告人ヴァレリア・レヴォーヴナ・カガロフスカヤは冷めた表情で聞いていた。弁明なんてまるで無意味だった。取り調べという名の拷問の前に無実の罪を自白せざるを得なかった。美しい白銀の髪が真っ赤に染まるほどの拷問。女性軍人であった彼女はさらに辱めを受けるくらいならと査問会が望む証言を行った。


そして迎えた裁判の日には、身に覚えのない証拠が既に出揃っており、彼女の無罪を知っている住民たちは最高指導者や秘密警察に目をつけられることを恐れて口を閉ざしていた。故にヴァレリアはこの結果を受け入れたのだ。


(私なりに祖国に貢献したつもりなんだが……糞豚(スビーニヤ)共め)


 事務官に連行されるヴァレリアは、祖国の現状を心の中で嘆き自身の人生を振り返った。

 彼女の産まれた国、レヴェート連邦は北半球に広大な領土を持つ超大国だった。

元は君主制をとるバロア帝国がこの地を治めていた。だが世界大戦による経済の疲弊から革命意欲が高まり、ついにバロア革命が起こり帝国は崩壊した。


内乱を収め、国家基盤を整えたのは共産党だった。相互扶助と富の再分配を掲げる彼らの言葉は、経営者や貴族から搾取されていた労働者にとっては耳障りが良かったのだ。


やがて国民の指示が高かった最高指導者を亡くした共産党は武官ロイク・アーストンを後任とした。最初こそ国民から受け入れられていた共産党だったが、国民生活は豊かにはならなかった。その理由の一つが第二次世界大戦である。


アーストンは共産主義を旗印に国民への戦争協力を強制した。従わないものは敵国のスパイとして逮捕する秘密警察まで創設してしまった。彼が強権を発動させたのは欧州で猛威を振るうマチス・ガイル国に脅威を感じたためだった。電撃戦を得意とするマチスを前に欧州の国々は占領されていった。


仮想敵国の刃が自国に迫ることを感じたアーストンはスパイ狩りに本腰を入れ、少しでも怪しい素振りのある人物を投獄、処刑していった。後の世に記される『大粛清』の始まりである。だがここで大きな問題が勃発した。『大粛清』による国家機能不全である。技術者や労働者を大勢処刑してしまったことでマチスに対抗すべき軍人すら人手不足に陥った。


(だから私のような女軍人が生まれたのに、レヴェートに忠義を尽くした結果がこれか)


 現実逃避のため闘いの日々を思い起こしていた。戦勝に大きく貢献したはずだった。それなのに自国民に処刑されるというなら戦死していた方が良かったと後悔していた。


ふと気が付くと処刑部屋まで案内されている。執行官がヴァレリアの袖をまくり、注射器を押しあてる。軍人の処刑は銃殺が基本なので鎮静剤による痛みなき処刑は予想外だった。武勲を立てた自分に対する最後の情けなのかと考えたヴァレリアは静かに目を閉じた。


「起きたまえ、カガロフスカヤ将軍」


 中年の男性の野太い声が不快に狛句を揺らす。目の前には天井があり、視線を横にずらすと、警察らしき衣装に身を包む男性が立っていた。


「ここは……病院か? アンタは誰だ? 私は処刑されたはず……」


「そうだ、キミは一度死んだ。だから拾った命を今一度祖国のために使ってもらいたい」


 身体の痛みや薬の匂いから自分がまだ生きていることは察しがついたが、自分を殺しかけた国のためにまた働けと宣う男の主張は、ヴァレリアの気を逆撫でするのに十分だった。


「――私は! この国のために命を懸けた! 結果得たものは不名誉と死刑宣告だ! こんなクソッタレな国のために働くのはもう沢山だ!」


「キミの主張は尤もだ。多くの国民もそう思っていながらアーストンらの眼を気にして声を上げられない。しかし、キミらのように優秀な人材が次々と殺されていては国家を存続できない。我々が内紛で潰し合えば〝西側〟が漁夫の利を得るだけだ。そうは思わんかね?」


「アンタ……何者なの?」


「私は《秘密警察第零特務(ノーリ・チェーカー)》課長・ゼリマン・イサエヴィチ・ゼレンスキーだ。同志カガロフスカヤ、この国を救うために力を貸してほしい」


 聞きたいことは山ほどあったが、それらが口から零れる前にヴァレリアは突如胸の痛みに襲われた。必死に呼吸を整えて何とか痛みを抑える。


「適合者といえど、すぐ回復しないか。もう少し休むと良い。全快後にまた話そう」


「……適合者? 一体何のことを言っている? アンタは……」


「キミのお友達も一緒に来ている。どうか信用してほしい」


 ゼリマンはそう言って古びたクマのぬいぐるみをヴァレリアに差しだした。布を補強した痕跡が見られるテディベアは彼女が母から貰った宝物だった。戦争に赴く際も実家から持参してきたもので、逮捕時に接収されたはずだ。とっくの昔に処分されたと思っていたぬいぐるみを抱きしめた彼女は少しばかり警戒心を解いた。


 目の前の男の話くらいは聞いてやろうと思い直したのだ。




いかがでしたでしょうか。

二次大戦で活躍しつつも冤罪で死刑宣告を受けた元女将軍・ヴァレリアがスパイとして第二の人生を生きるお話です。


ロイク・アーストン=ス●ーリン

レヴェート連邦=ソビ●ト連邦

という認識でOKです。


東側社会主義共産主義側のお話ですね。


この物語には二つの不幸があります。

一つは世界情勢の不幸。この物語執筆を始めたのは随分前でしたが現実世界で例の戦争が起きてしまいました。


二つ目の不幸はエピローグまで読んでいただければお分かりになるかと思います。


完結まで執筆済みですが

あまり読まれないと思いますので

気が向いたときに上げていきます。

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