第10話 先へ
俺のパーティーにリレリアが加わった。
パーティーに加わったというか加えざるを得なかったというか。
まずは俺の現状だが、パーティーから追い出されてすぐではあるが俺は別のパーティーに参加するつもりでいた。
そう、既に過去形である。
俺は現在、新しいパーティーに雑用係として参加するのを一旦見送ることにしている。
理由はいくつかある。
まず一つ目が、リレリアという厄ネタを背負ってしまったということ。
正直なところ、魔族という存在を懐にいれておくことでどのような影響があるのか、今の俺は理解しきれていない。
どの程度の人が魔族という存在を認知しているのか、あるいはどの程度の人が危険視しているのか。
そんな情報が何も無い状態だ。
そんな状態でリレリアを連れたまま、どこかのパーティーに参加するという選択肢は取りづらい。
リレリアの戦闘形態で使用している血の手は人間やその他亜人族の探索者でも持っていないものだから確実に目立つし、パーティーとして組んでいれば追及される可能性が高い。
そしてその場合にどう説明するのが最適か俺はわからないし、そもそも説明しても良いものなのかどうかもわからない。
だからしばらくリレリアの面倒を見ると決めた以上は、パーティーに参加することは出来ない。
これが一つ目の理由だ。
そして二つ目の理由。
これは単純だが、リレリアのおかげで俺が単独でも、正確にはリレリアとペアでダンジョンに潜っても、モンスターを十分に倒して稼ぎを得ることが出来るようになったことだ。
そもそも俺がパーティーに参加して探索者兼雑用係として働いていたのは、俺個人が探索者として稼ぐほどの能力を持っていなかったからだ。
物資の運搬や雑用をこなすポーターよりも確実に稼ぐ収入の多い探索者。
だがその分求められるのは高い戦闘能力で、ステータスの数値が探索者としてやっていくのが困難なレベルで低い俺はとてもではないがその水準を満たすことは出来ない。
そこで俺は、探索者待遇としてパーティーに参加した上でポーター以上の雑用をこなすことで、探索者相当の稼ぎを得てきた。
新人探索者の無知につけ込んでいるといえばつけ込んでいる部分はあるのであまり褒められた方法ではないが、その分の働きはきっちりとやっていたので許してほしい。
まあ許されていたら追放などされていないだろうが。
だが今現在俺は、十分に探索者としてやっていけるだけの戦闘能力を、リレリアと一緒にダンジョンに潜るという条件下に限ってだが発揮することが出来る。
故にリレリアとこれからも行動を続けるなら、当面パーティーに入る理由が俺には無いのである。
リレリアの隠匿と探索者として稼ぎの確保。
この二つの理由から、俺はパーティーに入ることをやめてリレリアとパーティーを結成した、というわけだ。
なおダンジョン都市においてパーティーの結成というのは、特にどこかに申請する必要は無いものである。
冒険者互助組合などの結成となると、色んな義務や権利などが発生したり相応の戦力を抱えることになったりするため|ダンジョン都市統治機関に申請して承諾される必要があるが、その日その日で結成したり解散したりするパーティーについてまでは、ガバメントも管理の手を入れてはいない。
そこに目をつけたというわけではないが、パーティーを組む限りにおいてはリレリアのことがどこかに露見する心配はないというわけだ。
「ま、そもそもここは身分証明とかは結構緩い町だしな」
『多少なりとも管理したほうが良いように思うが、毎日ダンジョンで消えていく探索者のことを思えばガバメントも管理しきれんのだろうな』
そんなわけでリレリアの方についてもひとまずの方針が決まったところで、俺とリレリアはいつもより少し深い階層へとやってきていた。
まだ上層の範囲内だが先日戦った場所と比べればいくつか下の層になる。
ちなみに現在判明しているダンジョンの構造としては、第一層から第一〇層が上層、第十一層から第二十層が中層、第二十層から第三十層が下層、そしてそれ以深が深層と定義されている。
この定義は、ガバメントが探索者が探索を行い持ち帰った数多の情報を買い取る形で集約し、まとめ上げた際に決定したものだ。
上層から中層、中層から下層の間には明確に出現するモンスターの強さの差が存在し、また地形が大きく変化したりとある程度区切られているため便宜的にそう名付けられている。
今のところ、上位冒険者ギルドやパーティーの探索でも深層の次に該当するエリアは見つかっていないようだが、発見されたときにはまた新しく区分名がつくことになるのだろう。
そんな中で今回俺達が来たのは第六層。
中層には該当しないが、上層の中ではかなり強い能力が必要とされる階層だ。
先日戦ったのは第一層なので、そこと比べると遥かに上。
だが、今の俺の戦闘能力は。
正確にはフェルの窮地状態の判定が出た際の俺の戦闘能力は、それすらも凌駕する。
「来た」
リレリアがつぶやくと同時に、壁に罅が入りモンスターが出現する。
この階層からは第一層のような小型のモンスターだけでなく、ミノタウロスやシルババック、オルクといった人よりも体格の良いモンスターが複数出現するようになる。
とはいえそいつらが湧くのは基本的に単体。
ダンジョンがモンスターを生成するにはある程度総合力の縛りがあるようで、強力なモンスターならば少数、そこまで強くないモンスターならば多数生成されることが多い。
そして今回は後者だった。
壁から多数の大型のアリが這い出してくる。
キメラアントと呼ばれる、体の一部に他のモンスターの特徴を持つモンスターだ。
数は二十体以上とかなり多いが。
「その程度じゃあな!」
体表は硬すぎて斬り裂けないので、関節の隙間などに剣を突き込んで討伐していく。
リレリアはリレリアで、背中から生やした触手で次々とキメラアントを貫き葬っていく。
俺が一体倒す間に二体以上倒しているのは、別に俺の手際が悪いとかじゃなく、リレリアの能力が便利で自由自在すぎるからだと主張させてもらいたい。
そんなよそ事を考えていたからだろうか。
「あ゛っ!? 剣んーーー!」
キメラアントの関節を狙った突きが僅かにそれて体表に直撃し、剣があっさりポッキリと折れてしまった。
元からろくに戦闘はしないし安値で買った剣を使っていた。
だから俺の戦闘能力の上昇についてこれなかったのだろう。
おそらく今の状態だとステータスも大きく跳ね上がっているだろうし。
『ルーク、足を使え!』
「言われなくても……!」
仕方ないので剣を放り捨て、体高の低いキメラアントに踏み潰す方向に蹴撃を加える。
グシャッ、と足元で嫌な感覚がするが、潰せるならそれで十分だ。
「うおおおーーー! 死ぃねぇーー!」
気合を入れて一発、潰れなかったのでもう一発。
俺の第六層での初戦は、そんな間抜けなものになってしまった。
地上に帰ったら良さげな武器買わないとな。