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第17話 その後のあれそれ

「……ク、ルーク。起きて」

「う、うう……?」


 暗闇の向こう側から呼びかける声に、俺はなんとか目を開く。

 目を開くことすら億劫な程に身体が重たいが、どうしてもその声の主を確認したくて。

 

 目をあけると、俺の顔の正面から横向きに覗き込んでいる少女と目があった。


「リレ、リア……?」

「ルーク、起きた」


 その顔に手を伸ばそうとして、ビキリと腕に走った痛みに俺は思わず顔をしかめる。

 それでも彼女に触れたくて手を伸ばせば、彼女はそれを受け入れてくれた。


「生きてる……」

「ルークが血をくれたから」

「俺が?」


 これまで彼女の頭を撫でたことはあったが、それ以外で彼女に触れたのは初めてだ。

 頬に触れる俺の手を、くすぐったそうにしながらもリレリアは離れようとはしない。

 そのことが今の俺にとっては、とてもありがたかった。


『馬鹿者。お前は二日も寝込んでいたのだぞ』

「フェル……。二日……何があったんだ?」


 記憶が曖昧だ。

 だが徐々に思い出してきた。


 そうだ、俺とリレリアはダンジョンを探索中に二人の魔族に襲撃されて。

 彼女を傷つけられて頭に血が昇った俺は、ただひたすらに魔族を殺そうとして──。


「彼女がお前を運んできてくれたんだよ」

「ロック……」


 扉を開けて入ってきたのはロックだった。

 今更ながらに周囲を見れば、ここは俺がいつも拠点にしている宿の部屋だ。


「お前ほとんど死に体だったぞ? 取り敢えずお前の部屋にあったポーションを中毒を起こさない程度にぶっかけておいたが……まあ数日は安静にしておけ」

「……わかった」

「んじゃ、俺は仕事に戻る。嬢ちゃん、なんかあったら呼びに来て良いからな」

「わかった」


 それだけを言うと、ロックは水の入った桶と布を置いて部屋から出ていった。

 その布を水に浸したリレリアがそれを絞り、俺の頭に載っている布と交換してくれる。

 気づかなかったが、俺の頭には布が載っていたらしい。


 ロックが出ていった後の部屋で、俺はリレリアに改めて声をかける。


「何が、あった?」

「ルークが私を守ってくれた」

「いや、そうじゃなくて……。というか、気づいていたのか?」

「身体は動かなかったけど声だけは聞いてた」

『魔族は人間や亜人族と比べて頑丈な者が多い。人間ならば致命傷でも、魔族ならば普通に生きていることは往々にしてあるものだ』

「そう、か……」

 

 その言葉に、ようやくリレリアが生きていたのだという実感が湧いてくる。

 

「で、その後は何があった……?」

「ルークの血を飲んだら回復した。だからルークを地上まで運んできた」

『ちょうどお前が倒れこんだ位置が良かった。お前から流れる血がリレリアの顔の近くまで行ったのだ。ヴァンパイアは血を飲めば回復する。それでリレリアは回復し、お前を抱えて地上に帰還した』

「ん、フェルの言う通り」

「そうか……ん?」


 二人の説明に納得したが、同時に気になることも出来た。


「リレリア、フェルの声聞こえてるのか?」

「うん、聞こえるようになった」

『まあ、少し事情があってな』


 フェルの珍しく口ごもった言葉に、俺はまた何らかの事情か変化があったのだろうなということを理解する。

 だがそれを俺から問い詰めるべきではない。

 彼から話してくれるまでは待つべきだ。

 それが、決して離れることが出来ない俺達がうまくやっていくコツである。

 

『ルーク、私から一つ、忠告だ』

「忠告?」

『ああ。今回ルークは、私の力をいつも以上に引き出した』

「……心当たりはあるな」


 最初はワーウルフに良いようにあしらわれ、圧倒されていた俺。

 だがリレリアが傷つけられてから全力を出しつくそうと振り絞り、結果魔族の男の魔力に打ち勝ってその身を両断した。


『私の力がルークに馴染んできている。おそらく次からは、あのときの力を自分の意思で出すことすら可能になるだろう』

「力加減には気をつけろ、ってことか?」

『そうではない』


 そこでフェルは言葉を切り、僅かな間の後に続ける。


『私の力を使いすぎると、ルークが私に呑まれてしまう可能性がある』


 呑まれてしまう。

 俺がフェルに。


「……お前に乗っ取られる、みたいなものか?」

『そうだ。先日程度の力を出すなら全く問題は無いだろうが、より強い力を発揮するほどに、ルークの肉体に私の魂が馴染んでいくことになる』

「……なるほど」

『リレリアに私の声が聞こえているのもそれが原因だ。魂しか存在していない私が、お前と一部同化したことによって魔族を相手にした場合だけだが声が聞こえるようになったようだ』


 つまり、フェルの能力は強力だが、強力であるがゆえにあまりに引き出しすぎると、それが俺の肉体を染めてしまう。

 そうしていつの日か、俺はフェルに飲み込まれる。


「……今回俺が発揮した程度の力なら問題ないんだろう?」

『……それは、問題ない。そもそもルークの肉体が私の力を発揮するには弱すぎる。力を出せたとしてもごく一部だ。だが今後今回のように枷が外れるようなことがあれば……どうなるかわからない』


 フェルに呑まれる、か。


「まあ、それなら気にしないでいいだろ。元々無茶をするほどに稼ぐようなつもりはないし」

「ん、私が守る」

『……ルークがそう言ってくれるのならば、私としてはありがたい』


 俺とフェルは離れることが出来ない。

 これはもう彼が俺に取り憑いた初期から幾度も試したことだ。


 だからこそ、この関係は良いものでなければ双方にとって大きな負担となる。

 それに取り憑かれている状態が普通ではなく、身体におそらく悪影響があるだろうことは前々から予測済みである。


「まあ、前までならお前に体をくれてやってもいいと思っていただろうが……」

『そんなことはめったなことで言うものではないぞ』

「わかってるって。今はやる気はねえよ。せっかく大事なものも見つかったしな」


 そうフェルに答えながら、俺はキョトンと目を瞬かせるリレリアの頭をそっと撫でるのだった。

 というかいつまで俺のこと覗き込んでるんだ?


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