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第11話 夜の酒場で

 一日のダンジョン探索も終えて、俺とリレリアは地上に戻ってきた。

 今日は少しばかり早めの帰還だ。

 しょうがないね、俺の剣が折れちゃったからね。


 それでも第六層ではそれなりの時間戦闘を続けた。

 リレリアが俺を上回るペースでモンスターを倒してくれたのと、強化されたステータスだと案外素手でもどうにかなってしまったからだ。

 俺が思うに、おそらく上層でも一番過酷な第九、第十層あたりでも、いや、中層でも今の俺の能力は通用するかもしれない。

 

 ただ喜び勇んで第七層に降りたときに問題が起きた。

 第七層にはアシッドバグという甲虫型のモンスターがいるのだが、こいつが素手の俺とは徹底的に相性が悪かったのだ。


 アシッドバグの攻撃方法に、尻部の袋に溜まっている酸性の液体をこちらに向かって飛ばしてくるものがあるのだが、これがいけなかった。

 攻撃自体は回避できたのだが、俺がアシッドバグを潰したときに酸性の液体が飛び散り、それが俺の靴を突き破ったり腕にかかったりして結構痛かったのである。


 即座に最下級のポーションを使って治療したが、底辺探索者の俺にとってはそれも手痛い出費だ。

 そこからは慎重にならざるを得なかった。

 それに靴や鎧にも穴が空いてしまったのだ。

 

 そうした理由があって、今日は少しばかり早く帰還したのである。

 これはテンションが上ってアシッドバグの存在について失念していた俺の失敗だ。


 これまでアシッドバグとパーティーメンバーが戦っているのを見たことは何度もあるし、対処法も理解している。

 魔法が使えるものなら遠距離から叩くか、剣を使うものなら流石に剣は溶けないので少し距離を取りながら仕留めれば良い。

 それに尻の部分の袋にしか酸性の液体は入っていないので、そこを攻撃しないようにさえすれば液体が吹き出す心配はない。


 そんな初歩的なことも忘れて、俺は少しばかりはしゃいでしまったのである。

 もう三十も近いこんな歳になって何をやっているのかという話だが、それだけ自力で戦えるということは俺にとって意味が大きく、嬉しいことだった。

 まるで無敵であるかのように錯覚してしまってもおかしくないほどに。


 今考えるなら、もう少し第六層で色んな敵と戦ってから翌日以降にどうするか考えれば良かったのだ。


「ははは、それでテンション上がってポカしたのか。万年雑用係の名前が泣くな」

「泣かせとけよ、そんな名前」


 夜、ロックの酒場のカウンターで食事を取りつつ、ロック相手にそんなことを愚痴る。

 なお俺は酒は飲まないしリレリアも飲まない。

 血を好むならワインとか色合い的に近いんじゃないか、なんて思ったりするが、まあアルコールは身体に良くないし別にわざわざ飲ませることもないだろう。


「いやいや、真面目な話だぞ? お前は冷静にパーティーの支援をするのがこれまでの役割だっただろ? それが自分でも戦えることになった途端にテンション上げすぎて失敗するとか、流石に気をつけろよ」

「……まあ、次からは気をつけるよ。明日は装備買いに行って次潜るのは明後日かな」

「今はお前一人分じゃないんだからな」


 そう言ってロックはリレリアに視線を向ける。

 そしてそのまま他の客に呼ばれて離れていった。

 

 なお普通に俺の能力のことを話しているが、ロックには説明しておくことにしたので問題ない。

 そもそも魔族である夜の王(ノスフェラトゥ)について知っていたロックである。

 リレリアがヴァンパイアであることも気づいているし、それなら俺の秘密も一つぐらい背負わせても問題無いと思ったわけだ。


 まあなんでそんなことを知っているのかは未だにはっきりとしていないが。


「うまいか?」

「美味しい。ありがと」


 俺の問いにそう短く答えてもくもくと食事を続けるリレリアだって人に話せない事情がある。

 色んな事情を抱えたやつが集まるのがダンジョン都市。

 他の都市で大貴族の息子をやってたのにその生活が窮屈で飛び出してきたやつとか、職人家系だったのにその血に対する期待が重たすぎてこっちに一人で移り住んできたやつとか。

 

 色んなやつがいるのだ。

 秘密を抱えたやつだって何人いたっておかしくない。

 そういう意味では、俺達が秘密を抱えているのも特におかしな話ではない。

 

「ルーク、一つ気になる話がある」

「ん?」


 と、俺が物思いにふけっていると、料理を提供してカウンターに戻ってきたロックが話しかけてきた。


「どうも、お前たちを探ってるやつがいるらしい」

「俺達を?」


 予想外の言葉に、俺は首を傾げる。

 俺達を探っている、と言ったって一体なんの用事で探るのか。

 俺はまあ特殊な能力は持っているが、魔法なんて千差万別で唯一(ユニーク)なスキルを持っている探索者も多数いるし、そんな目をつけられるほどのものでもないはずだ。


「ああ。正確には、そっちをな」


 そっち、と言いながらロックが視線を一瞬向けた先には、大きな塊肉にかぶりつくリレリアがいた。


「……まじか?」

「まじな話だ。まだここまではたどり着いてねえみたいだが……気をつけておいた方が良い」


 ロックの言葉に、俺もまた視線を隣に向ける。

 流石に二人から見られて気になったのかリレリアもこちらを見ながら首を傾げている。

 なお肉から口は離していない。

 後で俺の血を飲むのに食欲旺盛だことで。


「……引っ越すかな」

「金があるならうちより良い宿も取れるだろうさ」

「いや、そういうことじゃなくてな」


 俺の言葉の真意に気づいたのか、ロックは眉をあげる。


「ルサーナを出ていくつもりか?」

「ちょっと検討してみた程度だけどな」


 前から少し考えていたのだ。

 ガバメントの受付にそれなりの量の魔石を持ち込んだ際に職員に怪訝な目を向けられてから。


「ここは俺の名前が悪い意味で知れすぎてる。まともに探索者をやっていくのは、ちょっと難しいかもしれんと思ってな」

「なるほどな。……まあそんときは、盛大に送り出してやるよ」


 まだあくまで検討段階に過ぎないが。

 ある程度お金が溜まったらリレリアと共にこのルサーナを出ていき、他のダンジョン都市に向かう。

 俺はそんなことを考えるようになっていた。 



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