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第19話 教会からの呼び出し

 リレリアと共に魔族からの襲撃を受けてから数日。

 俺の体調は思っていたよりも遥かに早く回復した。


 もちろん初期の段階でポーション中毒にならないギリギリまで使ってもらえたことも理由の一つだろうが。

 それでも残っていた傷や倦怠感からの回復が早い。


『今回ルークは私の能力を発揮するために、体を一部変質させていた。その際に私本来の回復力を一部引き継いだのだろう。次怪我したときにも発揮されるかはわからないが』

「ふーん。てことはお前は昔は本体があったと」

『……』

「まただんまりかい」


 フェルの秘密はなるべく無理に聞き出そうとしない。

 それが俺とフェルの間の無言の約束だったが、しかしとはいえ気になるものは気になる。


 リレリアが俺のもとにやってきたことと言い、リレリアを追って魔族が上層に顔をだしたことといい。


 今後も同様のことがあるのかどうか、そもそも彼女たちはどうやってこちらにやってきたのか。

 

 そんなことは俺でも気になるわけだが、残念ながらフェルもリレリアも話してくれなかった。

 リレリアについては話してくれなかったというより、おそらく理解出来ていないので説明が出来なかったのだろう。


 崖から落とされた、とだけ言っていたが、その結果何が起きてこちら側にやってくることになったのか理屈がわからないのだ。

 このあたり、まだ幼い子供のような部分が垣間見えて、守ってやらねばという思いが俺の中で大きくなる。

 そういう意味で、リレリアは魔性の女性だと思う。


「ま、良いけど。リレリア、朝飯行くか」

「ん」


 リレリアと二人連れ立って宿の二階から一階へと降りる。

 ここを歩くのももう後片手の指で数える程度かと思うと、どこか感慨深いものがある。


 そんなことを考えながら階段を降りていると、下からロックが誰かと話しているのが聞こえた。


「『中層探索者(ミドルランカー)の送り人』、ルーク様はこちらにいらっしゃいますか?」

「あー、多分そのルークはうちに部屋を取ってはいるが、なんだ?」


 どうやら俺に探し人が来ているらしい。

 柔らかな女性の声に以前の俺なら普通に出ていって話を聞いていただろうが、今は少しばかり警戒心がある。

 

「(リレリア、とまれ)」

「ん」


 リレリアを狙って魔族がダンジョンの底からやってきたわけだが、それを警戒しようと考えているときに、以前ロックから受けていた警告を思い出したのだ。

 

 『誰かがリレリアを探っている』という忠告。

 先日人間ではなく魔族相手とはいえ襲われていたために、俺は少しばかり神経質になっていた。

 そして今回はそれが功を奏した。


「ルーク様とお連れの方に、是非教会に来ていただきたいと思いまして」

「あー、教会が? そりゃまたなんで──」

「少し事情がありまして。良ければお伝え願えますか?」

「あいよ。教会に来い、ってことで良いんだな?」

「ええ、そうお伝え下さい。それでは」


 言葉の主が去っていくまで、俺はしばらくその場でとどまっておく。

 そして完全に立ち去ったと判断してから階段を下まで降りていった。


「おう、おはよう」

「おはよう。俺への客人か?」

「まあ、そんなところだ。どうするんだ?」


 俺が聞いていたことにロックは気づいているのだろう。

 女性からの言葉を俺に伝えることなくそう尋ねてきた。


「……良い予感はしねぇな。あ、朝食セット二つで。リレリアもそれで良いよな?」

「ん」

「あいよ」


 ロックがカウンターの内側で料理を始める。

 しかし、さてどうしたものか。

 

「ちょっと早いけど街を出るか」

「どうするの?」


 首を傾げるリレリアの頭をそっと撫でてやりつつ、彼女の疑問に答える。


「面倒くさいから、街を出て他所に逃げようかと思ってな。金は結構溜められてるし」

「他のところに行く?」

「まあな。と言っても、ダンジョン都市は別にここだけじゃないからな。一、二ヶ月も旅すれば他のダンジョン都市につく。ここから近くとなると……地図見ないとわかんねぇが」


 ガキの頃にダンジョン都市に転がりこんでからずっとここで暮らしているので、俺はあまり都市の外のことについては詳しくない。

 昔は他所の領地の町とかにいったこともあるが、その頃はまだどこの町がどんな特徴を持っていてどんな地理関係になっているかとか知らなかったし。


「はいよ。もう出てくのか?」


 料理を終えたロックが、俺達の前にプレートをだしながら尋ねてくる。

 今日の朝はポテトサラダとハムと卵のサンドイッチにサラダか。

 うまそうだ。


「サンキュ。まあ、教会に絡まれるのはちとだるい。今日出た方が楽だろうな」

「そうか。ま、寂しくなるが、元気でやれよ」

「おう。まあどこかに腰を据えたら手紙でも出すわ」

「待ってるぞ。嬢ちゃんも、元気でな」

「ん」

 リレリアは相変わらず無口だが、ロックには心を許しているようであった。

 だからこそ彼女を連れて旅立つことは、彼女とロックを引き離してしまうことになるが──。


「狙われてんだもんなあ」


 俺の方を見て首を傾げるリレリアの頭を撫でて食事へと戻らせつつ、俺もまた自分のサンドイッチに口をつけるのだった。




 食事に戻った後、俺達はここ数日進めていた片付けを一気に終わらせて、荷物を担いで完全に旅に出る格好になる。

 とはいえ俺もリレリアも大して荷物を持たない生活をしているので、ちょっとした小荷物がある程度だが。


 家持だったり冒険者ギルドで借りてるハウスに住んでる探索者などはおしゃれをしたり部屋を彩ったりとあるのだろうが、生憎と俺はロックの酒場の二階の宿に間借りしていただけだ。

 金も貯めたかったしとくにものを増やしたりはしていない。


「よし、いくか」

「ん」


 リレリアと共に宿を出る。

 ロックは忙しそうだし、さっき食事のときに色々と話して別れも告げたのでもう良いだろう。

 そんなことを考えていると、一瞬目があって『はよ行け』と言わんばかりにジェスチャーをされたので、軽く手を振って俺達は宿を後にする。


 その後は広大なルサーナの中を一時間近く歩けば、ようやく街の出口が見えてきた。

 

 思えばルサーナを出るのは、ガキの頃にここに転がり込んで以来初めてのことだ。

 少しばかり感慨深い思いがありつつ、俺とリレリアは街の門をくぐり外に出る。


 逆に街に入ってくる門のところでは、大勢の人が列を為している。

 それだけでダンジョン都市ルサーナという場所の繁栄っぷりがわかるというものだ。


「さて、それじゃあ行きますか」

「ん」


 最後に門から街を一目見てから、俺とリレリアはルサーナに背を向ける。

 

 何、ダンジョン都市は一つではない。

 そしてその一つ一つが、ルサーナと近い形であったり異なる形であったりと様々だが、大きな発展を遂げているという。


 ならば次に俺達が行く場所も、きっと楽しい場所に違いない。

 そんなことを考えながら歩いていると、道の真ん中に人が立っているのが見える。


 赤と白の儀礼服混じりの甲冑に、金色の鐘と鳥の紋章。

 

「教会騎士か」


 そんな人物の隣を俺達は通り抜けようとする。

 別に相手に用事があるわけでもないし、声をかけてやる義理もない。


 だが向こうは違ったようだ。


「『中層探索者(ミドルランカー)の送り人』ルークと、その連れだな?」


 ヘルムの内側から響く高い声は女性のものだ。


「……だとしたら?」

「これからお前たちを監視させてもらう。教会騎士の責務としてだ」

「……勝手にしろ。俺達は別のダンジョン都市に向かうがな」


 監視、と聞いて害がないのを判断し、俺は相手を無視して歩みを続ける。

 捕縛するとか言われたらちょっと面倒くさいことになるところだったが、監視ならば行動の主体は俺達だ。

 相手の意思に従う必要はない。


 もっとも監視をされていい気分のはずもないので、皮肉の一つも飛ばしてやるが。


「そうか、他のダンジョン都市に……は? ま、待ってくれ!」

 

 後ろから何か聞こえるが、俺はそれを無視してリレリアとともに歩き続ける。

 リレリアの方なんて、完全に相手が眼中に無いと言った様子だ。

 彼女のこの興味の無いものに対する無関心さは本当に凄いと思う。


 俺達を追いかける教会騎士の足音を聞きつつ、俺とリレリアは新天地へ向けての旅を始めた。


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