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第12話 侮辱と再会

 ロックとの会話から数日。

 一応身の回りを警戒はしているものの、今のところおかしなことは特に起こっていない。


 というか毎日ロックのところの宿で起きて飯食ってダンジョン潜って帰ってきて飯食って寝るの生活なので、警戒するのがロックのところで飯を食っているときぐらいしかない。

 流石にダンジョンでいきなり襲撃を仕掛けてくるということもないだろうし。


 そもそもそんなことをしたらした方がガバメントに指名手配されて消される。

 ではそのガバメントが魔族を警戒して俺達を監視している場合はどうするのかという話だが、それならすでにリレリアを連れてガバメントの売却窓口には何度も行っているのでそこで声をかけてくるはずだ。

 よってその可能性は低い。


 そんなわけで、警戒しつつも特に何も出来ることがないまま数日が過ぎた。

 

 その間も俺とリレリアはダンジョンに潜り続けて、それなりの稼ぎを手にしていた。

 今では第十層あたりまで潜ることも出来る。

 もうしばらくすれば、中層に挑戦しようかと考えているくらいだ。


 ちなみに中層に潜ることが出来る探索者というのはそれだけで上澄みである。

 有名な冒険者ギルドであったりパーティーであったりと華々しい活躍をしている探索者ばかりが話題になるので感覚が狂ってくるが、ここルサーナでは数万にのぼる探索者のほとんどは上層でしか探索する能力を持たない。

 

 そんな中で中層に潜ることが出来そうな俺とリレリアの戦力、そして稼ぎは、単純に言ってそこら辺の探索者の数倍になっている。

 これまでは使いづらい能力だと思っていたが、いざ自在に使えるようになってみるとここまでフェルの能力は強いのかと毎日驚きを覚えているぐらいだ。


 そんな状況なので、毎日ロックの安い酒場で飯を食うのではなく、たまにはちょっと他の店にも足を伸ばしてみようと思ったのがいけなかったのか。


 俺は訪れた酒場で、懐かしい顔と対面していた。


「久しぶりだね、ルーク」

「……よう」

「けっ」


 数週間ほど前に俺をパーティーから追放したメンバー達。

 訪れた酒場で、俺はそんな彼らと机を並べることになってしまったのだ。


 ぶっちゃけ俺の方から声をかけるつもりは特に無かったが、向こうのリーダーから声をかけられた。

 槍使いの彼は相も変わらず俺の方を見て不機嫌そうに鼻を鳴らし、顔を背ける。

 

「友達?」

「知り合い程度だろ」


 リレリアの質問に俺はそう返す。

 彼ら自身が別に嫌いな類の人間であるというわけではないが、俺と彼らは相互利用、共生のような関係だった。

 それが断たれて以降関わりも無い以上は、知り合いというのが妥当だろう。

 俺がリレリアとそんな話をしていると、槍使いの男が嘲笑うように声をかけてくる。


「そいつが今度の寄生先か? 相変わらず人に寄生して恥ずかしくねえのかよ」

「ギャズ、やめろ」

「へいへい」


 言い返してやろうかと思ったが、リーダーが相変わらず即座に暴言を吐いた槍使いを黙らせている。

 もうパーティーメンバーではないんだから、ちょっとした不和ぐらい気にしてくれなくても良いんだがな。

 ため息をつきながら注文のために店員を呼ぼうと口を開く。

 その瞬間だった。 


「違うよ」


 と、俺の正面から力強い言葉が響く。

 いつもはどこかふわふわフラフラとしていて、何も知らないでいるようなリレリア。

 その彼女が、槍使いの男に厳しい顔を向けながら言っていた。


「ルークは、私を助けてくれたの。守ってくれた。一緒にいて頭を撫でてくれた。だから、ルークを馬鹿にするなら許さない」


 ゆらりとリレリアの瞳に赤い光がちらつく。

 僅かに剣呑な空気が漂う中で、俺はリレリアに声をかける。


「リレリア、ありがとう。だが大丈夫だ。それより何注文するか決まったのか?」

「ん、わかった。まだ決めてない」

 

 視線を再びメニューに向けるリレリア。

 彼女が俺が思っていた以上に俺のことを大切に思ってくれているのはわかったが、これは俺の過去の問題だ。


「はっ、そんな半端野郎がか?」

「ギャズ!」

「きゃっ」


 それでもなお俺に絡もうとする槍使いの男をパーティーのリーダーが一括する。

 その怒声に、新しくパーティーに参加したであろう二人の少女のうち一人が悲鳴を上げ、もう一人がその子を庇いながら槍使いの男に非難の視線を向ける。


「すまないイメリア。ルークもすまない。ギャズが失礼をした。リーダーとして謝罪する。その上で話したいことがある」

「……なんだ?」


 俺の方は話したいことなどもう無いのだが。

 それでも性格的にまっすぐな彼は退かないだろうと、話だけは聞いてやることにする。


「君をもう一度パーティーに迎えたい。俺達と一緒に探索をしてくれないだろうか」

「断る」


 しかし聞き始めてすぐに後悔した。

 

 何を言い出すかと思えば今更そんなことを。

 いくら互いに相互利用の関係だと割り切っているとはいえ。

 探索が上層の浅いところから深いところへ、そして中層へと移っていくにつれて俺の存在価値が下がることを自分で理解しているとはいえ。


 追放されることに悔しさがなかったわけがない。

 俺だって全てを合理的に判断出来たとしても納得できるわけではないのだ。

 そんなところに、今更戻るかだと?

 誰が戻ってなどやるものか。


「何故だ? まだパーティーに参加していないなら、僕たちのパーティーに戻った方が、君の言う通り安定して稼げると思うが」

「こっちこそ何故だな。一度追放した俺をまた欲しがる理由はなんだ?」


 俺の言葉に、リーダーは特に抵抗を感じない様子で答えてくれる。


「新しくパーティーメンバーを迎えて探索をして、君という存在の有用性を再確認した。君のいた状況では、俺達は戦闘に集中できた。だが今はそれが難しい。その分探索の難易度も上がっている」

「……そうか」


 こう言ってはなんだが俺は雑用係としてはかなり有能な方だ。

 前回パーティーから追い出されたのも、パーティーの実力が上がっていき、雑用係より探索者の方が必要な状態になってきたからであって、俺の雑用係としての能力が不足している、というわけではない。


 そしてこれはこれまで経験してきたことなのだが、俺を雑用係として採用するパーティーはたいてい駆け出しのパーティーだ。

 まだ大して稼ぐことが出来ていない、そして厳しい探索に進むこともないパーティー。ダンジョン探索というものにこれから挑んでいく、そんなパーティー。

 

 そういうパーティーの探索に同行して、ダンジョン内の地形の把握だとか一時的な安全の確保の仕方だとか適切な撤退ルートだとか。

 そういった俺が長年の経験から蓄えた知識を使って、探索を全力でサポートする。

 それが俺の雑用係としての生き方だった。

 

 最初の頃は探索者にとって、そうした知識面、経験面からのサポートは非常に恩恵が大きく、探索が順調に進んでいく。

 この頃はまだパーティー内も穏やかで、戦闘はしないものの俺の存在は認められている。


 だが順調にステータスがあがり強くなり続け下の層へと進んでいくにつれて、求められる能力における戦闘力のしめる割合が高くなってくる。

 そして同時にメンバー達が探索に慣れることで、俺なんていなくても探索が出来るのではないか、という風に感じ始めるようになる。


 そうなってくると、俺の取り分が他のパーティーメンバーと同じことに不満を持つ奴が出てきたり、他に探索者を加えようという話になってくる。


 そして俺は追放される。


 ちょっとずつ差異はあるだろうが、だいたいがこの繰り返しだ。


「それに、君の噂を聞いた」

「被追放回数最多ってか? 聞き飽きたよ」

「いや、それじゃない。『中層探索者(ミドルランカー)の送り人』。君のことだろう?」


 思わぬ呼び名に唖然とする。

 俺が一部でそう呼ばれているのは知っていたが、被追放回数最多の探索者という不名誉な二つ名と比べれば遥かにマイナーな呼び名だ。


「……だったらどうする」


 中層探索者(ミドルランカー)の送り人。

 それは単純に言ってしまえば、俺がこれまで所属したほとんどのパーティーが中層到達、ないしは上層最深部である十層への到達を達成しているために呼ばれている呼び名だ。


 ルサーナでほんの一握りの中層探索者。

 そこに絶えずパーティーを押し上げる形になっている俺に対する肯定的な評価だ。

 と同時に、自身はパーティーに置いていかれるために、『送り人』という送る側の存在として扱われている皮肉でもある。


 そんな評判も一部ではあったからこそ、これまで幾度も追放されようとも再就職先には困らなかったわけだが。


「それほどに卓越した君の支援能力を失ってしまうのは惜しいと思った。だから出来ることならば、君を探索者としてパーティーに迎えたい。俺達のところに、戻ってきてはくれないだろうか」


 しかし、これは望んでいない。

 切り捨てられるならば結構、俺も自分の戦闘力の低さを自覚していた。

 だからこそ大人しく身を引いていた。


 それを一度捨てられたところに戻るのは、金を稼ぎたい俺の心が許しても、探索者としての俺の誇りが許さない。

 それは、今のようにある程度稼げるような状況ではなくても、変わらない。

 以前も今と同じような場面に直面したことは幾度もある。


「あのときにその台詞を聞きたかったもんだな」


 そしてその度に断ってきたのだ。


「行くぞ、リレリア」

「ん」


 リレリアに声をかけて席を立つ。

 店に入っておいて何も食べていないが、このままでは落ち着いて飯も食えない。


「ま、待ってくれルーク!」

「お前にはわからんだろうが」


 引き留めようと立ち上がる元リーダーに、俺は背中を向けたまま答える。


「こんな俺でも誇りはあるんだ。あんまり舐めてくれるなよ」


 そう告げて先で待つリレリアを追って歩き出す。

 元リーダーは、それ以上俺のことを追ってくることは無かった。



『また断ったのか。楽に稼ぎたいという割には、ああして再度勧誘されたときにはよく断るものだな』


 夜道を宿に向けて歩いていると、フェルが話しかけてくる。

 以前も、そして今回も、一度追放されたパーティーからの再勧誘を俺が断ったことについて言っているのだろう。


「誇りを捨てるにも限度があるわな。まあ普段は安全に稼げればそれで良いし追放される分には仕方ないと受け入れるが。やっぱ便利だったから戻ってきてくれってのは、どうも受け入れがたい」

『難儀なことだ』

「うるせ」


 そんなことは俺が一番わかってる。

 なんなら今日みたいな相手を対象として高級ポーターとして活動すれば、あるいは初心者パーティーにくっついていくより稼げるかもしれない。

 それでも俺は、探索者なのだ。

 そちらの方が安定して稼げるだの食いっぱぐれがないだの稼ぎが良いだのと理由を並べてみても、結局のところ根本は、そんな俺のどうでもいいこだわりなのである。


 だから俺は、明日からも探索者だ。

 そこだけは、変わることはない。


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